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2009.03.13

冬の旅のお次は空中散歩で

 先週末の東京遠征の続きです。7日(土)の「冬の旅」に続いて8日(日)は、初台のリサイタルホールで「MoVEヴォーカルアンサンブル」のコンサートを見てきました。オール現代音楽でしたが、面白い音楽をいっぱい体験できましたし、なによりシュトックハウゼン「私は空を散歩する」の日本初演の場に立ち会えうという、貴重な経験をすることができました。

 まずは前半に演奏された4曲について。北爪やよひ「おとのはうたⅡ・・ある日ある朝」は3人の異なる属性を持った奏者たち(ホルン、ソプラノ、バリトン)が、どれだけユニフォームで均質なサウンドを奏でることが出来るかを追求したような作品。特に第1章での、松平敬によるホルンの形態模写は見事でした。一方、森田秦之進「でんでらどらごん」はいかに一つの旋律(長崎地方の童謡「でんでらりゅう」)をメタモルフォーゼさせるかに力点を置いた作品。徳久ウィリアムのヴォイス・パーカッションに引きずられ、巻き込まれる2人の歌手の熱演は聞きものでした。坪能克裕「ドゥオ オペラ No.3 『私は…』」は性同一性障害を抱えた2人の登場人物を通して、男女の「同一性」を問う作品。そしてロクリアン正岡「南無阿弥陀仏」(・・・・・・・わが師、松村禎三に捧ぐ・・・・・・・)ですが…。これは実にインパクトがありました。紋付き袴で登場したテノール歌手とチェロ奏者。そして「南無阿弥陀仏」を唱え続けるテノールと、ひたすら「ド」(C)音だけを弾き続けるチェロ奏者。やがて音楽が高揚するとチェロは「シ」(B)へと音を変化させる…。「C」→「B」への移行が、R・シュトラウス「ツァラトゥストラはかく語りき」に似てるなぁと思いましたが、プログラムノートによると、この「シ」は師匠・松村禎三が天界から出迎えに降りる様を表現している、とのこと。あとこの作品を演奏するためだけに、あの安田謙一郎を起用したというのは、私にとってかなりのサプライズでした。

 演奏会の後半は、シュトックハウゼンの「私は空を散歩する」の1曲のみ。50分を要する大作ですが、長さを意識することなく、あっという間に時間が過ぎていきました。それだけ太田真紀と松平敬によるパフォーマンスが面白かったといいますか、「やっぱりシュトックハウゼンてすごいな」と素直に思ってしまいました。前半の日本人作品は4曲とも印象的でしたし、色んな創意工夫が楽しめたんですけど、それでも作品の充実度でいえばシュトックハウゼンが群を抜いていました。彼の作品は日本人たちの誰よりも構成がしっかりしているし、それでいて誰よりも自由なんですよ。

 「私は空を散歩する」は、二人のパフォーマーが対面しながら演じるシアターピースです。12音セリーに基づく旋律を口ずさみながら、楽譜指定に基づくと思われる所作を同時に行います。その指示は多岐にわたり、「小話」を話すよう演者に要求する箇所まであります。ただストーリーの選択は演者の裁量に任されていて、この日は日本語で「鶴の恩返し」が披露されました。松平敬がこの童話を取り上げたのは、鳥が飛翔するようなイメージを呼び起こす、この作品の性格に合わせてのことでしょう。二人は、時には実際に両手を羽ばたかせながら、作品の持つ「飛翔」するイメージを確実に具現化していました。そして、この作品の最後に演者2人が舞台袖に引き揚げて声を上げる場面…。ここで私は「睦み合う男と女」というイメージを強く喚起させられました。あのシュトックハウゼンの音楽から、官能性を感じることになろうとは…。「私は空を~」は、聞き手に様々なイメージをかき立てる、イマジネーション豊かな作品でした。そして曲の有り様を誠実に伝えた2人のナイスパフォーマンスは、いくら賞賛しても足りないでしょう。

(Program Note)
Exibition of Contemporary Music 2009 [5]
MoVE Modern Vocal Ensemble Concert
Date: March 8, 2009
Venue: Tokyo Opera City Recital Hall
Organized by Japan Society for Contemporary Music

1.Yayoi Kitazume: OTONOHA ~ UTA II・・ONE DAY ONE MORNING - for 2 Voices (Soprano & Baritone) and Horn (2008, premiere)
2.Yasunoshin Morita: Den de la Dragon (2008, premiere)
3.Katsuhiro Tsubonou: Duo Opera 「I'm a …」 (2008, premiere)
4.Locrian Masaoka: NaMuAMiDaBuTsu - by tenor and cello For Teizo Matsumura, my mentor (2007, premiere)
5.Karlheinz Stockhausen: Am Himmel wandre ich (1972, Japan premiere)

Maki Ota (Soprano, 1-3,5) Takashi Matsudaira (Bariton. 1-3,5) Atsushi Doyama (Horn, 1) William Tokuhisa (Rythm vocal, 2) Yoshiko Kanda (marimba, 3) Katsuya Miura (Director, 3) Hiroshi Onuki (Tenor, 4) Kenichiro Yasuda (Cello, 4)

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