フランツ・ウェルザー=メストを批判し続けた音楽評論家 クリーブランド管のレビューを禁じられたことを不服としてオケなどを提訴
クリーブランドの地元紙「Cleveland Plain Dealer」で16年間クリーブランド管弦楽団のレビューを担当していたドナルド・ローゼンバーグ(Donald Rosenberg)氏は、30年も地元を中心に音楽評論を続けるベテランで、同楽団をテーマにした本「Cleveland Orchestra Story "Second to None"」の著者でもあります。そんな「大物」批評家が今年9月、突然同楽団のレビュー担当から外されてしまいました。ローゼンバーグ氏はクリーブランド管の音楽監督を務める指揮者、フランツ・ウェルザー=メストに対する辛辣なレビューでも知られていて、現地では「ローゼンバーグ氏の度重なるW=メスト批判が影響したのではないか」「誰かが『口封じ』に動いたのでは」などと囁かれました。
そんな中、ローゼンバーグ氏が今月「Plain Dealer」紙と同紙の編集長、クリーブランド管の総監督Gary Hanson氏、さらには同楽団のマネジメントなどを統括する「Musical Arts Assocation」のチェアマンらを相手取り、最低50,000ドルの賠償を求める訴訟をオハイオ州カヤホガ郡の民事裁判所に起こしました。訴状で同氏は、自らが職を解かれたことについて「Plain Dealer紙と楽団関係者が共謀して意図的に仕組んだ報復行為であり、これは違法である」と主張しています。
ローゼンバーグ氏は「ニューヨーク・タイムズ」紙の取材に対し「ジャーナリストは、外部からの圧力に左右されずに活動する自由が与えられるべきだ、ということを人々に認識して欲しい」とコメントしています。
同氏は今回の訴訟について、あくまでも楽団組織に対して起こしたものであって、決して音楽家をターゲットにしたわけではない、と述べていますが、原告側が証言録取(裁判での証言)を求めている人物のリストには、W=メスト氏の名前も含まれています。
(参照)
WCPN - Music Critic Sues Employer, Orchestra Officers. (December 11, 2008)
Baltimore Sun, Clef Note - Cleveland critic who dared criticize is reassigned. (September 18, 2008)
Baltimore Sun, Clef Note - Demoted Cleveland critic sues paper, orch. leaders. (December 11, 2008)
New York Times - Plain Dealer’s Music Critic, His Beat Changed, Sues Paper and Orchestra. (December 11, 2008)
(関連記事)
Music Critics Association of North America - Latest News.
↑ローゼンバーグ氏の件で、北米音楽批評家協会(MCANA)が「Plain Dealer」紙宛に送った質問状(スクロールすると出てきます)。NYタイムズ紙のAnthony Tommasini氏、元ワシントン・ポストのTim Page氏、そして「The Rest Is Noise」のAlex Ross氏ら、米国とカナダの有力批評家たちの連名による書簡です。
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Comments
潮博恵さまこんにちは。
確かに地元紙の専任ライター一人にレビューを任せるというのは、危険な要素はありますよね。
しかしアメリカではそれが「当たり前」なのでしょうし、定演にまめに足を運んでくれるレビュアーの方が、読者にとって「信頼できる」部分もあると思います。
Posted by: おかか1968 | 2008.12.12 22:35
おかかさん、こんにちは。MTT&SFSサイトの潮です。
すごい騒動ですね。アメリカの新聞ってローカル紙だから、地元オーケストラのコンサート評を一人の人がずっと書いていて、そのこと自体も問題なのでしょう。
サンフランシスコ・クロニカルだって、同じ人がMTT大絶賛の記事を書き続けていて、こっちはこっちで不自然です。
Posted by: 潮 博恵 | 2008.12.12 20:55