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2008.01.26

木嶋真優の新譜を聴く

Kishima_chaconne_2 ヴァイオリン奏者、木嶋真優の実質的なソロ・デビュー・アルバムが「小品集」になると聞いたとき、私はいささか意外に感じたといいますか、拍子抜けしたといいますか、ともかく「彼女の実力にしては、これまた随分と控えめな…」というのが正直な感想でした。

 なぜなら、それなりのポテンシャルを持った若手ヴァイオリニストがデビューするときには、決まって「おっ、気合入ってるな」と感じさせるような、意欲的なプログラムを組むものだからです。それはスーパーE連発のコンチェルト(協奏曲)だったり、斬新な現代音楽だったり、はたまた王道まっしぐらの「名曲」だったりするわけですが、木嶋真優は敢えて(と「敢えて」書きますが)その道を採らなかったのです。その「選択」については、一音楽ファンでしかない私がとやかく言う筋合いのものではありません。でも私は彼女のショスタコーヴィチフランクやプロコフィエフの素晴らしい演奏を知っているので余計に、「小品集ではインパクトが弱いのではないか…」「なんか勿体無いな…」と(お節介ながら)感じたわけです。
 ともかく最初のトラック、ヴィターリのシャコンヌから聞き始めました。しなやかで艶のある弦の音色、多彩な表情、随所でさりげなく見せる小気味良い技巧の冴え。そして何よりも、10分足らずのこの「小品」から豊かな「ストーリー」を導き出し、それを確実に「音楽」として表現しています。このあともストラヴィンスキー「ディヴェルティメント」、チャイコフスキー「憂うつなセレナード」、ヴィエニアフスキ「ファウストによる幻想曲」と聞き進めてみましたが、ヴィターリで感じされた「物語性」は、他の作品でも十分に感じることができます。木嶋さんはそれぞれに異なるストーリー、異なる設定を捉えた上で、優れた音楽表現を聞かせてくれています。小品ばかりではありますが、1曲1曲の印象は、確実に心に残ります。まるで珠玉の短編集を読み終えたような、そんな聴後感を与えてくれるアルバムです。
 改めて書きますが、ところどころで彼女が見せるテクニックの「冴え」は本当に見事です。「スラヴ舞曲ホ短調」での重音のスムーズな処理、ファリャ「スペイン舞曲」終結部の花火のような鮮やかな疾走ぶりなどが特に印象に残ります。またそれらの「難関」を本当に「さりげなく」通過していくので、聞いていて実に気持ち良いのです。聞く前は「小品集なんだけど、ちゃんと彼女の個性が伝わるようなアルバムになってるだろうか…」と要らぬ心配をしてましたが、全く心配ありません。木嶋真優は木嶋真優でした。あと(付け足しのようになってしまい誠に申し訳ないのですが)江口玲のピアノも、いつもながらに素晴らしいです。
 最後に蛇足。東京都内の有名CD店の店頭には「販促用」として彼女の等身大パネルが置かれているそうです。それを見たファンが「あぁ、またヴィジュアル系ヴァイオリニストがデビューしたのか」と誤解し、パネルの前をただ通り過ぎていく、ということが無ければ良いのですけど。

(Reference)
Chaconne - Mayu Kishima (violin)
with Akira Eguchi (piano)
1.Vitali; Chaconne
2.Dvorak/Kleisler; Slavonic Dance in E minor
3.Stravinsky; Divertiment (from "The Fairy's Kiss")
4.Tchaikovsky; Serenade mélancolique Op.26
5.De Falla/Kleisler; Danse Espagnole
6.Wieniawski; Fantaisie brillante on themes from Gounod's Faust Op.20
(EXTON, OVCL-00302)[→amazon/HMV/@TOWER]
(管理人註:アマゾンの購入ページには、「Hybrid SACD」と書かれていますが、それは誤りです。購入される方はくれぐれもご注意を。

(関連記事)
「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2006」に木嶋真優が出演したときのレポート(「熱狂の日」音楽祭 公式サイト)

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