銀幕サロメダンス
●「METライブビューイング」に行ってきましたよ。METの今シーズン最初の公演「サロメ」を観に行きましたよ。
●しかし何で上映開始時間が午前10時かなぁ。「サロメ」ほど朝の似合わないオペラ(あっ、厳密に言えば「オペラ」じゃなくて「一幕の劇」だった)は無いって。「午後10時」なら解るけど。
●というか名古屋「ミッドランドスクエアシネマ」に着いたら長蛇の列が!「これみんなサロメを観に来たの!?」と一瞬思ったけど、実は「ミッドランドスクエアシネマ」はシネコンなので、崖の○のポニ○とかレッ○ク○フとか容疑者○の献身とか釣り○○日誌とかを観に来た人たちと一緒の列に並んで切符買わなきゃいかんのだ!あ~、並んでる間にもう10時過ぎちゃったよ~。自分の順番になったところで受付の方に「サロメ大人一枚席どこでも良いです」と伝える。
●「あ~、遅れちゃった~」と思いながら入場したけど、本編はまだだった。「METライブビューイング」では本編前に舞台裏への潜入インタビューを上映してくれるのだ。この日はタイトルロールのカリタ・マッティラにデボラ・ヴォイトがインタビューしていた。しかしニュースでは知ってたけどホント痩せたね<ヴォイト。
●「METライブビューイング」の不思議その1。指揮者がピットに入っても、映画館の観客は誰も拍手しない。スクリーンの向こう側のNYの観客はみんな拍手してるのに。
●と思っているあいだに開幕。現代のドバイのお屋敷を思わせる舞台装置、そして現代風の衣装を身にまとった登場人物たち。演出はユルゲン・フリム。時代こそ古代イスラエルから現代へと翻案されているが、サロメやその他のキャラクターの性格付けは、ほとんどオリジナルのままといってよい。「読み替え系」演出が苦手(というか私の弱いオツムがついていかない:笑)な私には実にとっつきやすいし、すんなりと音楽に集中できる。
●しかし所詮「METライブビューイング」は「映画」だ。会場の音響設備も悪くはなかったけど、やはりオペラ上演は生オーケストラに限る。生演奏の持つ多彩な表現力はサウンドトラックと比較にならない。今日の「サロメ」の場合、ヨカナーンが斬首されるシーンの、あのコントラバスは、やっぱり生でないと…。
●ということでこれは「映画」なので、入場料は3500円でなく1800円にしてください。安い方がもっと客を呼べるでしょう。
●と思いつつもカリタ・マッティラ演じるサロメには、やはり魅了される。妖艶な演技もさることながら、それ以上に彼女の歌唱がすばらしい。マッティラのサロメには「ストーリー」がある。ヨカナーンを見知った王女サロメが、「少女」から狂気ほとばしるエロスを発散させる「女」へと変貌していく過程が、マッティラの歌唱にはハッキリと感じとれる。最初にヨカナーンに言い寄るシーンで、まるでイゾルデがトリスタンに求愛しているかのような「優しいサロメ」だったのが、銀の皿に盛られたヨカナーンの首を見つめるうちに、忘我の境地に至り「私はおまえに接吻した!」と歌う。マッティラの歌は、エクスタシー・オブ・ジョイに達した「女」の発する歓喜の叫びすら連想させる絶唱だ。
●そんなサロメのために絶命させられるヨカナーンを演じた、ユハ・ウーシタロも良かった。薄汚い衣装をまとっていても、彼の歌唱には預言者の威厳が感じられた。特に救世主の到来を告げる場面は、とても神々しかった。やはりヨカナーンはこうでなくては。先月観たびわ湖ホールの舞台に、決定的に不足していたのはコレだ。
●「7つのヴェールの踊り」の場面。マッティラは身につけていたもの7つを、一つずつ順番に外していった。本場METでは、マッティラは最後に丸裸になるんだけど、そこはライブビューイングでは「お預け」となった。代わりにスクリーンではヘロデの顔が大写しに。あの目をひん剥いた顔、夢に出てきそう。
●「METライブビューイング」の不思議その2。カーテンコールのシーンが映し出されても、映画館の観客は誰も拍手しない。これは本当に不思議だった。マッティラが素晴らしかったから尚更だ。他の会場ではどうなんだろ。
●ちなみにこの上演、最初はミッコ・フランクが指揮する予定だった。これが実現してたら、どんな演奏をしたんだろう。
●次の公演はジョン・アダムズの「ドクター・アトミック」。上映時間が3時間21分と長め。休憩も挟む。でもお値段は上演時間90分強の「サロメ」とおんなじだ。となると「ドクター・アトミック」は「お得」ということか。時間があれば行きます。
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