何か最近ベー7ばっかり聴いてるような気がするな
それはベートーヴェン「交響曲第7番」の第2楽章冒頭部です。チェロとコントラバスが静かに和音を刻むとき、指揮棒を持つベームの右手はほとんど動きらしい動きを見せませんでした。もっとも実際には手を動かしてはいるのですが、それは本当にミリ単位のかすかな、ゆったりとした動きでした。「これじゃ演奏家は指揮者のテンポが分からないよ…」と幼い私は心配しながら眺めていました。でもオーケストラの音はベームのわずかな手の動きと明らかにシンクロしていました。「これってベームの指揮に合わせて音を出してるのか、それとも…逆!?」と実に恐れ多いことが頭をよぎったりしたものです。しかし子供心にベームの右手と、その右手によって導かれる、重々しい引きずるような足取りの音楽は、尋常ならざるものとして私の脳裏に深く刻まれたのです。
その後何十回となくこの曲を聴くようになっても、そのたびに思い出されるのは1980年のベームの演奏でした。殆どトラウマのような強い体験となった演奏を心の中で思い起こすうちに、この演奏がまるで重い十字架を背負ってゴルゴダの丘へと向かうキリストの受難をイメージしてるのではないか、と思えるようになりました。そんな「生きることの苦しさ」がひしひしと伝わるようなベームの演奏を、今回のDVD化で追体験することができたのは実に有り難かったです。さらに第2楽章以外の「第7番」も重厚かつ壮大な、実に堂々たる演奏ですし、カップリングの「交響曲第2番」も、襟を正したフォーマルな雰囲気に満ちていて見事です。特典映像で収録されたリハーサル風景も、ベームが実に細かいところまで拘って音楽作りに取り組んでいることが分かって興味深いです。
さてNHKがこの公演のDVD化に踏み切ったことには敬意を払わずにはいられないのですが、ベーム&ウィーン・フィルの「第7番」と同じくらいの(人によってはそれ以上の)インパクトを与えたと思われる、カルロス・クライバー指揮バイエルン州立管の来日公演(1986年5月19日)での「第7番」を是非ともDVD化して頂きたいものです。爆発的躍動感に溢れた「音とリズムの饗宴」といえる演奏と、「蝶のように舞い、蜂のように刺す」クライバーの華麗な指揮ぶりが余すところなく収められたこの映像が、再び日の目を見るのはいつのことなのでしょうか。我が家では「永久保存版」扱いのVHSの滲んだ映像ではもう満足できません(笑)。
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●Product Note●
KARL BÖHM WIENER PHILHARMONIKER
LIVE IN JAPAN 1980
1.Beethoven:Symphony No.2 in D major Op.36
2.Beethoven:Symphony No.7 in A major Op.92
(October 8, 1980. Showa Women's University Hitomi Memorial Hall, Tokyo)
Extra Truck;Rehearsal & News Footage
(NHK DVD, NSDS-9485, ASIN:B000H4W976)
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