【演奏会レポ】ラデク・バボラーク ホルン・エレガンス
(曲目)
1.プント:ホルン協奏曲第5番ヘ長調
2.モーツァルト:交響曲第32番ト長調 K.318
3.同:断章変ホ長調 K.370b
4.レスピーギ:リュートのための古風な舞曲とアリア 第3組曲
5.ロータ:カステル・デル・モンテ(ホルンとオーケストラのためのバラード)(1974)
6.モーツァルト:ロンド変ホ長調 K.371
7.ブラームス(ボク編):ホルン三重奏曲変ホ長調 Op.40(ホルン、ヴァイオリンと管弦楽のための編曲版)
(演奏)
ラデク・バボラーク(ホルン;1,3,5-7)豊嶋泰嗣(ヴァイオリン;7)広上淳一指揮新日本フィルハーモニー交響楽団
(2006.10.29 すみだトリフォニーホール)
今回の上京のもう一つのお目当ては、チェコ出身で現在ベルリン・フィルの首席ホルン奏者を務めるバボラークが協奏作品を5曲も披露するという、滅多とないプログラミングのコンサートでした。彼の演奏はこれまでもオーケストラの一員として、またソリストとしてCD、ラジオ、そしてテレビなどのメディアを通じて何度か耳にしたことがあるので、アーティストとしておおよそイメージは掴んでいたつもりでした。しかしこれほどまでホルンの「音」そのもので酔わせてくれるとは思いませんでした。ホントに彼の出す音全てが、今まで聴いたことのないような高品位のサウンドだったもので…。「ホルンでこんな柔らかくてスムーズな音が出せるんだぁ」「なんでこんなに音がクリアで粒が揃ってるんだろう…」と、演奏会のあいだずっと聴き惚れていました。
それにしてもバボラークのホルンから繰り出される音の多彩さはどうでしょう!オーケストラを完全に凌駕するボリュームのフォルテシモで会場を制圧したかと思えば、透き通るようなピアニシモでホールを静寂の世界に変えてしまいます。英雄的なファンファーレを高らかに鳴らすこともできれば、甘いカンタービレで聴衆を魅了することもできます。彼の表現力の驚異的な幅広さをこれほどまでに見せつけられると、「今のバボラークには出せない音は無いんじゃないか」と思っちゃいます。というわけでこの日はまさに「バボちゃん・オンステージ」。コンサート会場は彼の完全無比なる演奏技術のプレゼンテーションの場と化したのでした。
でも新日本フィルの面々もバボラークに押されっぱなし、というわけではありませんでした。4曲目のレスピーギでの弦楽セクションの磨きぬかれたアンサンブルは透明感があってとても素敵でした。あとこの日のオケのホルン奏者たちは実にやりにくかったのではないかと勝手な想像をしてしまうのですが(笑)、どの曲も破綻無く、しかも堂々と演奏していました。これこそ正に「プロの仕事」ですね。
曲目的には5曲目のニーノ・ロータが印象的でした。甘美な調べと、ドラマティックな構成力を兼ね備えた作品で、なかなかの佳作だと思います。ところでこの曲はユネスコの世界遺産に指定されている中世の古城と何らかの繋がりがあるのでしょうか。当日配られたプログラム・ノートではそのことに触れられていなかったので、つい気になってしまいました。
さてメインのブラームスですが、この作曲家らしい重厚さに欠けたアレンジにはいささか閉口させられました。私も素人ながら「どうしてそこはファゴットなんだ!?」「なぜそこでトロンボーン三重奏なんだ!?」などとツッコミを入れながら聴いておりました。ただソリストたちと管弦楽は十分に仕事を果たしたと思います。その中でやはり印象的だったのはバボラーク。彼のレガートは巨匠ヴァイオリニストもさぞやと思わせる滑らかさでした。このあたりの繊細な表現はCDではなかなか伝わって来ないですね。生で聴いて改めて彼の凄さ、そして芸術性の高さを実感した次第です。
最後にホールについて。実に素晴らしい響きを持ったホールですね。残響の音も独特の清涼感があって美しいです。ここをホームにしている新日本フィルは本当に幸せなオーケストラです。
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●Program Note●
"Radek Baborák Horn Elegance"
Venue:Sumida Triphony Hall, Tokyo
Date:October 29, 2006
1.G.Punto:Horn Concerto No.5 in F major
2.Mozart:Symphony No.32 in G major K.318
3.Mozart:Fragment in E-flat major K.370b
4.Respighi:Antiche aeie e danze per liuto, terzo serie
5.Rota:Castel del Monte, Ballataper corno e orchestra
6.Mozart:Rondo in E-flat major K.371
7.Brahms/Bok:Horn Trio in E-flat major Op.40 [Arrangement for Horn, Violin and Orchestra]
Radek Baborák(1,3,5-7;Horn)Yasushi Toyoshima(7;Violin)Junichi Hirokami conducts New Japan Philharmonie
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