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2009.08.30

イシュトヴァン・ケルテスをウェブラジオで聞く

 ハンガリーのクラシック音楽専門チャンネル「バルトーク・ラジオ」(Bartók Rádió)は、オンエアした番組を1週間オンデマンド配信してくれるので、いつも重宝しています(バイロイト音楽祭のときは特に)。で現在ネット配信している放送のなかに、イシュトヴァン・ケルテス(1929-73)が指揮したハンガリー放送響のライブ録音があって、これが実にいいので紹介したいと思います。

 ケルテス&ハンガリー放送響のライヴはこちらで聞けます
その1その2その3

(※)おそらく9/3(木)までの期間限定です。

 ケルテスと彼の演奏については、このブログの読者ならよくご存じだと思います。将来を嘱望されながらも不慮の事故(しかも水の事故)で早世した、という悲劇も含めて彼に対して熱い想いを抱く音楽ファンは多いと思います。

 実は私はケルテスに関してはあまりCDを持っておらず(すみません…)、名盤の誉れ高い「新世界」も2、3回しか聞いたことがありません。それでもケルテスが「凄い指揮者」だと思えるのは、日本フィルを指揮したバルトーク「管弦楽のための協奏曲」のDVDを見たから。私はハンガリーに行ったこともないし当然ハンガリー語はしゃべれませんが、でも彼のバルトークには「なまり」があるように感じられます。「あっ、ハンガリー人はこの旋律を、こんな節回しで表現するのか」という「発見」がいくつもあって、聞いているうちにそんな体験が積み重なると、ものすごい郷愁が沸き起こる。「バルトークもニューヨークで、こんな思いだったのかも…」と思ったりしながら。
 
 ネット配信の音源の話に戻しましょう。1970年6月4日、リスト音楽院でのライヴはモーツァルト「ディヴェルティメントニ長調」(K136)で始まります。これは刺激的なモーツァルト演奏に慣れた耳にはやや物足りなく感じるかもしれません。しかし2曲目のシューベルト「交響曲第5番」になると、その心地よさ、人肌のような温もりある音楽に魅了されます。そしてシューベルトの「未完成」や「グレイト」以外の交響曲にも、愛すべき箇所が沢山あることを発見するでしょう。

 メインはブラームス「交響曲第4番」ですが。第1楽章冒頭のヴァイオリンの登場のしかた、木管楽器の重なり具合、中音域のハーモニー、すべて完璧です。そして音楽に「気配」があるし、旋律に「息吹」がある。何よりブラームスだからと声高にならないところが良い。ケルテスならではの、語りかけるようなブラームスといっていいでしょう。こんなヒューマンな演奏が1970年のブダペスト、共産主義下の鉄のカーテンの向こう側で行われていたとは…。想像すると泣けてしまいそうです。

 第2楽章も良い感じで進んで、第3楽章です。これはちょっとテンポが速くて少々面食らいました。でも楽しい、底抜けに。「喜怒哀楽」の「喜」を音にするとこんな感じになる、みたいな。そして300小節目あたりからケルテスの音楽は更に明るさと輝きを増していく。なんて陽気なディヴェルティスマン(嬉遊曲)だろう!

 そこで第4楽章がアタッカでやってくる。いきなり管楽器によるシャコンヌ主題が、憂いを帯びた悲劇的な調子で来る。この「喜」から「憂い」への劇的な変化がすばらしい。あとブラ4のフィナーレは最初から「熱い」演奏が多いのですが、ケルテスは前半は「熱さ」控えめで抒情性を引き立たせます。その代わり長調の中間部を経て主題が戻ってからの後半部は相当にパッショネート。そのあたりの劇的構成力も見事です。最後の音が鳴り止んでからの観客の熱狂的なリアクションも納得。

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Comments

ばってん様こんにちは。

私と感動を共有できて嬉しいです。ほんと良い演奏ですよね。今日には聞けなくなるのが勿体ない。CD化を切望します。

Posted by: おかか1968 | 2009.09.04 07:55

ケルテス&WPOのブラームスSym全集はぼくの最も愛する録音ですが(ハイドンヴァリエーションは彼を偲んでWPOが特別に録音したとか)、このハンガリーRSOとのブラ4はWPOとの録音を遥かに超越していますね。音楽が彼らの心からの言葉になっています。ケルテスとオケがブラームスを奏でることへの絶対的な協調と言うか連帯感みたいな関係が、奇跡的な響きになっている!ぼく的には今迄最高のブラ4です。レニー&WPO、チェリ&ミュンヘンPOの演奏を凌駕しています。オンデマンド放送でこのまま期間限定で消えてしまうのは、あまりにも惜しい演奏です。

Posted by: ばってん | 2009.09.04 02:37

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