メトの世界戦略、そして…
先月27日に行われたメトロポリタン歌劇場の記者会見で、ピーター・ゲルブ総支配人は2007/08シーズンの演目を発表(詳細は「オペラキャスト」でどうぞ)するとともに、現体制での最初のシーズンとなる06/07シーズンが順調なスタートを切ったことをアピールしました。発表によると、チケットの売上は昨シーズンよりも9%増加し、61公演がソールドアウトしたといいます(ちなみに去年は22回)。
また「METライブビューイング」も好調に推移しているようです。「エウゲニー・オネーギン」は全世界で合計約5万人が足を運びました。カナダでは「オネーギン」が映画興行成績ランキングの第8位に入ったそうです。このライブビューイング、日本でも好調なセールスを受けて、4月からは郊外のシネコンでも上演が開始されます。私は「シネコン」といえば「ジャ○コの隣にある映画館」というイメージなんですが、この調子でどんどん上演映画館が増えると、買い物がてらにぶらっとオペラを観劇なさる方が増えそうですね。普段着で買い物袋を抱えて入場し、ポップコーンをほおばりながらオペラ、なんて光景も見られるかもしれません。
それにしてもゲルブ体制は「攻め」の姿勢が目立ちます。今期の開幕公演「蝶々夫人」でのパブリックビューイングといい、映画館でのライブビューイングといい、より多くの人々にオペラを見せようという「大衆化」路線を鮮明に打ち出しています。そして世界中の映画館でメトの舞台を見せることで、観客をニューヨークだけでなく世界規模に拡大していこうという意図も見えます。この積極的な「世界戦略」がいつまで続くかは判りませんが、ゲルブ体制がこのまま続き、METライブビューイングがどんどん広がれば、ニューヨーク以外の世界各地の歌劇場にとって大きな脅威となる可能性もあります。もちろん日本だって例外ではないでしょう。もっともライブビューイングの音質は、ピットオケの生演奏のようには行かないと思いますが。
さてニューヨークで積極姿勢のオペラハウスはメトだけではありません。「ニューヨーク・シティ・オペラ」は、2009年から芸術監督にジェラール・モルティエ氏が就任すると発表しました。モルティエ氏は現在パリ・オペラ座総裁ですが、個人的にはザルツブルグ音楽祭芸術監督時代の仕事の方が印象深いです。彼は「カラヤン亡き後の音楽祭の芸術的水準を高めた」という評価がある一方、「彼の周囲にはケンカが絶えない」という印象も無きにしもあらずです。ともあれまさにメトという「巨人」と対峙することになるモルティエ氏が今後どう動くか。英語圏のブログを眺めても、彼の動向に注目している人は多いです。
(参考)
PlaybillArts. Metropolitan Opera to Expand New Productions, Movie Theater Simulcasts in 2007-08 (February 27, 2007)
The Rest Is Noise. Good news at the Met. (February 27, 2007)
The Rest Is Noise. Good / crazy news at City Opera. (February 27, 2007)
Businessweek.com. Mortier to take over New York City Opera (February 28, 2007)
フジサンケイビジネスアイ. 松竹、オペラ武器に戦略強化 劇場上映に加えシネコンでも (February 27, 2007)
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