2007.06.30
先日、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の世界遺産リストに石見銀山が新たに加えられたことが日本で話題となりましたが、今回はシドニーのオペラハウスも新たに世界遺産の仲間入りをしました(参照1 、同2 )。1973年竣工のこの建物は、ユネスコ世界遺産としては最も新しい建造物になります。また、オペラハウス単独での世界遺産への登録は「史上初」となります。
マーライオンや人魚姫の像とともに「世界三大がっかり」の一つと称されるシドニー・オペラハウスですが、私が行ったときはがっかりしませんでした。ここで私は素晴らしいオペラを観劇しましたし、併設されたコンサートホールではシドニー交響楽団を存分に堪能しました。各公演にはそれぞれ、思い出深いエピソードがあります。オペラハウスではジェーン・グローバーの指揮でヘンデルの「アルチーナ」を見たのですが、閉幕後にお隣に座っておられた初老のおじさんにいきなり腕を鷲づかみにされてビックリしました。何が起こったのか理解できず当惑するばかりの私でしたが、おじさんは私の腕を掴んだまま「お前わざわざシドニーまでオペラを見に来たのか!」と笑いながら私に話掛けてきたのでした。「ええ。面白そうだったので」と返事すると、「今日の歌手はどうだった?」「(アリアの合間で踊られる)バレエはどうだった?」と矢継ぎ早に質問されて、更に当惑してしまいました。
翌日訪れたコンサートホールでは、チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」の第1楽章終了後に、興奮の余りつい拍手をしてしまったのですが、その話は以前にも当ダイアリーでも記事にしました 。その時ソリストを務めたのがボリス・ベルキン、指揮者がエド・デ・ワールトだったことは、彼らの名誉のために付け加えておかないといけませんね。
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2007.06.29
アメリカの投資家Bruce Kovner氏が、自らの楽譜コレクションをジュリアード音楽院に寄贈したニュースは、当ダイアリーでも以前お伝えしました が、この度コレクションの一部が電子化され、同音楽院の公式サイトから閲覧できるようになりました。
この「The Juilliard Manuscript Collection 」では現在、ブログでも話題にしたベートーヴェン「大フーガ」の四手ピアノ版(作品番号134。この楽譜はベートーヴェンの生涯最後の年に書かれた)、ブラームス「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」(作品102)、フルトヴェングラー「交響曲第2番」の自筆譜(一部だけなのが残念…)、マーラー「交響曲第9番」第1楽章の原稿、オッフェンバック「パリの生活」(未出版原稿を含む)、プーランク「愛の小径」、パーセル「ディドとエネアス」&「テンペスト」、ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」(実際の演奏に使われたため、作曲者だけでなくストコフスキーやワルターら、指揮者による書き込みがある)、シューマン「交響曲第2番」を初めとする、多数の原稿や自筆譜を「無料で」見ることができます。
この楽譜の中で、とりわけ興味深いものが2点あります。一つはワーグナー「ジークフリート牧歌」の楽譜。1ページ目の上の方には、作曲家自身の手によって「Sinfonie」という字が消され、その上に「Siegfried-Idyll」と書き加えられた跡があります。もう一つはコープランド「エル・サロン・メヒコ」のピアノ編曲版。このアレンジは若き日のレナード・バーンスタインが行ったのですが、彼は楽譜の余白に、作曲家の姿を面白おかしく描いています。それがどんな絵かというと…↓
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2007.06.28
先日私はウェブラジオで、ベネズエラ出身の指揮者グスターボ・ドゥダメル(写真上)がチェコ・フィルを振ったライブ演奏を聴いていました。そこでのチェコ・フィルは、明らかにいつものチェコ・フィルとは違いました。普段ならボヘミアの美しい森を散策しているような気分にさせてくれる筈が、この日ばかりはまるでジャングルの山火事のように燃え盛っていました。それほどメインで演奏されたプロコフィエフ「交響曲第5番」の印象は鮮烈なもので、まさに(ハイドンじゃないけど)「シュトゥルム・ウント・ドラング」。熱気とスピード感。そしてアンサンブルの一体感と緊張感の持続。まさに手に汗にぎるような演奏でした。
それにしてもドゥダメルが世界有数の名門オケをこれほどまで自在に操縦するとは…。なにしろチェコ・フィルは「自分たちのサウンド」に強いこだわりを持ち、実際それを長年に渡り守ってきた、気位の高いオーケストラです。だからこそ今回のような事態は、私は予測できませんでしたし、今でもそれが信じられないほどです。ドゥダメルがチェコ・フィルのサウンドを一変させたことの良し悪しは別として、彼が大人数の(しかも一筋縄ではいかない)オケを従わせるだけの統率力を持っていることは、どうやら認めざるを得ないようです。
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2007.06.27
京都御所近くの「京都ブライトンホテル」で、毎年恒例の「リレー音楽祭 」が開催されます。期間は明日(6/28)から7/31(火)まで。午後8時から約30分間、ホテル内のアトリウムで連日開催されます。料金は(例年同様)無料です。プログラムはこちら でご覧になれますが、いつもながらホントに豪華な顔ぶれですね。私も毎年のように「いつか行こう」と思うのですが、そう思っているうちに自宅も職場も京都から遠くなってしまいまして(笑)。お近くにお住まいの方はもちろん、祇園祭見物にお越しになられた方は夕涼みがてら、ぶらりと立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
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2007.06.25
60歳代男性。少年時代からの癖が、ただいまピンチになり困り果てています。
若いころに指揮者小沢征爾さんのライブを見て、躍動感あふれる姿が脳裏に焼き付きました。以来数十年、音楽を耳にすると、条件反射的に体を揺すりくねらせ、タクトを振るまねごとをします。
恥ずかしいので人前ではしませんが、一人暮らしのアパートの部屋にいるとパフォーマンスに陶酔している自分がいます。音量には気をつけ、跳んだりはねたりはしないので、世間様には迷惑をかけていないと思い込んでいました。
先日、階下の新住人が来て「天井がきしみ電灯がゆれる。何をしている」とすごまれました。とにかく謝り、事なきを得ましたが、落ち込んでいます。そういえば、階下は人の入れ替わりが多いようです。
今は我慢していますが、ラジオから音楽が流れると体がむずむずしてきます。私の“宿痾(しゅくあ)(持病)”である「指揮マネ病」とどう向き合えばいいのでしょうか。(埼玉・R男)
(読売新聞 人生案内-心身 2007年6月12日付 )
こんな質問が大新聞に掲載されていたことを、今日「庭は夏の日ざかり 」で知りました。新聞に投書するくらいですから、きっと「R男」さんは真剣に悩んでおられるのでしょう。同好の士として看過できませんので、お節介とは思いつつも「R男」さんに私からもお返事差し上げたいと思います。
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2007.06.24
今日は外出するつもりだったのですが、天気も悪いしお金もないし(給料日前なもので)…、ということで自宅でおとなしくしていました。まあ家に居ても特にするもなく、ただパソコンの前に座ってカチャカチャやりながら「おもしろい記事はないものか…」とネットをウロウロしておったわけです。ブログを書き始めた頃よりも仕事がずいぶん忙しくなってきて、最近はネットでネタ探しする時間が取れなくなっているのですが、今日のように時間的余裕があるのって貴重なことですし、ありがたいことです。
さて今日の「ニューヨーク・タイムズ」(電子版)に「珍しい楽器ご紹介」みたいなページがありまして 、そこでミュージカル・ソウ(音楽のこぎり)やユーフォニウムなどに混じって、コントラファゴットの作品が紹介されていました。この楽器、オーケストラ・コンサートではおなじみ(デカイから目立ちますもの:笑)ですが、ソロ楽器としてのコントラファゴットを聴く機会って、言われてみれば余りないような気がします。
でこの記事ではフィンランドの作曲家、カレヴィ・アホの「コントラファゴット協奏曲」を紹介していまして、これを見た私は「ひょっとして…、BISレーベルだからナクソス・ミュージック・ライブラリー(NML)にあるかも…」と思い、検索してみたら…、予感は見事に的中(笑) 。さっそく全曲を通して聞いておりました。冒頭部でコントラファゴットの重低音ソロが延々と続いたときは、「ちょっとこれはダメかも…」と思ったりしたのですけど、聞き進めていくうちに、どんどん雄大でエネルギッシュになっていく音楽に耳を奪われてしまい、最後には「おおっ…、コレってなかなかいい曲かも…」と考えを改めました。随所に見せる叙情性、強奏部でのダイナミックな音のせめぎ合い、そしてドラマティックな曲構成は、一級の交響作品としての風格を感じさせます。この珍しい楽器による協奏曲としては、ファースト・チョイスになり得る曲ではないかと思います。
さて前述の「ニューヨーク・タイムズ」紙は、もうひとつユニークなCDを紹介していました。それはフィラデルフィア管弦楽団で長年主席オーボエ奏者を務めたマルセル・タビュトー(Marcel Tabuteau, 1887-1966)の名演集なのですが、ただの「名演集」と異なる点があります。実はこのCD、ストコフスキー指揮によるオーケストラ録音から、タビュトーの演奏した部分だけを拾い集めたものなのです。この一風変わったコンピレーション・アルバム、Amazon.comでは”CURRENTLY NOT AVAILABLE”(「お取り扱いしていません」)なのですが、アルバムの一部は視聴可能です(→こちら )。最初私は何気なく「Track 13」(ブラームス「交響曲第2番」、第3楽章冒頭)から聞き始めたのですが、そのスムーズさ、そして味わい深い節回しに「これはいいな…」と感じ、他のトラックも次々にクリックし、結局は聞けるトラックはすべて制覇しておりました。どのトラックを聞いても、どこか一本スジが通ったような上品さがあります。それは「サロメ」や「シェエラザード」のような曲でも同様で、その「道を外れない」演奏ぶりが却って好ましく感じられたりもします。ちょっとコレは手に入れたいですね(といいますか早速、発売元の「Boston Records 」でオーダーいたしました:笑)。
(関連商品)
●アホ:チューバ協奏曲&コントラファゴット協奏曲
オイスタイン・ボーズヴィーク(チューバ)ルイス・リプニック(コントラファゴット:※)
マッツ・ルンディン指揮ノールショピング交響楽団
アンドリュー・リットン指揮ベルゲン・フィル(※)
(BIS; BIS-CD-1574, →Amazon.co.jp /HMV /@TOWER.JP )
●Excerpts with the Philadelphia Orchestra and Leopold Stokowski
マルセル・タビュトー(オーボエ)
レオポルド・ストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団
(Boston Records; BR1021)
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2007.06.23
ミラノ・スカラ座での「キャンディード」上演を巡るゴタゴタ劇については、当ダイアリーでも 何度かお伝えしました が、今月20日、その「キャンディード」がついにスカラ座で上演されました。当初改変が懸念された 「5カ国首脳が水着でご登場」のシーンは、今回のミラノ公演ではカットを免れたようです。ただベルルスコーニ役の下着が、シャトレ座では露出度の高い競泳用水着だったのが、ミラノでは若干「おとなしくなる」など、微妙な改変はあったようです。その代わりといっては何ですが、ローマ・カトリックを風刺する場面(キャンディードが南アフリカで司祭たちに出会うシーン。今回の公演では場所が「サンタ・フェ」に変えられた<えっ!?)はミラノでは丸々カットされました。
さて当ダイアリーではこれまで、このシーンのことしか話題にしていませんでしたが、レトロなテレビを模した舞台装置、マリリン・モンローを彷彿とさせるクネゴンデの衣装、舞台背後にズラリと並ぶKKK団的な方々といったロバート・カーセンの「1950年代アメーリカン」な演出は現地で話題となりましたし、オリジナルには無いヴォルテール役に映画俳優のランベール・ウィルソン、オールドレディ役に「あの」キム・クリスウェルを配したキャスト陣も興味深いところであります。
スカラ座のプレミエは幕が下りたあと拍手が10分間続き、イタリアの一般誌もこぞって高評価だそうです。中身の是非はともかく、上演して良かったんじゃないでしょうか<スカラ座総裁様。
(参考)
PlaybillArts. Controversial Staging of Candide, Canceled and Reinstated by La Scala, Opens in Milan. (June 21, 2007)
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●体調不良のために先日大阪フィルの演奏会をキャンセル(→参照1 、同2 )した指揮者の大植英次 さんですが、昨夜(日本時間だと「今朝未明」)のハノーファー北ドイツ放送響とのライヴでは、マーラー「交響曲第5番」とベルク「ヴァイオリン協奏曲」(独奏:ルノー・カプソン)を演奏して健在ぶりをアピールしました。しかし最近の大植さんは病気による降板が相次いでいるので心配です。指揮者という仕事は数年後までスケジュールが詰まっているので、治療のための時間がなかなか取れないのかもしれません。でも激務だからこそ、きちんと治療を受けて、万全の体調で仕事に臨んでいただきたいです。
●来年秋の「ウィーン国立歌劇場」来日公演 ですが、演目が変更になったようですね。「イドメネオ」が「フィデリオ」に、ティーレマンの「マイスタージンガー」がムーティ指揮の「コシ・ファン・トゥッテ」に、そしてグルベローヴァの「ロベルト・デヴェリュー」は演奏会形式の公演になったそうです(参照3 )。「マイスタージンガー」から「コシ」への変更については、ムーティ登場に快哉の声が上がる 一方、嘆息するワグネリアンもいたり と、ネット界は「悲喜こもごも」の様相を見せています。
●いろんなチェンバロの画像が見れて楽しいブログ「チェンバロ漫遊日記 」に、「チェンバロの音色が出せるピアノ」 なるものが紹介されていました(→参照4 )。なにやら「秘密の仕掛け」でチェンバロのような音色を出せるそうです。この楽器がある「明日館」というのは「自由学園明日館 」のことでしょうか。そのメカニズムを「実際に見て驚いてください!」とブログにありますので、今度上京したときでも覗いてみましょうか。
●英国王立音楽アカデミー(RAM)の学生であるキット・アームストロング くん(→公式サイト )は現在15歳(!)。5歳で作曲を始め、7歳で「セレブレーション」という副題の交響曲を書き、現在は十二音技法を用いた作品を発表しています。そしてRAMでブレンデルに師事する彼は、すでにピアニストとしても演奏活動を行っていて 、今後BBC響との共演予定もあります。さらに音楽だけでなく、大学で数学も勉強しているというのですから、なんともはや「天才」としかいいようがありません。そんなキットくんですが、趣味が「折り紙」だというのが実に微笑ましいです(参照5 )。鶴を折るのも結構怪しい私にとって、「にわとり」「亀」「犬」を見事に折り上げるキットくんはリスペクトの対象です(笑)。
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2007.06.21
チェリストのマリオ・ブルネロが今月17日、楽器を担いで富士山に登り、山頂でバッハの「無伴奏チェロ組曲」を演奏しました。思わず「あなたはハネケンさんですか!?」とツッコミを入れたくなりますが、ブルネロ本人は「人間は山に登ると、神の世界、究極の世界に近づくのです」「バッハの音楽も山の頂で究極の世界に近づいたのです」と述べています。私は最初このニュースをプレイビル で知りましたが、山岳ガイドの川名匡様のブログに、富士山頂でのブルネロの写真がup されていますので、こちらを是非ご覧ください。
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ピアニストのエレーヌ・グリモー(37)が先週日曜日、ロサンゼルスでのリサイタルを体調不良のため途中降板しました。彼女は不整脈のため、当日も医師の診察を受けていましたが、演奏中めまいを感じたため演奏を中断したものです。37歳で心臓の病気とは心配ですね。くれぐれもお大事に。
(参考)
Los Angels Times. Ailing pianist Hélène Grimaud ends recital early. (June 19, 2007)
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R・シュトラウス作曲のオペラ「ばらの騎士」の脚本を書いたホフマンスタールの遺族が、シュトラウスの遺族を訴えました。ホフマンスタール氏側は「『ばらの騎士』『エレクトラ』などの作品を上演する際にシュトラウス氏側に支払われる印税が、我々に分与されないのはおかしい」と声を上げたのです。
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2007.06.20
音楽雑誌「クラシックジャーナル」の最新号(026号) (→amazon.co.jp 、HMV 、@TOWER.JP )に「ラ・フォル・ジュルネへの素朴な疑問」という特集記事があります。これを見て私は「ひょっとして…、真正面からのルネ・マルタン批判では…」と胸騒ぎを覚えましたが、内容はさにあらず、「熱狂の日」音楽祭にクラシックソムリエとして参加された片桐卓也氏が、同誌のスタッフからの質問に答える、という内容の記事でした。編集部の「ラ・フォル・ジュルネ」への疑問(または「誤解」)は、まさにコアな音楽ファンなら誰もが抱くようなもので「そうだそうだ」と共感を覚えましたし、それに対する片桐氏の回答にも「へぇ、そうだったんだ~」「そんなの初めて知った~」的なものもあったりしたので、双方のやりとりを結構楽しく拝見した次第です。
さて片桐氏の発言で、面白かったものを幾つかご紹介しますと…、
①東京都響とトウキョウ・モーツァルト・プレイヤーズ以外の在京オケが「ラ・フォル・ジュルネ」に出ない理由は、「ギャラが安いから」。
②「東京で『熱狂の日』が成功した」というニュースがフランスで流れ、はじめてフランス国内でも本家ナントの「ラ・フォル・ジュルネ」の認知度が高まった。
③「0歳からのコンサート」「キッズプログラム」は日本独自のもので、ナントには無い。
①は「やっぱり…」という言葉しか浮かびませんが、今後音楽祭の収益性が上がって、その結果ギャラも上がれば、また新たな展開が起きるかもしれませんね。何しろ私には「オケのレベルを更に一ランク上げて頂きたい…」という、積年の思いがあるもので。あと②と③は、まさに「驚きの事実」です。東京での音楽祭の成功といい、日本だけのオリジナル企画といい、「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」が世界の音楽業界に誇れるものだという思いを新たにしました。
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2007.06.18
いやもう、フルコースのディナーを堪能した気分でしたよ。「前菜」のベートーヴェンのソナタのあと、「1皿目」のシューマン「ソナタイ短調 作品105」(ヴァイオリンソナタ第1番の編曲版)、そして「2皿目」のプロコフィエフと、次々と見事なチェロの腕前を披露してくれるので、聞いているこちらは楽しくてしょうがなかったです。「デザート」といえるアンコールでも、彼の華やかなテクニック、そして表現力の「幅」をこれでもかと見せつけられて、けっこうお腹に来ました(やや違)。
破綻の無い確かな技巧のシューマンも良かったですが、この日はそれ以上にプロコフィエフ「チェロ・ソナタ」が素晴らしかったです。この曲は楽想が局面局面で目まぐるしく変わるせいか、どこかバタバタした印象をもってしまうのですが、彼は数ある難所を鮮やかに(そして余裕をもって)クリアしていくことで、おのずと曲の持つ「ストーリー性」というか、「流れ」といったものが、スムーズに表現されていたと思います。
そしてリサイタルでは、ミュラー=ショット自身も曲によってチェロの「音」を変えていたのが印象的でした。ベートーヴェンのときはやや軽め、そしてプロコフィエフでは低重心の朗々としたサウンドを響かせていました。そのあたりも含めて、彼のオールラウンドなチェリストとしての能力が遺憾なく発揮されたコンサートだったと思います。
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(Program Note)
1.Beethoven: Cello Sonata No.3 in A major Op.69
2.Schumann/Müller-Schott: Sonata in A minor Op.105
3.Prokofiev: Cello Sonata in C major Op.119
(Encore)
4.Ravel: Piece en orme de Habanera
5.Schumann: Adagio & Allegro Op.70 - Allegro
6.Schumann: Adagio & Allegro Op.70 - Adagio
Daniel Müller-Schott(Cello)
Robert Kulek(Piano)
Venue: Hyogo Performing Arts Center Grand Hall
Date: June 17, 2007
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2007.06.16
もうすでにネット界では有名ですが、ここでも改めて紹介しようと思います。素人さんが次々と特技を披露するイギリスのテレビ番組「Britain's Got Talent」(→公式サイト )に登場した一介のセールスマン、ポール・ポッツ(Paul Potts:36)氏の熱唱が、いま世界中で注目の的となっています。
「ポール、今日はなにを披露してくれるの?」と女性審査員に尋ねられ「オペラを歌います」と即答するポッツ氏。意外な返事にやや当惑しつつも、審査員たちはポッツ氏に「どうぞ」と歌うよう促します。そのあと南ウェールズから遠路はるばるやってきた携帯電話の営業マンが歌った「だれも寝てはならぬ」は、観客たちのスタンディング・オベーションと、審査員たちの「Absolutely Fantastic!」という賛辞で迎えられるのです。
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2007.06.14
ガルネリ弦楽四重奏団は、2年後の2009年に演奏活動から引退することを明らかにしました。同楽団は1964年の結成以来、チェリスト以外のメンバー交代を行わなず今日まで活動を続けていましたが、いよいよ終焉の時を迎えるようです。
アルバン・ベルク(来年6月のコロン劇場が最終公演だそうです)、フェルメール、そしてガルネリと、最近大物クワルテットの解散発表が相次いでいます。これこそが正に「世代交代」なのでしょう。
(参照)
PlaybillArts. Guarneri Quartet to Retire in 2009 . (June 11, 2007)
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2007.06.13
最近ジョシュア・ベル とタスミン・リトル が相次いで街頭でシークレット・ライヴを行い話題となりましたが、この2人の高名なヴァイオリニストたちに続く者が現れました。しかも彼は街頭ライヴを一回ポッキリではなく、世界25カ国で「街頭ライヴによるワールドツアー」を行うというのです。
今回のチャレンジャー、David Juritz氏(49)は南アフリカ出身。現在はロンドン・モーツァルト・プレイヤーズのコンサートマスターの要職にありながら、ロイヤル・フィルやロンドン・フィルの客演コンサートマスターも務めるなど、ロンドンを中心に活躍するヴァイオリン奏者です。そんな彼が今回「大道芸の旅」を行うのには理由があります。彼は街頭ライヴを行いながら、貧困地域に住む人たちに音楽教育を受けるための募金活動をするのです。目標金額を50万ポンド(約1億2000万円)に設定した彼は、募金以外にも募金を支援してくれるスポンサーを募るそうです。
Juritz氏は今月8日ロンドンで最初の街頭ライヴを行いました。その後彼は4ヵ月半かけてヨーロッパ、アフリカ大陸、オーストラリア、インド、香港、南米、米国の順に演奏旅行を行う予定です。
(参照・関連記事)
Times Online. Concert violinist to busk his way around the world on charity trip. (June 8, 2007)
BBC NEWS. Violinist in global charity busk. (June 9, 2007)
PlaybillArts. Top London Violinist to Busk His Way Around the World. (June 11, 2007)
Musequality (←今回Juritz氏は、この基金への募金を呼びかけている)
Mancunian Diary. Charity Trip. (June 11, 2007)(←このニュースを伝える日本語ブログ)
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2007.06.08
「エスクァイア」でクラシック音楽特集が組まれて から、一般誌でクラシックを取り上げる機会が増えたような気がしますが、今度は「男の隠れ家」なる雑誌がクラシック音楽を取り上げてくれました(→amazon.co.jp )。私はこの雑誌の存在を今回初めて知ったのですが、普段は旅行や文芸ものなど、「男の趣味」なら何でも記事にする雑誌みたいです。
さてこの「男の隠れ家」ですが、サブタイトルには「大人のためのクラシック」とあります。「わざわざ『大人のための』と付けた意味はどこにあるのかな」と思って中身を読み進めてみると、意外にも(と言っては失礼ですが)浮ついたところのない堅実な内容で、「確かに『大人のための』ガイドだなぁ」と思いました。まず「のだめ」の「の」の字も無いところが「大人」ですし、ライター陣も三枝成彰、青島広志、堀内修、吉井亜彦、諸石幸生、吉松隆、渡辺和彦、そして宇野功芳(以上敬称略)と実に豪華な布陣で、このあたりも「大人」の匂いがぷんぷんします。
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2007.06.06
次は明るいニュースです。ピアニストのアンジェラ・ヒューイットが、今年8月からワールド・ツアーを行います。「Bach World Tour」(→公式サイト )という名のとおり、プログラムはすべてバッハの作品ばかりで構成されていますが、目玉はなんといっても「平均律クラヴィーア曲集」の演奏会シリーズでしょう。ヒューイットは今年8月18日のオスロを皮切りに、世界33都市を10ヶ月かけて巡回し、そのうち26都市では48曲すべてを2夜に分けて演奏します。
そして彼女は(嬉しいことに)日本でも「鍵盤楽器の旧約聖書」を全曲披露します。期日は2008年4月18日(「第1巻」)と20日(「第2巻」)。場所は東京オペラシティ・コンサートホールです。
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古楽アンサンブル「キングス・コンソート」の創設者であり、同楽団の指揮者を務めるロバート・キング受刑者(46)に対し、アイルワース刑事裁判所は3年 9ヶ月の実刑判決を命じました。同受刑者は1982年から1995年までの間に、教え子の少年たち数名にお酒を飲ませたあと、(少年の性器に触るなどの)暴行した罪で起訴されていました。判決後刑は直ちに執行され、キング受刑者は収監されました。今後同受刑者は英国の「性犯罪者リスト」に登録されることになります。
これまでにキング受刑者とキングス・コンソートは、英「ハイペリオン」レーベルから95タイトルのアルバムをリリースしましたが、今後アルバム発売が継続されるかどうかは不明とのことです。しかし所属事務所「ハリソン・パロット」のホームページ からは、キング受刑者の名前は削除されています。
(参考)
BBC NEWS. Child sex abuse conductor jailed. (June 4, 2007)
PlaybillArts. Conductor Robert King Convicted of Abusing Teenage Boys. (June 4, 2007)
Daily Telegraph. Conductor jailed for abusing boys. (June 4, 2007)
Express & Star. Sex abuse conductor is jailed. (June 6, 2007)
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2007.06.03
先ずはYouTubeの動画で「ターンテーブルと管弦楽のための協奏曲」のサワリをお楽しみください。作曲したのはゲイブリエル・プロコフィエフ(Gabriel Prokofiev)、演奏はヘリテイジ・オーケストラ(→公式サイト )とDJ Yodaです。
なんか作曲家の名前が気になりますけど、ゲイブリエルの曽祖父は、なんとアノ、7つの交響曲と5つのピアノ協奏曲を始め、数々の作品で知られるセルゲイ・プロコフィエフなのです(本当です)。ゲイブリエルはこれまでも「バスクラリネット、ピアノ、弦楽三重奏とDJのためのダンス」なる作品を発表したり、クラブに出向いて自作を披露するなど、クラブ・カルチャーに強い関心を持っています。曽祖父セルゲイはかつてシチェドリンに作曲の極意を尋ねられて「それは、いかに聴衆を驚かすかという事だ」と答えたといいます。作風は異なれど、 DNAは確実に曾孫にも伝わっているような気がします。
(参考)
Prokofiev goes clubbing. (Daily Telegraph, March 2, 2004)
Orchestral manoeuvres after dark. (Daily Telegrah, August 31, 2006)
Blackheath Halls - Contemporary Music Group & DJ Yoda
Wikipedia - セルゲイ・プロコフィエフ
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最近とあるホールで、こんな経験をしました。
その日は若手演奏家によるチェロ・リサイタルだったのですが、私の席のすぐ前が丁度「障害者席」でして、コンサートが始まる直前に電動車椅子の方がその席に来られたのです。そのお方は自力で呼吸することも叶わないらしく(おそらくは筋萎縮性側索硬化症のような、筋肉が侵される難病の方なのでしょう)、車椅子には鞴(ふいご)のようなレスピレーターが備え付けられていました。その機器を見て「ひょっとして…」と私が案じた通り、演奏会のあいだ、私の耳には「ゴー」「ゴー」と鞴が作動する音が間断なく聞こえていました。
やがて演奏会はアンコールに入り、チェリストは「鳥の歌」を演奏し始めました。チェロの祈るような響きと、空気を送るレスピレーターのサウンドが交錯する様を耳で感じながら、「生き物の『生』とは何だろう」そして「自分の力ではどうしようもない運命に身を委ねるとき、人間は何を思うんだろう」と思いを巡らせていました。
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2007.06.02