「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」の充実ぶりがすごい
以前から愛用している「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」(NML)ですが、最近収録アルバム・タイトル数だけでなく、その内容も一層充実してきているようです。ピュア・オーディオ志向の強いファンでなければ「NMLに登録していれば、とりあえず事足りるかも」と思えてしまうほどです。
たとえば先月、日本の独立系レーベル「マイスターミュージック」がNMLに新たに加わりました。このレーベルはドイツの「トーンマイスター」の資格を持つプロデューサーが真空管マイクを使ってレコーディングするという、独自技術の録音で知られていますが、そんな音に「こだわり」を持つレーベルが(意外にも)インターネット音楽配信に参入するというところに、音楽配信ビジネスの底辺の広がりを感じずにはいられません。この「マイスターミュージック」からは、日本におけるヴィオラダガンバの第一人者である平尾雅子さんの録音が出ています。バッハ以前のドイツ音楽に焦点を当てた「ダニューヴ河のこだま」、南蛮貿易が盛んだった安土桃山時代に「日本でもこんな音楽が演奏されていたかも…」とイマジネーションを膨らませて出来上がったコンピレーション・アルバム「空想 安土城御前演奏会」、どちらもおすすめです。
次はドイツのレーベル「Wergo」です。この会社は主に現代音楽を中心にリリースしているのですが、そのカタログの中にポツポツと「純クラシック」が混じっていて、またそれがマニアの間で評判だったりするのが面白いところです。そんなファンの支持の高いアルバム、ユリウス・ベルガーのバッハ「無伴奏チェロ組曲」とハンス・ロスバウト指揮南ドイツ放送響のマーラー「交響曲第7番」が、ともにNMLに収録されています。独特のリズム感、独特の節回しでバッハの世界に切り込んでいくベルガー、1950年代の古い録音だけど、やたらクリアでやたらモダンという、不思議な触感のあるロスバウトのマーラー。どちらも面白いです。
そしてギュンター・ヴァントがミュンヘン・フィルを指揮した一連のライヴ録音もNMLにあります(レーベルは「Profil」)。その中でも注目すべきは、数年前に海賊版でリリースされるや否や「これぞベスト」「ベルリン・フィルとの正規盤よりもずっと良い」とファンから大絶賛されたブルックナー「交響曲第9番」でしょう。実はこの海賊盤が話題となった頃、私も手に入れて聞いてはみたんですけど、「やはり海賊盤」というべきか、正規盤と較べて音が雑なところが気になってしまい、結局は中古店に売りさばいてしまったのです。ですから「正規盤クオリティの音質で、改めて聞いてみたい」とオフィシャルな形でのリリースを切望していたのですが、それが今年になって、ようやく叶ったわけです。
で聞いてみますと…。正規盤化で、これだけ音のイメージが変わるとは思いませんでした。オーケストラ・サウンドが実にリアルで、瑞々しい。そしてチェリビダッケ時代のミュンヘン・フィルを特徴づける、独特の艶を帯びたストリングスが、はっきりと感じ取れるのです。
このライヴにおけるヴァントの音楽解釈は、以前私が同曲別演の感想記事で書いたときと、さほど変わらないと思います。3年前私は、ヴァントの演奏について「ブルックナーの壮大な音響は保持しつつも、楽譜に記された音を全て明瞭に、そして『生きた音』として聴かせる」「音の洪水の中で埋もれがちな管楽器の音(ホルンや、場合によってはフルートまで)が、はっきりと明瞭に、そして説得力ある音で聞こえてきます」「それが強奏部での響きをまろやかにし、独特の艶を与えています」などと記しました。その基本線はそのままで、さらにミュンヘン・フィルの魅力的で充実したサウンドが乗っかるのですから、本当ににたまりません。まさに「究極の耳の贅沢」です。「シンフォニーかくあるべき」と言いたくなります。
ということで、これまでは「マイナー作品を手っ取り早く検索して聞いてみよう」的な利用のしかたをしていたNMLですが、これだけ「名盤系」まで充実してくると「なんかいい演奏ないかなぁ。とりあえずナクソス・ミュージック・ライブラリーでも探してみっか」的利用法も可能になってくるわけで、これだけ「ネット上にある超巨大ジュークボックス」であるNMLの存在感が増してくると、既存のCD店はどうなってしまうのか、本当に心配になってきます。ということで「CDショップもガンバレ」と、敢えて声を大にして言いたいですね。
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