一つ前のエントリに続き、私のゲヴァントハウス訪問記を。ここからはコンサートの感想です。
ゲヴェントハウス管弦楽団といえば、先月来日公演があったばかりです。「ザ・独墺系」という旧来のイメージから変化しつうある、というコンサート評も見かけたので「どないな響きがするんやろ」と思っていましたが、実際ホームのゲヴァントハウスで聞くとやっぱり「独墺系」でしたね。安心しました。会場のアコースティックも「旧東独時代の建築物だから」とあまり期待していなかったのですが、想像以上に良かったです。私の席は舞台裏側の最前列(18,4ユーロ!)でしたが、暗くて落ち着いた響きの質感は悪くなかったです。日本のホールとの比較でいうと「強いて言えば東京文化会館に近いかな」と。
1曲目はヴォルフガング・リームの作品「Ernster Gesang」。舞台前方、指揮台の両脇にクラリネット4本とイングリッシュホルン奏者一人が控えるという変則配置。オーボエがない曲ということで、クラリネットが「ポーー」と鳴らしてチューニングの音頭を取っていました。リームの曲の印象は、ひとことでいえばロマンティック。ところどころアルバン・ベルクになったり、タケミツになったりしながらも、艶やかでデリカシーのある佳作だと思いました。あとゲヴァントハウスの奏者たちが聞かせてくれた音の響き、そして重なり具合の「妙」が印象的でした。このリアルな質感は、なかなかラジオや録音からは伝わってこない類のものです。私はいつも「現代作品こそ生で聴かねば」と思っているのですが、今回それを再確認しましたね。
会場からの拍手を受けたプレヴィンは、指揮台上に置かれた椅子に腰をかけたまま次の曲の準備が整うのを待ちます。団員が配置についたところで独唱のフェリシティ・ロットが現れ、R・シュトラウス「カプリッチョ」からの音楽が始まりました。私は終始ロットの背中を見て聞く格好になったので(苦笑)、歌唱について云々するのは困難かと思います。ただ音楽の持つ「ストーリー性」は、はっきりと感じることができました。そしてオケも素晴らしかった!ハーモニーには暖かみがあり、旋律線には柔らかみがあります。シュトラウスはこうでないと。ちなみに最前列に座っていたので、パート譜が見えたのですが、「カプリッチョ」の譜面は茶色がかっていて、しかも手書きでした。「もしかして作曲者の存命当時から使われてる所蔵譜かも」と思ったり。
休憩時間にはビール片手にロビーをうろうろ。ニキシュのレリーフや歴代のゲヴァントハウスの模型などを見物して時間をつぶしておりました。
メインはブラームスの「交響曲第4番」。ここで聞いた第1楽章の音楽を、わたしは一生忘れることがないでしょう。すべての音が泉のようにわき出て、溢れた水が川の流れを作り出していくような、そんな音楽でした。みずみずしくてニュアンスに富んだ各声部が、それぞれ自己主張を繰り返しつつ音楽として一体感し前進する。このような音楽こそが交響音楽の究極といえるでしょう。それが突然目の前に現れたのです。すごく嬉しかったですね。それは客席も同じ思いだったみたいです。古くからの音楽ファンが多い(ように客席を見渡して思った)ゲヴァントハウスの聴衆からも、第1楽章終了後に(わずかながらも)拍手が漏れたくらいですから。第2楽章以降は音楽がやや「平常運転」のようになったり、指揮者の棒とは無関係に音楽が動いたりしたりと、やや弛緩したところもありましたが、それにしても第1楽章がとても見事だったので、わざわざ遠路はるばる足を運んで良かったヨカッタ、と思いつつサンタ帽を被ったヨッパライ達をかきわけながらホテルに向かったのでした。
(Program Note)
Gewandhausorchester Leipzig
Conductor: André Previn
Soprano: Dame Felicity Lott
Venue: Gewandhaus Großer Saal, Leipzig
Date: December 4, 2009
1. Rihm: Ernster Gesang für Orchester
2. R.Strauss: Mondscheinmusik & Schlussszene aus der Oper "Capriccio"
3. Brahms: Sinfonie Nr.4 e-moll op.98