永遠の春。そして踊れ!ベートーヴェン
ヴァネッサ・ラン(Vanessa Lann)という人が書いた「スプリング・エターナル」(Spring Eternal)という曲を、ウェブラジオで聞きました。ヴァイオリンとピアノによる二重奏曲で、演奏はパトリツィア・コパチンスカヤと大井浩明という「曲者」二人。ストリーミングの接続状況があまりよろしくなくて音が途切れ途切れだったけど、音楽は何とか楽しめました。
「春という題名(または渾名)の付いた曲は?」と尋ねられて、ヴィヴァルディやハルサイとともに、ベートーヴェン「ヴァイオリンソナタ第5番・春」(作品24)を挙げる方もたくさんおられるのではないでしょうか。川の流れのような流麗な旋律を持つ第1楽章が印象的ですが、一陣の風のように過ぎていく短いスケルツォ楽章(第3楽章)も「あれっ、もう終わっちゃうの!?」「もっと聞いていたいのに…」と感じさせる、独特の魅力があります。ヴァネッサ・ランの「スプリング・エターナル」は、そんな一音楽ファンの願いを叶えてくれた(?)作品です。「スプリング・ソナタ」スケルツォの一節が何度も何度もリピートされ、さらに様々なノイズ成分が乗っかっていきます。溝の切れたLPを聴いているような、不思議な感覚。絶え間なく続くベートーヴェンとノイズの連続に「本当に永遠に続くんじゃ…」と思わせたところで、ピアノの不協和音で強制終了。人を食ったような、いかにも大井氏が演奏しそうな作品です。
この「スプリング・エターナル」、大井氏が昨年4月から行ってきた連続演奏会「ベートーヴェンフリーズ」と繋がっていると思います。彼はベートーヴェンのピアノソナタ全曲、フランツ・リスト編曲による交響曲全9曲とともに、日本人作曲家の小品の数々を歴史的フォルテピアノで奏でてきました。それらは連続演奏会のための書き下ろされた新作なのですが、鈴木光介氏の「Even Be Hot」のように、楽聖の作品を大胆にコラージュした曲もありました。ベートーヴェンのソナタの音符をフードプロセッサに掛けてペースト状にしたような、これまた何とも言えない不可思議な曲でして、私は断片からかすかに聞こえるベートーヴェンの「カケラ」を発見してニヤニヤしていたんですけど(笑)、「スプリング・エターナル」もコンセプト的には「Even~」と「類似作」と言えなくもありません。「洋の東西で似たような、オモロイことをやっているなぁ」と、大井氏の幅広い活躍ぶりに改めて驚嘆した次第です。
「ベートーヴェンフリーズ」が、今月25日(水)に最終回を迎えます。メインはリスト編曲の「第九」なのですが、野村誠氏(個人的には、NHK教育「あいのて」での弾けっぷりが脳裏に焼き付いてます)の新作「ベルハモまつり」の世界初演もあります。私は残念ながら不参加です(嗚呼、わが多忙な日々…)ので、みなさん私の代わりに聞きに行って下さい(笑)。
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