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2007.02.17

ジョイス・ハットーのCD録音はニセモノ!?

Hatto_fake

 すでに「ピアノ音楽名盤選」でも取り上げられていますが、「幻の名ピアニスト」として日本にもファンの多いイギリスのピアニスト、ジョイス・ハットー(1928-2006)のCD演奏が、実は他のCD録音をコピーしたものだ、と英「グラモフォン」誌が指摘しています(参照)。同誌によると彼女のリスト「超絶技巧練習曲集」の録音は、「マゼッパ」がラスロ・シモン(BISレーベル)、「鬼火」が野島稔(Referenceレーベル)の演奏と全く同一のものだといいます。そして世評の高かった彼女のゴドフスキー「ショパンのエチュードに基づく練習曲集」の録音(写真)は、カルロ・グランテの録音に15%ストレッチング処理を加えた(つまり「引き伸ばした」ということ)(訂正)カルロ・グランテの録音を元に15%時間を圧縮したものらしいです。まだあります。ハットーのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」の演奏は(あろうことか)イェフィム・ブロンフマンとエサ=ペッカ・サロネンのCD(Sony)と全く同一だということです。
 なんとも大変なスキャンダルですが、「グラモフォン」誌がこの件の調査を始めたきっかけは、ほんのささいな出来事でした。

Simon_liszt_1 イギリスのとある批評家が、ハットーの「超絶技巧練習曲集」のCDをパソコンにセットしたところ、そのパソコンの画面には(ハットーではなく)シモンのCDのジャケ写(写真)が映し出されたのです。驚いた批評家が実際にハットーとシモンの演奏を聞き比べたところ、「2人の演奏はどうやら同じものらしい」と感じたそうです。更にこの批評家が彼女の演奏するラフマニノフのディスクをパソコンにセットしたところ、今度はブロンフマンとサロネンのCDのジャケ写が映し出されました。比較試聴の結果、2つのディスクの内容は「うり2つ」でした。
 「グラモフォン」誌はPristine AudioのAndrew Rose氏に鑑定を依頼しました。Rose氏は(波形分析など)科学的手法でハットーの演奏と他の演奏家の録音とを比較しました。その結果はイギリスの批評家の「耳の確かさ」を裏付けるものでした。Pristine Audioの特別サイト「Joyce Hatto - The Ultimate Recording Hoax」では、ハットーの演奏とオリジナルの録音とを実際に聞き比べることができます。左チャンネルからはハットー、右チャンネルからはオリジナル録音が流れてくるのですが、私が聴いた限りでは相違点は全く見出せません。皆様もどうぞお確かめください。

(追記)Wikipediaの英語版が早速更新されてます。ブラームス「ピアノ協奏曲第2番」が実はアシュケナージの演奏だなんて…。今までこれを聞いて喜んでいたファンはどんな気持ちでいるでしょう。心中お察し申し上げます。

(2/20追記)訂正です。当初ハットーのゴドフスキー録音は「グランテのCD録音を15%引き伸ばしたもの」と記載いたしましたが、実際は「グランテのCD録音を元に15%時間を圧縮させたもの」でした。おわびと共に訂正いたします。

(2/20追記その2)本日付の「デイリー・テレグラフ」紙に、ハットーの夫であり、彼女のCDを世に送り出したWilliam Barrington-Coupe氏のインタビュー記事が出ています(参照)。Barrington-Coupe氏は「演奏したのはハットー自身だ」と述べ、一連の疑惑を否定しました。また彼は「CD販売を今後も続けていく」と述べています。

(2/23追記)あぁ…。Wikipedia(英語版)にリストアップされた録音が増えてる…。「ハットーのドビュッシー『前奏曲集』は、実は館野泉のもの」て…。
しかし英語圏のブログを眺めてみて感じるのは、冷静に事実を見つめようとするブロガーたちの姿勢です。中でも音楽評論家、Jessica Duncan氏によるこの記事は一読に値します。もっともDuncan氏は(ハットーのレコーディングそのものより)卵巣ガンで長く辛い闘病生活を余儀なくされたという、彼女の後半生にいたく心を打たれているのですが。
またネット上で読めるジョイス・ハットーに関する記事のまとめサイトが出来ています。全て英語ですが、興味のある方はどうぞ。

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Tracked on 2007.03.06 15:24

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