伝説のヴァイオリニスト、カミラ・ウィックス。そして知られざる巨匠、カルステン・アンデルセン
カミラ・ウィックス(1928年生まれ)といえば、シクステン・エールリングらとの共演によるシベリウス「ヴァイオリン協奏曲」の録音でご存知の方も多いと思います。わたしも韓国EMIによる再発盤で持っています。ただこのCD、聞き始めるとピッチが普通よりも高いようで、どうも落ち着かない。ということで途中で聞くのを止めてしまいそれっきり、という状態です。
で先日CD店をウロウロしていて見かけたのが、ウィックスの過去の放送録音を集めたアルバム(→HMV)。ノルウェー国営放送との共同制作とのことで、そのことを示す「NRK」ロゴがジャケットに印字されています。わたしは毎日のように「NRK」の提供するネットラジオのお世話になってますので、受信料を払うつもりでゲットしました。シベリウスは前述の理由からきちんと聞いてませんので、これが私にとってカミラ・ウィックスを知る初めての機会ということになります。
でウィックスの演奏なんですが、彼女は類い希なテクニックと、それと比肩する表現力を併せ持った、実に理想的なヴァイオリニストといえるでしょう。なにより1曲目のグラズノフの協奏曲が、本当に惚れ惚れします。しつこさのない、それでいて印象に残るカンタービレと、早いパッセージでの処理のそつの無さ。そして聞いた後には「こんなにグラズノフっていい曲だったっけ!?」という幸福感が残ります。このグラズノフの協奏曲、チャイ・コンやメン・コンほどの知名度はないけど、それなりの頻度では演奏されてるし、わたしも何度か耳にしています。でも「なんかもっさりした曲だなぁ」というか、イマイチ好きになれなかったのですが、この録音はそんなイメージを一新してくれます。曲全体を覆う、大切な何かを秘めたようなロマンティシズムが素敵です。そしてフィナーレ冒頭部のあのトランペット。実に印象的に響きます。
となると、ウィックス以外の奏者にも温かな眼差しを送りたくなります。このディスクのもう一人の主役は、指揮者のカルステン・アンデルセン(写真右。左はカミラ・ウィックス)です。彼の演奏解釈は、声高に何かを主張するといったものではなく、終始堅実かつ節度を保っています。しかしその落ち着き払った表現が、音楽に一定の品格を与えています。上質の布地で仕立てられた紳士服のような演奏、といったところでしょうか。ということで彼の指揮する演奏を、もう少し聞いてみたくなりました。アンデルセンはかつてのベルゲン・フィルのシェフですから、「NRK」には彼の録音テープがあるはず。独墺系の演奏とか残ってませんかね。
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