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2009.06.16

辻井伸行について「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が賛否両論のコラムを掲載

 読者の皆様もご存じの通り、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで日本から出場した辻井伸行が、中国出身のHaochen Zhangと第1位を分け合いました。この結果については、日本だけでなくアメリカでもかなりの関心を呼んでいるようです。ただ日本のマスコミの喧噪ぶりと異なり、米国の一般紙では今回の結果そのものを分析する内容の論調が目立ちます。

 中には、審査員のジャッジに異議を唱える論評もあります。ラヴェルの評伝などの著作がある音楽評論家、ベンジャミン・イヴリー氏による「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のコラムがその代表格でしょう。公式サイトからネット配信されている動画を見たイヴリー氏は「もっとも音楽的に成熟していて感受性の高い」Di Wu氏が賞に漏れたことが「ショッキング」と述べるとともに、第1位の辻井氏を「学生レベル(student-level)」「多くのものを要求されるレパートリーでは全く深みに欠ける」と酷評しました。さらにファイナルで彼が演奏したラフマニノフの協奏曲を「悲惨(disaster)」と表現したイヴリー氏は「指揮者のアインザッツを見ることのできないソリストは公の場でコンチェルトを演奏するべきではない( Soloists who cannot see a conductor's cues should not be playing concertos in public)」「プロモーターなら音楽演奏を見せ物に仕立て上げることなど朝飯前だ。(思慮深いはずの)アンドレア・ボッチェーリをオペラ公演の舞台に上げているくらいだから」とまで述べています。

 この差別発言気味の毒舌コラムの2日後、おなじ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が、こんどは(イヴリー氏と異なり)辻井氏に好意的なコラムを掲載しました。ここではコンクール期間中、辻井氏の演奏のあと会場がスタンディング・オヴェーションに包まれた、と聴衆たちの熱狂ぶりを伝えています。そして辻井氏が敢えて難易度の高い「ハンマークラヴィーア」をコンクール曲目に取り上げたことを賞賛する専門家のコメントもあります。また「ハンディキャップを持つ辻井氏に点数が甘くなったのでは」という一部からの指摘に対し、今回コンクールで審査員を務めたヴェーダ・カプリンスキー氏が「彼の正直さ、率直さ、そしてすばらしい音楽性に、審査員は感銘を受けた」と反論しています。

 読者の皆様も今回の結果について、様々な思いをお持ちかと思います。私は同じ新聞紙が賛否両論のコラムを相次いで掲載するという「事実」が、大変興味深いと思いました。

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