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2008.03.09

夕暮れ時に燃えるピアノを見る

【Program Note】
山下洋輔、燃えるピアノに新たに挑戦「ピアノ炎上2008」
Date: 2008年3月8日
Venue: 能登リゾートエリア増穂浦
演奏:山下洋輔(ピアノ)

 このコンサートは、現在金沢21世紀美術館で開催中の「荒野のグラフィズム:粟津潔展」の関連企画として行われた。そんな主催者側の趣旨を汲むためには「先ず美術館で展示物を拝見し、それから現地へと出向く」というのが理想的な行程だ、というのは判ってはいたのだけど、不誠実にも私は美術館には立ち寄らず、代わりに千里浜の砂の上をクルマで走ったり、世界一長いベンチを見学したりと能登路を堪能しつつ現地に到着。

 始まるまでの空き時間にベンチに腰を下ろす。澄んだ青空を眺めていたら、杖をついたおじいさんがやってきて「今日なんかコンサートでもあるんか?」と話しかけてきた。地元の方のようだ。「そうですよ」「結構人が集まっとるな。あんたはどっから来た?」「福井の方。今日はあったかいね」「もう春や」などと雑談を交わす。砂浜では子供達が貝を探しているのが見える。ここは桜貝が採れる名所らしい。

 午後5時。開演予定時刻。銀色のほろが取られ、ピアノが姿を現す。砂浜の上に置かれたピアノ。ジェーン・カンピオン監督の映画「ピアノ・レッスン」を思い起こさせる。西の空から夕日を浴び、白い砂の上に伸びた長い影。それを周囲に張られた規制線の向こうから眺める。主催者からのアナウンスが拡声器から流される。ギャラリーは静かにその時を待つ。

 しばらくして、消防服を着た人物がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。山下洋輔だ。それを察した観客から自然と拍手が起こる。ゆっくりと時間をかけて歩みを進めたピアニストが、ピアノの前に腰を下ろす。普段見につけない消防服がやはり慣れないのか、何度も裾に手を伸ばし、座り具合を確かめていた。
 
 静まりかえる砂浜に波音が響く。やがてその波音に乗せるようにピアノの音が聞こえてきた。中低音による物悲しくメランコリックな旋律。しかしこの日の夕空のように美しい。「もう少し聴いていたい…」と目を閉じて耳を澄ませていたら、ため息とも喚声ともつかない声がギャラリーから漏れる。目をピアノにやるとすでに胴体から火の手が上がっていた。
 
 波の音とピアノの音。それに「パチ」「パチ」という焚き木のような音と、「バンッ」という鈍い音が交じる。熱でネジが飛んで弦がはじけているのだろう。ピアノの音は中音部から低音部へと、徐々にホンキー・トンクに、そしてプリペアド・ピアノのようなメタリックな響きへと変化する。ピアニストは88個の鍵盤を舐め回すように、ときには肘打ちも駆使しながら演奏を続ける。ピアノが燃え続けているという状況で、その瞬間その瞬間でのピアノの「ベスト・サウンド」を探し、その音を拾い集めて必死で音楽を続けようとしているように映る。

 ピアノが燃え始めてから5分以上経過。山下は最高音部の1オクターブ分で必死の打鍵を試みるが、もはやかすれ声のような音しか発することが出来ない。そんなピアノの「最期」を察したのだろうか、ピアニストが席を立つ。彼はピアノから離れると、規制線の手前あたりから燃えるピアノを眺める。それからまもなく響板がバタンと音を立てて崩れ落ちた。再び上がる喚声。

 ピアニストは席を立ったが、パフォーマンスは続く。胴体からハラリ、ハラリと木の葉のような小片がいくつも落ちていく。ハンマーだろうか。ますます火は勢いを増し、白煙がこちらの方にも迫ってくる。炎を眺めていると、まるで左義長(どんと焼き)みたいにピアノの「霊」を送り出す儀式に立ち会ってるような気分にもなってくる。

(ここから先には、楽器を愛する方にとってショッキングな画像があります。読者の方は、その点にご留意の上でご覧下さい)

 5時半過ぎ。山下洋輔が(やはり歩いて)現場から立ち去る。この時点でパフォーマンスは終了。拍手で送る観客。やがて僧侶がピアノの前に歩み寄り、関係者と思しき数名がそれに続く。ピアノを弔う「葬儀」が始まったようだ。読経の声は炎の音に阻まれて、こちらにはよく聞こえてこない。

Pf_burn04

 5時50分頃。ピアノの葬式が終わる。消防士数名がピアノ前に現れる。彼らは消火器で鎮火を図るが…

Pf_burn05

火はなかなか消えない。

Pf_burn06

 結局海からバケツで水を汲んできて、それをピアノにかけて、ようやく鎮火した。

 いつの間にか日は西の山に落ち、辺りは暗くなっていた。ショベルカーがガラガラとやってきて、ピアノの残骸を少し馴らしたあと、フレームをロープで繋いで持ち上げた。重機はピアノの骨を拾い上げて、夜闇の方へと移動する。それを見送る観客。「今日はピアノの火葬に参列させてもらったのだな」と思いつつ、私は現場をあとにした。

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