真夏の夜のノクターン(2)
次に棚から取り出したのはバッハ「ブランデンブルグ協奏曲」(DG; 423 116-2)。演奏するのはラインハルト・ゲーベル率いるアンサンブル、ムジカ・アンティカ・ケルンです。
この演奏に最初に出会ったときの印象を一言で表現するならば、「初体験」でしょうか。なんか良からぬことを連想させる言葉ですが、ここではもっと一般的な意味での「初体験」を指します。初めて外国に行ったとき。初めて大学に足を踏み入れたとき。初出勤したとき。まあ好きな女性を初めてデートに誘ったときでもいいや(笑)。ともかく人間はどんなことであれ、初めて何かを経験する時は戸惑ったり、驚いたりするものです。要はこの演奏を初めて聞いたときは、最後まで驚きっぱなしだった、ということが言いたかっただけなのですけど。
ゲーベルの「ブランデンブルグ協奏曲」は、それ以前の演奏を遥かに凌駕するスピードで最後まで突き進みます。「第1番」ではまだ「あっ、ちょっと早いな」程度ですが、「第2番」でギアが入ると、「第3番」で遂にフルスロットル状態に突入し、ブランデンブルグ協奏曲のファステストラップをたたき出しています。ここまで想定外の速さで演奏されると、「バッハじゃない何か」を聞いているような気分になってしまう面も確かにあります(これをクラシックを全く知らない友人に聞かせたら『まるでドラクエのBGMみたい』と言われました)。でも何度か聞き直すうちに、彼らの演奏の持つ小気味よいテンポ感が病み付きになるというか、独特の魅力(というより「魔力」?)にハマってしまうのですから不思議なものです。そういえばこの「第3番」での壮絶なまでの弦楽合奏の「早弾き」を「デスメタル風バッハ」と表現した人が、某巨大掲示板に居たような…。
あとこの録音で注目すべき点は、チェンバロをアンドレアス・シュタイアーが担当していたことです。当時ムジカ・アンティカ・ケルンの一員だった彼は、「第5番」でヴァイオリンのゲーベル、そしてフルートのヴィルベルト・ハーツェルツェトらと共に、軽快な演奏を披露しています。その後シュタイアーはゲーベルらと袂を分かったのち、ソロ奏者として華々しい活躍を見せているのは、皆様もご存知の通りです。
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