真夏の夜のノクターン(4)
今日も棚の奥からゴソゴソとCDを取り出します…。
ノルウェーの作曲家、ハーラル・セーヴェルー(Harald Sigurd Johan Sæverud, 1897-1992)は地元で「グリーグの再来」と称えられる国民的巨匠です。9曲の交響曲、劇付随音楽「ペール・ギュント」などの管弦楽作品も遺していますが、私には「やさしい小品集」「シーリューステールからの歌と踊り」などのピアノ作品が、とりわけ魅力的に感じられます。どれも数分程度で終わる小品ですが、どの曲も旋律が美しく、しかも親しみやすくて、思わず曲に合わせて歌ってしまいそうになります。そして曲には独特のリズム感というか、ノルウェーの民族的要素がふんだんに感じられます。このあたりが「グリーグの再来」と評される所以なのでしょう。確かにこれらの愛すべき小品集を聞くと「20世紀の叙情小品集だな」と言いたくなります。
ただセーヴェルーの和声法は、グリーグのそれと決定的に異なり、独特の「クセ」を持っています。他の作曲家ではやらないような和声進行をサラリとやってのけたり、「絹の靴下の踊り」(「やさしい小品集」より)のように、徹底追尾不協和音で押し通したりもします。そのあたりにセーヴェルーの「個性」を強く感じます。それでも彼の音楽からは、民族性と親しみやすさが失われることはありません。
そんな彼の作品の中で、特異な地位を占める作品に「抵抗のバラード」というタイトルの曲があります。第二次大戦中、ナチスドイツ支配下のノルウェーで書かれたこの作品は、ノルウェーに駐留するドイツ軍兵舎を目撃したセーヴェルーが、その時湧き上がった怒りの感情をダイレクトに音符にしたためたものです。そんな作曲の過程を反映してか、旋律は実に力強く英雄的で、愛国的ムードすら感じられます。こんなことを言うのは不適切かもしれませんが、サッカーの試合でサポーターが歌うチャント(応援歌)にも転用できそうな、シンプルかつパワフルな曲です。
このエントリで取り上げたのは、ヤン・ヘンリク・カイサー(Jan Henrik Kayser)のピアノ演奏による1997年録音のCD(Arioso, KPCD 02, →HMV.co.jp)ですが、「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」(以下NML)では、カイサーの旧録音(BIS, BIS-CD-173/74)を聞くことができます。またこれとは別にNMLでは、グリーグの演奏で名高いアイナル・ステーン=ノックレベルクによるセーヴェルー作品のCD録音が聞けます(例えば「抵抗のバラード」はここの「Track37」です)。毎度ながらナクソス太っ腹。
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