「レコード芸術」誌 創刊700号
「レコード芸術」誌がこのたび、創刊700号を迎えました。読者の一人として、心よりお祝い申し上げます。
正直一時は思うところあって、この雑誌を手に取ることを意識的に避けてたこともありました。でも最近は「海外版試聴記」で輸入盤をチェックするのが毎月のルーチンワークになっています。ブログ時代になって、私たちが目にする情報量は飛躍的に増大したように思えますが、クラシック音楽に限っていえば、情報の「幅」ってそんなに広がってないような気が個人的にはするんです。そして海外のCDを精力的に追っかけてるブログて意外に少ないんですよね。ですから、ファンの多いアーティストによる話題盤から「こんなの誰が聴くんだろう?」と思わないでもない「超ロングテイル」的でニッチなアルバムまでがバランス良く紹介されている「海外版試聴記」は実にありがたい存在なのです。出版業界は不況続きで、雑誌の廃刊も相次いでいると聞きます。そんな中「レコード芸術」にはいつまでも、活字メディアを代表するクラシック音楽情報誌で居続けて欲しいと思います。
さて今月号ですが、特集は「第46回レコード・アカデミー賞」です。実はわたし、てっきり「今年はヒラリー・ハーンのシェーンベルク&シベリウスが大賞獲るんだろうな」と思い込んでいたので(本当に私の勝手な思い込みなんですが:笑)、その協奏曲部門で他のディスクが選ばれたこと、そしてそのディスク、ブーレーズのバルトークが大賞を受賞した理由が知りたくて、まず同誌に掲載されている審査員3人の総評から読んでみました。歌崎和彦氏はヒラリー・ハーンのを非常に高く評価していましたが(「これがアカデミー賞になるといいな、と期待していた」と書いてますし)、他の2名がブーレーズ盤の方をより高く評価していたのですね。岩井宏之氏はブーレーズの次にヒラリー・ハーンだ、という位置づけでしたが、もうひとりの選者である宇野功芳氏がヒラリー・ハーンをノミネートしなかったんですね。これで決まったんでしょう。ちなみに宇野氏はブーレーズ盤以外にジャニーヌ・ヤンセンのチャイコにも高評価を与えています。
そんな「レコード・アカデミー賞」以外にも、注目記事があります。ますは片山杜秀氏の吉田秀和賞&サントリー音楽賞のダブル受賞の記事。賞状授与の写真の下に「かなりの角度で反っている」とありますが、あの姿勢は片山氏にとって、ノーマルな立ち姿勢だと思います。「伊福部昭音楽祭」で司会をなさってたときも、かなり反ってましたよ。まあそれはそれとして、その次のページにある片山氏の自宅書斎の写真には驚嘆するしかありません。これほど本で埋め尽くされた空間というのは、私は見たことがありません。「日本随一の読書家」と云われる立花隆氏の書斎も、ここまででは無かったと思いますよ。いやー本当に驚きました。
その次頁にある、広上淳一氏の最新インタビューも注目です。広上さんがこれほど詳細に、そして赤裸々にコロンバス交響楽団のゴタゴタ劇について語ったことは、これまで無かったのではないでしょうか。そして「僕はアメリカで、日本が追っかけてきたモデルの最悪な状況を嫌というほど勉強させられました」というひと言から始まる一節にはドキリとさせられました。もっともインタビューの最後には、コロンバスとの「忘れ形見」のようなチャイコフスキーのCDを「オレを嫌いな奴でも買って欲しい」「大野和士の方が好きだって言ってる人も聴いてからけなしてくれ!(笑)」と熱烈に宣伝していて、思わず笑ってしまいました。このCD(正確にいえばSACD)、「レコ芸」誌の月評では「無印」だったのですけど、私は悪くないと思いました。特に「ロミオとジュリエット」の主部(アレグロ)は、実に丁寧に作り込まれていて好印象でした。
そしてもう一つ、「CLASSICA」の飯尾洋一氏が「総まくり-ネットで聴けるオーディオ&ヴィジュアル」で、音楽配信サイトをわかりやすく紹介しています。これだけの情報があれば、ネット音楽初心者には十分ではないでしょうか。そして「ネットでクラシック」にハマる人がまた増えるわけです。いやハマると恐いですよ。いつの間にか「マイミュージック」のフォルダが、ネットでゲットした音楽ファイルでパンパンになりますから。「この膨大なファイルを一体いつ聴くんだ!?」ていう位に。このように、録ってはみたけど一度も聞かれることの無い音楽ファイルがHDDに蓄積される様を、わたしは「音楽隠れメタボ状態」と呼んでるんですが(苦笑)。
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