オンデマンド配信で聞く諏訪内晶子とエトヴェシュ
iTunes Storeの「1500円狂想曲」は終局を迎えましたが、お安くクラシック音楽を楽しむ手段の一つとして、配信サービスを行っているクラシック専門チャンネルにアクセスする、という方法もあります。なかでも個人的によく利用しているのが、「スウェーデン放送協会」のクラシック音楽専門チャンネル「P2」(Sveriges Radio P2)のオンデマンド配信です。ここはオンエア後30日間(一部番組を除く)音楽番組をオンデマンドで配信しています。スウェーデン国内や国外のライブを自分の都合に合わせて好きな時間に楽しむことができるので、とても重宝しています。最近配信リストに諏訪内晶子のヴァイオリン、ペーテル・エトヴェシュ指揮エーテボリ交響楽団による演奏会が加わったので、聞いてみることにしました。
エトヴェシュの自作「セブン」(ヴァイオリンとオーケストラのための)は「スペースシャトル・コロンビア号の事故にインスパイアされた作品」ということですが、そんな予備知識が無くても、この新作が哀歌的な側面を持った作品であることは確実に伝わってきます。ある意味アルバン・ベルク「ヴァイオリン協奏曲」の現代版と言えなくもないです。もちろんベルクの「モダニズムの衣を羽織ったコテコテのロマンチシズム」と、エトヴェシュの鮮やかな光彩を放つ音響世界とでは、音楽的個性の違いは明らかなのですが、両作品の「指向」するところが似ているかな、といった印象を持ちました。ソリストを務めた諏訪内晶子のリリカルなヴァイオリンの音色は、この作品の曲調によくマッチしていたと思います。彼女は、いいレパートリーを手に入れたのではないでしょうか。
エトヴェシュ作品以外の演奏では、ワーグナー「ジークフリート牧歌」が良かったです。ここでの穏やかで嫌みのない音楽表現は、自然で健やかなロマンチシズムをほのかに漂わせています。エトヴェシュは以前から指揮活動も盛んに行っていて、「作曲家兼指揮者」の先輩格のピエール・ブーレーズとダブるところがあります。しかし両者の指揮者としての資質には若干異なる部分がありそうです。鋭った部分をギラギラと光らせながら提示していくのがブーレーズ(←最近では丸くなりましたが)ですが、エトヴェシュはより堅実に、楽曲の持つ「個性」を表現することに腐心しているように感じられました。
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