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2007.03.11

三鷹の天使の詩

Dem_andenken_eines_engels_1 少し前の話になりますが、三鷹市芸術文化センターで行われた「トウキョウ・モーツァルトプレイヤーズ(TMP) 春の名曲コンサート」(3/3)は、実によい演奏会でした。2分足らずのモーツァルト「バスティアンとバスティエンヌ」序曲に始まり、協奏作品2曲を経て最後にベートーヴェンの「田園」というプログラム全般を通じ、個々のメンバーの力量の高さと清涼感のあるアンサンブルを楽しむことができました。ニーノ・ロータのレアな作品「コントラバスのための協奏的ディヴェルティメント」も「田園」も良かったのですが(特にコントラバス・ソロの黒木岩寿氏の奮闘ぶりといったら!)、ここではプログラム3曲目のアルバン・ベルク「ヴァイオリン協奏曲」について触れてみたいと思います。難曲をいともたやすく、まるでモーツァルトやベートーヴェンのように演奏する江口有香さんも見事でしたが、ここで書くのはそれとは別の、曲全体の解釈やイメージに関することです。

 この日のTMPは第1ヴァイオリンが6~7名、その他の弦楽セクションも一般的なフル・オーケストラよりも少なめでした。これはアルバン・ベルクでも同様で、ソリストが大管弦楽をバックに演奏するのが通例のこの曲を、TMPは「やや小編成」で演奏したことになります。このためソロとオケとの響きのバランスがいつもと違ったものとなりました。オケのサウンドの「厚み」が後退した分、ソリストの音の存在感は相対的に増していました。また小編成で響きが薄くなる分、作品の「構造」がより明瞭になり、ベルクの音楽の「芸の細かさ」もより一層聴衆に伝わったような気がします。
 特に「面白いな」と感じた箇所は、バッハのコラールが登場する第2楽章の後半(変奏曲:136小節目~)です。一般的な演奏だとクライマックスでオケが「大爆発」を起こしたあと、靄のように煙が立ち込めるなかをヴァイオリン独奏のコラールが垣間見える、といった雰囲気なのですが、この日の演奏ではコラール主題が最初からくっきりと浮かび上がり、まるでカンタータの独唱パートのようでした。そのあとも各パートの音が実にクリアに聞こえてきましたし、対位法的表現も実に鮮やかでした。

Manon_gropiusjpg そしてこの楽章の山場で、独奏パートに第1ヴァイオリン奏者が1人、また1人と加わりソロと同じフレーズを弾く場面(170小節目以降)があります。これまで私は何となく「ソリストがオケの大音量に埋没するのを防ぐため、第1ヴァイオリンが音量面でサポートしている(俗に言う『アシ』)のかな」と思っていました。しかしこの日の演奏を聴いていると、この興味深い管弦楽法には「音を補強する」以上の意味があるような気がしてきました。この日の演奏からは、一人づつ奏者が加わる度に音楽そのものの「力」がどんどん増していくのが手に取るようにわかったのです。これはプーランクのオペラ「カルメル会修道女の対話」で修道女が一人、また一人と断頭台の露となっていく場面の音楽(神々しい女声合唱が徐々に勢いを失っていく…)とは、まさに真逆の音楽表現です。つまり「一人づつ奏者が加わる」こと自体に何らかの意味が込められているように感じられたのです。周知のようにこの協奏曲は「ある天使の思い出に」捧げられているのですが、TMPの演奏を聴いているあいだ、私は「天使になった主人公がまさに昇天せんとするとき、他の天上の天使たちが次々とやってきて、共に寄り添いながら天国へ向かっていく…」といった情景を思い浮かべていました。

(写真)猫を抱くマノン・グロピウス。ベルクは彼女の死に触発されて「ヴァイオリン協奏曲」を書いたと云われている。

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●Program Note●
Tokyo Mozart Players
43rd Subscription Concert
Date: March 3, 2007
Venue: Mitaka City Arts Center Concert Hall

1.Mozart:Bastien und Bastienne Overture
2.Rota:Divertiment concertante
3.(Encore)Françaix:Theme et Variations
4.Berg:Violinkonzert
5.Beethoven:Sinfonie Nr.6 Op.68 F Dur "Pastorale"

Iwahisa Kuriki(Contra Bass)
Yuka Eguchi(Violin)
Conductor:Tatsunori Numajiri

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