【レビュー】ステーン=ノクレベルグのベートーヴェン
(曲目)
1.ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」
2.同:同第14番嬰ハ短調 Op.27「月光」
3.同:同第23番ヘ短調 Op.57「熱情」
(以上CD1)
4.同:同第30番ホ長調 Op.109
5.同:同第31番変イ長調 Op.110
6.同:同第32番ハ短調 Op.111
(以上CD2)
(演奏)
アイナル・ステーン=ノクレベルグ(ピアノ)
ステーン=ノクレベルグといえば、「グリーグのピアノ作品全集」(NAXOS)での「いかにもグリーグ的」としか例えようの無い、清潔感あふれるピアノ演奏で知られるノルウェー出身の名手です。その彼が先日、ベートーヴェンのピアノソナタ6曲(しかも有名作品ばかり)を収めたアルバムをリリースしました。
グリーグ演奏でもそうでしたが、ノクレベルグのピアノ演奏を印象深いものにしているのは、なめらかな運指が生み出す、流れるようなフレージングです。このノクレベルグ独特のタッチが、音楽を実に自然でスムーズなものにしています。ややサウンドが細身な印象を受けるかもしれませんが、彼の瑞々しくてしなやかなベートーヴェン演奏は、他では得がたい不思議な味わいがあります。どこかに大事にしまっておきたくなるような、そんな慈しみが沸いてくる演奏であり、アルバムです。
収録されている6曲はどれも好演です。「悲愴」第2楽章と「月光」冒頭部のコントロールされたアルペジオと、それに乗って演奏される旋律の作意を感じさせないシンプルさ、「熱情」第3楽章での抑制の中での緊張感、「第30番」のラプソディックな感興の表現の豊かさ、「第31番」の無為自然さ。そして名盤ひしめく「第32番」でもノクレベルグのピアニズムは独自の煌きを放っています。しかし個人的に強く印象に残ったのは「第30番」と「第32番」の終わり方です。この2つの変奏曲をノクレベルグは、よくいえば「不意を突いたように」、悪く言うと「素っ気無く」締めくくってしまいます。しかしこの「素っ気無さ」が音楽の余韻をより深いものにしています。この唐突な終止は、どこかシベリウスの「交響曲第7番」を連想させます。ノクレベルグが北欧人だからとか、そんな発想が安直なのは重々承知なのですが、それでもこの演奏は北欧人に底流する「感性」の存在を意識させるのです。
(SIMAX classics, PSC 1218)
(関連記事)
Einar Steen-Nøkleberg Official Site
【レビュー】トマス・テレフセンの室内楽曲集(2004年9月10日付のエントリ)
The comments to this entry are closed.
Comments