【演奏会レポ】名フィル定期「タコ・タコ・タコ」
(曲目)
1.ショスタコーヴィチ:交響詩「十月革命」 Op.131
2.同:チェロ協奏曲第1番 Op.107
3.(アンコール)ヴァスクス:ドルチッシモ
4.同:交響曲第15番 Op.141
(演奏)
ソル・ガベッタ(チェロ:2,3)広上淳一指揮名古屋フィルハーモニー管弦楽団(1,2,4)
(2006.10.7 愛知県芸術劇場コンサートホール 「創立40周年記念シリーズ 第329回定期演奏会」)
広上淳一のショスタコーヴィチ演奏は、以前ラジオで「交響曲第5番」(たしかオケは東京フィルだったか…)を聴いた際に、その明晰な解釈と充実感のあるサウンドがすごく印象に残っていました。最近益々世界的な活躍を見せる広上さんを、日本で(しかも比較的安価で)聴ける機会は今後そうそう無いかもしれないと思い、悪天候を突いてオール・ショスタコーヴィチ・プログラム(これぞ「タコ三連発」!?)を聴くため遠路はるばる名古屋へと出かけました。私が座ったのはホールの3階席で、椅子に座ったとき正直「こりゃちゃんとした音が耳に届くかどうか…」と心配になりましたが、1曲目の冒頭部から充実した低弦の響きが聞き取れたので、「あっ、ちゃんとショスタコーヴィチの音がする…」と驚かされました。ここで私が「スピーカーはどこだ?」と辺りをきょろきょろしたのは内緒ですが…。
ともあれ「十月革命」での男性的で筋肉質な、実にいい具合に引き締まったオーケストラサウンドは聴いていて実に爽快でした。対位法的な音の処理も的確で、フレージングも活舌良く、実に小気味よく音楽が進行します。まさに「ショスタコーヴィチ・サウンド」と呼ぶに相応しい音楽が目の前で展開されていました。
2曲目でソリストのソル・ガベッタ(→公式サイト)がマスタード色の鮮やかなドレスで登場しました。楽器と体が当たるところに当てるチェロパッド(いわゆる「胸当て」)もマスタード色で衣装とお揃いです(笑)。妙齢の女性と聞いていましたが、私の席からは背中(より具体的には「背中の開いたドレスから覗く左右の肩甲骨」)しか見えません(苦笑)。しかしここで評価すべきは音楽です。「チェロ協奏曲第1番」はチェロが得意とする中音域の旋律が全くといっていいほど無い作品で、チェリストが楽譜をなぞるだけでは音楽にならない類の難曲ですが、ガベッタ嬢はしっかりと曲の特性を捉えて、甘美なところを排した「超辛口」の作品をストレートに、かつ見事に表現していました。技術的にも破綻が殆ど無く、テクニック面でも最後まで安心して聴けました。パンフレットによるとガベッタ嬢、ハンス・アイスラー音楽院であのゲリンガス教授に師事しているとの事。これは注目株ですね。
最後の「交響曲第15番」も他の2曲同様ショスタコーヴィチの音楽を的確に捉えた、全く問題の無い演奏でした。第2楽章のチェロのソロ・パートでは「ガベッタ嬢に居残りして頂きたかったかな…」というのが正直な感想ですが、日本人だけでこれだけ「真っ当な」ショスタコーヴィチを聴かせてくれたのですから立派なものです。実は名フィルを生で聴くのは今回が初めてなのですが、オーケストラの合奏能力も十分でしたし、団員の個々の能力も結構高く、私は満足しました。特に管楽器は素晴らしかったです。「チェロ協奏曲第1番」のホルン・ソロもほぼノーミスで吹き通していました。あとこのオケはプロモーション活動に非常に熱心ですね。よく百貨店にいくと「カード会員になりませんか?」と店員さんが話しかけてきますね?今回名フィルも百貨店よろしく「名フィルの会員になりませんか?」「名フィルカードに入りませんか?」とロビーで入場者たちに盛んに声を掛けていました。これほど会員の勧誘に熱心な管弦楽団は日本はもとより、世界でも類をみないのではないでしょうか。でもこれって結構大事なことだと思います。
The comments to this entry are closed.
Comments