リチャード・ヒコックスの仕事について、私なりに振り返る
先日急逝した指揮者リチャード・ヒコックスについて、もう少しだけ。
ヒコックスの仕事といえば、第一に挙げられるのがイギリス音楽です。読者の皆様同様、わたしも彼の指揮を通じて、多くの英国人作曲家を知ることができました。特にラッブラの交響曲などは、ヒコックスが英シャンドスへ録音してくれるまで、なかなか愛好家の耳に届かない類の「超レア物」音楽でした。彼の演奏を通じてラッブラの音楽の素晴らしさを知った方は、私だけではないと思います。
そしてヒコックスは、大規模な編成の合唱作品を得意としていました。エルガーの3大オラトリオやブリテン「戦争レクイエム」はもちろん、「ヴェル・レク」や「カルミナ・ブラーナ」などのCDもあります。さらには古楽器オケ「コレギウム・ムジクム90」とハイドンや(これまたレアな)フンメルのミサ曲を録音しました。
またヒコックスは、イギリスを中心に世界の歌劇場で活躍したオペラ指揮者でもありました。わたしが初めて聞いたヒコックスの演奏は確か、NHKのラジオで聞いたヘンデル「ジュリオ・チェザーレ」でした。歌劇場はベルリンのコミッシェオパー、そしてタイトルロールは当時一世を風靡したカウンターテノール、ヨッヘン・コワルスキーだったと記憶しています。「ピーター・グライムズ」の録音は、グラミー賞を受賞していますし、オペラ・オーストラリアでは音楽監督を務めていました。今週にはイングリッシュ・ナショナル・オペラで「海に乗り行く人々」の上演を控えていたといいます。
英シャンドスを中心に、数多くの録音を遺したヒコックス(※)ですが、彼の録音で私がひとつだけ挙げるとすれば、ヴォーン・ウィリアムズの「ドナ・ノービス・パーチェム」(EMI:amazon/HMV)です。第2次大戦前の欧州の不穏な空気を察した作曲家による、平和へのメッセージ色の強い作品ですが、オケとコーラスが一体となった緊張感あふれるサウンドは、聞き手に強い印象を残します。彼の得意としたイギリス音楽、しかも合唱作品ということで、併録の「聖なる市民」と共に、彼の仕事を振り返るには相応しい録音だと思います。
(※)ヒコックスの英シャンドスに遺した録音の数々が「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」で聞けます。ラッブラの交響曲も「ヴェル・レク」も「海に乗り行く人々」もあります。
The comments to this entry are closed.
Comments