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2007.01.08

U-31(31歳以下)の指揮者たち

 昨年末に購入したディスクのなかで、私のお気に入りの一つとなっているのが、トゥガン・ソヒエフの「展覧会の絵」(写真)です。「naive」レーベルならではのアーティスティック・ポイントの高いジャケ写に釣られ、ついレジに持っていってしまったのですけど、トゥールーズ・カピトール管のポテンシャルをフルに引き出した演奏はなかなかのものでした。同封ブックレットによるとソヒエフは北オセチア出身で現在28歳とあります。北オセチアといえば、どうしてもワレリー・ゲルギエフを連想してしまうのですが、ソヒエフの「展覧会の絵」はフランスのオケの持つ「繊細さ」「上品さ」を前面に押し出しながらも、時折同郷の先輩を思わせるような「勇ましさ」が時折顔を覗させるという、なかなかユニークな味わいを持っています。カップリングのチャイコフスキー「交響曲第4番」はアンサンブルに1ランク上の精度が欲しいところでしたが、それでもデビューCDとしては上々の滑り出しではないでしょうか。
 さて最近の音楽界では20代の指揮者は決してレアではありません。ソヒエフとおなじ20代のドゥダメルブランギエの活躍ぶりは当ダイアリーでも取り上げていますが、この3人には「若い」という以外にも共通点があります。実は彼らは所属事務所も同じなのです。彼らの音楽事務所「Askonas Holt」にはアバド、ヨー・ヨー・マ、ボストリッジら多くの有名演奏家を抱えていますが、現在ベルリン・フィルの首席指揮者を務めるサイモン・ラトルを17歳の頃から(!)サポートしてきたエージェントです(参照)。更にはラトルと同郷で、彼の跡を追うような活躍ぶりを見せるダニエル・ハーディングも「Askonas Holt」の所属です。おそらくこの二人の「成功」に続けとばかりに、次の世代のアーティストの発掘に力を入れているのでしょう。そして「Askonas Holt」以外にも「IMG Artists」、「HarrisonParrott」、「Van Walsum」といった音楽事務所も負けじと若手指揮者のサポートに熱心に取り組んでいます。

<当エントリはここからが長いので、読者の皆様はご注意ください>

 ここで「新進気鋭」といえる31歳以下(そのほどんどが20代)の指揮者たちをリストにしてみました。

-------U-31(31歳以下)の指揮者たち-------

イラン・ヴォルコフ(Ilan Volkov;1976-)[VW]
1999年 ボストン響の副指揮者に
2003年 BBCスコティッシュ管の首席指揮者に(現職)

ジョアナ・カルネイロ(Joana Carneiro;1976 - )[IMG]
2004年 ロサンゼルス・フィルの副指揮者に(現職)
2006年 グルベキアン管の客演指揮者に(現職)

ワシリー・ペトレンコ(Vasily Petrenko;1977 - )[IMG]
イリア・ムーシン、ユーリ・テミルカーノフらに師事
2006年 ロイヤル・リヴァプール・フィルの首席指揮者に(現職)

トゥガン・ソヒエフ(Tugan Sokhiev;1978 - )[AH]
イリア・ムーシン、ユーリ・テミルカーノフらに師事
2000年 ロシア国立響の首席指揮者に
2003年 メトロポリタン歌劇場にデビュー
2005年 トゥールーズ・カピトール国立管の首席客演指揮者に(現職)
2006年 CDデビュー

アラン・ブリバエフ(Alan Buribayev;1979 - )[IMG]
2004年 マイニンゲン劇場の音楽監督に(現職)
2007年 ノールショピング響の首席指揮者に(予定)

ミッコ・フランク(Mikko Franck;1979.1.2 - )[HP]
16歳でヨルマ・パヌラに師事
2001年 CDデビュー、欧州各地で指揮活動
2002年 ベルギー国立管の音楽監督に(現職)
2004年 フィンランド・オペラの音楽監督に(現職)

ステファン・ソリオム(Stefan Solyom;1979.4.26 - )[VW]
レイフ・セーゲルスタム、ヨルマ・パヌラらに師事
2000年 シベリウス指揮者コンクールで優勝
BBCスコティッシュ響の副客演指揮者(現職)

アレクサンダー・シェリー(Alexander Shelley;1980- )[AH]
2001年 「シューマン・カメラータ」をデュッセルドルフで創設
2005年 リーズ国際指揮者コンクールで優勝
2006年 「BBCプロムズ」デビュー

ピエタリ・インキネン(Pietari Inkinen;1980-)[IMG]
ヴァイオリンをザハール・ブロンら、指揮をヨルマ・パヌラ、レイフ・セーゲルスタムらに師事
バイエルン放送響、バンベルグ響などで指揮

グスターボ・ドゥダメル(Gustavo Dudamel;1981.1.26 - )[AH]
1999年 シモン・ボリバル国立ユース管の音楽監督に(現職)
2006年 CDデビュー
2007年 エーテボリ響の首席指揮者に(予定)

ロリー・マクドナルド(Rory Macdonald;1981-)[VW]
2001年 ブダペスト祝祭管の副指揮者に(-2003)
2006年 ハレ管弦楽団の副指揮者に(現職)

エヴァ・オッリカイネン(Eva Ollikainen;1981 - )[HP]
ヨルマ・パヌラらに師事
2006年 新日本フィルを指揮
同年  タングルウッド音楽アカデミーに招待される

ヤクブ・フルシャ(Jakub Hrusa;1981- )[IMG]
イルジー・ビエロフラーヴェクらに師事
2005年 プラハ・フィルの首席指揮者に(現職)
2006年 CDデビュー

ロビン・ティチアーティ(Robin Ticciati;1983 - )[AH]
2005年 スカラ・フィルを指揮
2006年 ザルツブルグ音楽祭で「シピオーネの夢」を指揮(DVD化)
2007年 グラインドボーン音楽祭の音楽監督に
2008年 スカラ座で「コシ・ファン・トゥッテ」を指揮(予定)

リオネル・ブランギエ(Lionel Bringuier;1986.9.24 - )[AH]
2005年 ブザンソン指揮者コンクールで優勝
2007年 ロサンゼルス・フィルの副指揮者に(予定)

[  ]カッコ内は所属事務所。
AH=Askonas Holt, HP=HarrisonParrott,
IMG=IMG Artists, VW=Van Walsum

(※)なお生年月日についてはネット情報を基にしているため、実際の生年と異なる可能性は否定できません。誤りなどがありましたらご遠慮なくコメント欄やメールなどでご連絡下さいませ。

(以上リストおわり)
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U31_conductors_01

 この世代で今のところ群を抜いて知名度が高いのはミッコ・フランク(写真上・左)でしょうが(というかまだ20代だったのか…)、なにげにすごいのがロビン・ティチアーティですよ。22歳でスカラ・フィルを指揮したり、去年はザルツブルグ音楽祭のピットに入ったりして、既に巨匠並みの活躍です。
 個人的にプロフィールを眺めて気になったのは…。まずピアニストのハワード・シェリーのご子息であるアレクサンダー・シェリー(写真上・中)。「21歳で楽団創設」て何気にすごくないですか?すでにプロムズにも出てるし、英国指揮者好きな私としては注目です。あとピエタリ・インキネン(写真上・右)はウェブラジオで一度聞いたような聞いてないような…(不確かな記憶で申し訳ないです)。でもヴァイオリンをブロンに習い、指揮をパヌラに師事って…、すごい学歴ですよ。東大卒業して京大医学部に入るようなもんでしょ(笑)。ヴァイオリンも指揮も両方スゴイ、ということで今日から私は勝手ながらインキネンのことを「フィンランドの千秋様」と呼びたいと思います(笑)。そしてチェコ出身のヤクブ・フルシャ(写真下・左)。すでに来日もされていて、共演者の評価も高いようです。私チェコのオケも好きですし、指揮者も好きなので、機会をみて彼の生演奏を聴いてみたいですね。そしてジョアナ・カルネイロ(写真下・中)とエヴァ・オッリカイネン(写真下・右)のお二人にも(「女性だから」とかそんなの関係ナシに)頑張っていただきたいですね。
 ラジオやら録音やら聞いたことのある演奏家でいえば、リオネル・ブランギエはきびきびとした歯切れの良い音楽進行が印象に残りました。きちんと自分なりの「音楽」を作っていたと思います。そして話題のグスタヴォ・ドゥダメルですが……、皆さんどう思われますか?私の個人的な意見ですが、ベートーヴェンでの猪突猛進ぶりというか「電車道を一直線!」みたいな演奏を聞くと、彼はすごく音楽的センスがあると思うんです。しかし100人もの楽団員から発せられる音をきちんと「コントロール」する技術がまだ不足しているような気がします。まあ私が聞いた演奏はオケがベネズエラのユースオケだったので、プロオケできちんと聞いてみたいですね。ちょうど彼が今月4日にロサンゼルス・フィルを指揮したときの演奏が来月iTunesでリリースされるようですし(曲目はバルトーク「管弦楽のための協奏曲」、コダーイ「ガランタ舞曲」など:脚注参照)、楽しみです。
 さて今回私はこのエントリを書くにあたり、ネット上のあちこちをうろついていたんですが、色んな情報を見ていると「U-31」世代の一つ上のカテゴリ(て、今私が勝手に作ったんですが…)である「U-35」(35歳以下)の指揮者たちも、世界中でかなりの活躍を見せていることが分かります。次は「U-35の指揮者たち」について取り上げてみたいと思っています。

(脚注)この情報は公演の模様を伝える記事(その1その2)で知りました。それにしても「There wasn't a dead or dull moment.」(「退屈な瞬間が一時も無かった」)とか「He is the orchestra」(「彼こそオーケストラそのもの」)とか、何とも熱狂的なフレーズを見ると、かえって「ホンマかいな!?」と身構えてしまうのが悲しいクラヲタの性なのです…。

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Comments

oyama様こんばんは。情報ありがとうございました。
武蔵野市文化会館(そして武蔵野文化事業団)の熱心な活動ぶりについては兼ねてから耳にしておりますが、それにしても若手指揮者の演奏が廉価で聴けるというのは好企画ですね。

Posted by: おかか1968 | 2007.01.26 at 19:38

はじめまして。楽しく拝読させていただいています。

私の住まいに近い東京・武蔵野市の武蔵野市民文化会館は、31歳以下の世界の若手指揮者のうち、イラン・ヴォルコフ(2004年東京フィル)、エヴァ・オッリカイネン(2006年新日本フィル)、ヤクブ・フルシャ(2006年新日本フィル)をの3人を既に招聘して、廉価でオーケストラ・コンサートを開いております。

情報の補足まで。

Posted by: oyama | 2007.01.26 at 11:05

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