2008年 このCD&DVDが良かった!
●ビゼー「カルメン」L・プライス、コレルリ、メリル、フレーニ他、カラヤン指揮
(BMG, BVCC-34150/52)
演奏内容もさることながら、マスタリングから装丁まで、これほど丁寧に作り込まれたアルバムは最近では例がないのではないでしょうか。外見も中身(演奏)も豪華そのもの。オペラ全曲盤を聴く喜びに浸れる「贅沢」なディスクです。(amazon/HMV)
●ワーグナー「マスターシンガーズ」 ベイリー、レメディオス、カーフィー他、グッドオール指揮
(Chandos, CHAN3148)
英語歌唱なので「マイスタージンガー」でなく「マスターシンガーズ」です。バイロイトと較べて合唱が弱いのが難点ですが、このCDの「ウリ」は何と言ってもグッドオールの指揮ぶりです。特に「第1幕への前奏曲」の、昨今のスタイリッシュなワーグナーと正反対の、重厚かつ濃厚な解釈は聞きものです。最初の10分でお腹いっぱいになっちゃいそう。もちろんその後もグッドオールの薫陶を受けた歌手たちによる歌唱が続きます。第3幕の五重唱ではグッと来ます。(amazon/HMV)
●ドヴォルザーク「交響曲第6番」他 エリシュカ指揮札幌交響楽団
(Pastier, DQC100)
ひとことで言えば「チェコっぽい」アルバム。「チェコっぽい」オーケストラの響きというのは、人によって様々なイメージを持っていると思うんですけど、私の場合「チェコのオケ」イコール「勤勉なオケ」というイメージなんです。どんな音符も疎かにせず、各パートが丁寧にかっちり弾いていく、それによって充実した音楽が出来上っていく、そんな印象があります。そんなチェコの管弦楽団の醸し出すムードと共通したものを、この札幌のドヴォルザークにも感じます。これはもちろんエリシュカの功績なのでしょうが、その老巨匠の要求に応えることのできる札幌交響楽団もすばらしいです。日本のオーケストラのレベルの高さを確認できる、という意味でも貴重な録音です。(amazon/HMV)
●「The Hallé 150th anniversary Featuring Sibelius Symphony No.3」
「BBC Music Magazine」(Vol.16 No.6) 付録
雑誌の付録ですが、付録にしておくのが勿体ないディスク。特にマーク・エルダーの指揮によるシベリウス「交響曲第3番」が聞きものです。感想は以前ブログに書いた通りですが、「タイムズ」紙が英国のオーケストラ・ランキング第1位に選んだのも頷ける内容です。
●「Wiener Philharmoniker Sommernachtskonzert Schönbrunn」 プレートル指揮ウィーン・フィル
(Decca, 0044007627204, DVD/PAL)
今年のニューイヤー・コンサートも良かったですが、こっちのシェーンブルン宮殿ライブも良いです。上品で色気のある演奏なんだけど、あちこちにプレートルならではの「隠し味」が効いている。あのまったりとした「ばらの騎士」序奏部の味わい…。たまりません。
●「transcriptions」アクサンチュス
(naive, V5116, DVD)
「ラ・フォル・ジュルネ」で日本でもお馴染みとなったアクサンチュスが、クラシックの名曲を合唱用にアレンジして歌っています。マーラーの「アダージェット」やヴィヴァルディ「四季」などを歌詞を付けて歌わせることに抵抗を覚えなければ、そしてMTVのPV張りに作り込まれた映像に抵抗を感じなければ、このDVDを楽しめると思います。特に「私はこの世に忘れられ」での、この世のものとは思えない浮遊感は、リュッケルトの歌詞の世界とも妙にマッチしています。(HMV)
●シューベルト「ます」&シューマン「ピアノ五重奏曲」 田部京子、カルミナ四重奏団
(DENON, COGQ31)
当ブログで以前、「何という瑞々しさ!」「音が華やかなアロマを放っています」「気品漂う佇まい」などと書きましたが、まさにその通りです。そしてシューベルトだけでなく、シューマンの華やかさも特筆されるべきでしょう。(amazon/HMV)
●「COVER GIRL: 2」初回限定版 つじあやの
(ビクターエンタテイメント, VIZL-305, CD+DVD)
クラシックじゃあ無いけど、私つじさんが大好きなので紹介させて下さいね(笑)。彼女のカヴァーアルバムの前作「COVER GIRL」は、両親へのメッセージなどもあったりして「私小説」的な雰囲気でしたが、この第2弾は「ミュージシャン・つじあやの」が存分に味わえる、純粋なソング・ブックに仕上がっていると思います。m-flo「come again」や大滝詠一「君は天然色」のように「激変」してる曲もありますけど、「テネシー・ワルツ」のように、Pee Wee Kingのオリジナル(→Naxos Music Library)に近い歌唱もあります。そしてつじさん独特の、あのふんわりとした歌声で「テネシー・ワルツ」を聴くと、こころの中を優しく撫でられているような気分にさせられるのです。(amazon/HMV)
●シェーンベルク&シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」 ハーン、サロネン指揮スウェーデン放送響
(DG, UGCG1391)
これは「問題作」です。別にシェーンベルクとシベリウスをカップリングしたのが問題なのではなく、シェーンベルクの解釈に「問題」があるのです。この曲のオーケストラ・スコアを取り寄せ、しばらくにらめっこしてみたのですが、この作品はセリー主題を曲の端々にまで反映させた、もうガチガチの十二音音楽なわけです。たとえばヴァイオリン独奏がセリー主題を演奏したあと、そのあとに来るのはセリーの「逆行形」だったり、まあそんな感じで「どこを切ってもドデカフォニー」な曲なのです。これはまさに「絶対音楽の極致」。ストーリー仕立てで、クライマックスでバッハが鳴り響くアルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲の「わかりやすさ」とは正反対なわけです。でそんな難渋な曲をこんなにわかりやすく弾いちゃっていいの!?というのが「問題」なのです。以前ヒラリー・ハーンはインタビューで、シェーンベルクとシベリウスの協奏曲は共に「叙情的なものを持っている」と述べていました。その「叙情性」を前面に押し出すとこういう解釈になるのかな、というのが私の印象です。でもすごく良く仕上がっているので、これは推薦せざるを得ないのです。ヒラリー・ハーンの瑞々しいヴァイオリンの音色が、シェーンベルクの「毒」を浄化しているような部分もある、興味深い演奏です。スウェーデン放送響の優れたアンサンブルも聞き逃せません。(amazon/HMV)
●「カラヤン/ロンドン・ラスト・コンサート1988」 ブラームス「交響曲第1番」 シェーンベルク「浄夜」
(Testament, JSBT 8431)
最近カラヤンのライヴ演奏のCD化が相次いでますが、どれもあまり感心しませんでした。とくにグールドとの共演ライヴの後半に収録されたシベリウスは、私が「シベリウスでこれはやって欲しくないなぁ」と思っていることを次々と帝王様が披露なさるので、イライラばかりが募りました。でもこのロイヤル・フェスティバル・ホールでのライヴは素晴らしいですね。劇画的なまでに激しくダイナミックな「浄夜」、集中力があって燃焼度も高い「ブラ1」、どちらも必聴です。
あとこのライヴ盤で興味深いのは、「カラヤン様式」の特徴であるセンプレ・レガートで高音優位の「カラヤン・サウンド」が、実にハッキリと感じ取れることです。あの独特のクセのある賛否両論のサウンドが、既出のライヴ盤からはあんまり感じ取れないんですよね。却ってそこに惹きつけられる一方、「一体どっちがホントのカラヤンなんだ!?」と思わないでもありませんでしたが、やはりカラヤンは最後までカラヤンだったんですね。(HMV)
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