二度あることは三度ある熱狂(その6)
祭りの喧騒が終わってから4日が経ちましたが、ネット上の評判を見るとミシェル・コルボのフォーレ「レクイエム」の評価がダントツですね。私も2日目の公演(#214)に足を運びましたが、あのときだけは5000人収容の東京国際フォーラム・ホールAが大聖堂に変身したかのような、そんな神聖なムードに会場が包まれていました。「サンクトゥス」や「イン・パラディスム」での厳粛な音楽には身震いしそうなほど感動しました。それからラドゥロヴィチやエベーヌSQも前評判通りの演奏を披露したようです。私はタイムテーブルの都合で(他の公演とダブった…)彼らの公演は泣く泣く断念したのですが、次来日したときにはぜひ世評を確認したいところです。「泣く泣く断念」といえば、ディールティエンスやラーンキが聞けなかったのも悔いが残りますが、日程が合わないものは仕方ありません。まあミャスコフスキー「チェロ・ソナタ第1番」(#335)、マルティヌー「ヴァイオリン協奏曲第2番」(#212)、ストラヴィンスキー「結婚」(#347)など、なかなか演奏の機会に恵まれない曲を沢山聴けただけで満足しないとバチが当たります(笑)。
そんな中でとりわけ印象に残った「マイ・ベスト・コンサート」は、アクサントゥスの北欧合唱曲(#234)です。これはプログラム発表時から楽しみにしていましたが、実際は期待通り、いやそれ以上のものがありました。クーラもラウタヴァーラ(管弦楽曲より、この日聞いた合唱曲の方が私の好み)も、そしてヒルボリの「ムウヲオアヱエユイユエアオウム」も良かった(最後は口笛まで駆使していた!)ですが、最初プログラムに無かったシベリウスの「恋人」も聴けて大満足の50分間でした。技術的に確かな合唱アンサンブルが感情を込めて歌うと、あんなに素敵な音楽になるんですね。あと演奏家では佐藤俊介、ドマルケット、コロベイニコフといった若手が素晴らしかったですし、クニャーゼフやゴーディエ・カプソンもハイレベルの演奏を披露していました。管弦楽ではリス指揮ウラル・フィルがとても良い仕事をしていました。いや彼らがもし不味い演奏を連日展開していたら、それこそ音楽祭全体が大変なことになってましたよ。敢えて名前は挙げませんがスペインから来たオケは「管弦楽のための協奏曲」の最後の最後でシンバルが1小節遅れてしまい(しかもそれにつられティンパニも出が遅くなった)、何だか締まらない終わり方になっちゃいましたし、ポーランドから来たオケは指揮者と各メンバーの呼吸が全く合わず、完全にアマオケレベルの演奏でした。客席からは「アンサンブル完全崩壊だなぁ」なんて声も上がってました(もっとも別の日の公演では、まるで別のオケかと思うほどの名演を見せてくれましたが)。そんなオケの演奏を立て続けに聞いた後だから余計にウラル・フィルの堅実で丁寧な音楽表現には救われた気がします。あとオーケストラ演奏では、展示ホールでの桐朋音大オケ「春の祭典」が話題になっていましたね。第1回以来の常連である彼らを、そろそろ有料公演へ参加させても良いのではないでしょうか。
さて「熱狂の日」音楽祭も3年目を迎え、世間では「子供連れでも気軽に参加できる音楽祭」としてすっかり定着した感があります。そんなファミリー層に大人気なのが「キッズプログラム」です。実はネオ屋台村でカレーを食べているとき、ある親子連れの方と合席したのですが、そのご家族も「キッズプログラム」の参加者でした。その方は「去年小曽根さんのモーツァルトを聞いて今年も参加しました」「今日も小曽根さんのキッズプログラムに参加したのですが、民話のあらすじに沿って次々と音楽を付けていくのを間近で見て『さすがプロだなぁ』とびっくりしました」「僕らのような家族連れは普段コンサートに行けないですから、こういう場所は有難いです」と仰っていました。このようにプロフェッショナルたちと直接コミュニケーションする機会というのは実に貴重ですし、子供たちにとって大きな刺激となるでしょう。「キッズプログラム」はメインのコンサートに勝るとも劣らない、重要なイベントだと思います。私はこれからも「子供に優しい音楽祭」というイメージを壊さないで欲しいなと思います。その一方「0歳からのコンサート」を今後どう位置づけていくかが、今後の課題のような気がします。つまり、この乳幼児に解放されたコンサートが「子供のため」なのか、それとも「小さな子供のいる大人たちのため」なのか、ということです。子育てに奔走するパパやママをターゲットにした演奏会であれば今のプログラム構成でもいいでしょうが、本当に乳幼児をターゲットにしたいのなら、子供たちを飽きさせない工夫が必要かもしれません。参加者の中には「もう少し小さいホールにして、子供がステージに集中できるようにした方が…」という意見もあります。私は小品を10曲くらい並べてバラエティある曲構成にした方が良いような気がしますが、あのメガネのフランス人は恐らく来年も子供を特別視せず、「硬派」なプログラムで勝負するのでしょうね(笑)。
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(Reference)
●Program #254
1.Bartók: Rhapsody No.1
2.Szymanowski: La fontaine d'Arethuse
3.Falla/Kokhansky: Siete canciones populares españolas
4.Ravel: Sonate pour violon et piano
Syunsuke Sato(Violin)Yu Kosuge(Piano)
(May 3, 2007, Hall D7)
●Program #332
1.Sibelius: The Broken Voice (Sortunut ääni) Op.18-7
2.Sibelius: The Lover (Rakastava)
3.Kuula: Rock My Child to Tuonela (Tuuti lasta Tuonelahan) Op.11-4
4.Kuula: Yonder the Apple Trees are Blooming (Siell' on kauan jo kukkineet omenapuut) Op.11-1
5.Rautavaara: Summer Night (Sommarnatten)
6.Alfvén: Aftonen
7.Wikander: King Lily of the Valley (Kung Liljekonvalje av dungen)
8.Hillborg: Muoaeuyaem
9.(Encore) Koscak Yamada: Kane-ga-Narimasu
Accentus, Laurence Equilbey(conductor)
(May 4, 2007, Hall B5)
●Program #333
1.Saint-Saëns: Le Cygne
2.Debussy: La plus que Lente
3.Debussy: Clair de lune
4.Debussy: Minstrels
5.Duparc: L'invitation au voyage
6.Ravel: Pavane pour une infante défunte
7.Ravel: Piece en forme de Habanera
8.Chopin: Introduction and Polonaise brillante for Piano and Violoncello in C major
Henri Demarquette(Cello) Andrei Korobeinikov(Piano)
(May 4, 2007, Hall B5)
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