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2006.10.11

【演奏会レポ】ヴァンスカ&ラハティ響@西宮北口

(曲目)
1.コッコネン:風景
2.グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 Op.16
3.(アンコール)グリーグ:「叙情小品集・第3集」Op.43より 第6曲「春に寄す」
4.シベリウス:交響曲第2番ニ長調 Op.43
5.(アンコール)同:劇音楽「クオレマ」より 悲しきワルツ Op.44-1
6.(同)同:交響詩「フィンランディア」 Op.26

(演奏)
ユホ・ポホヨネン(ピアノ:2,3)オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団(1,2,4-6)
(2006.10.9 兵庫県立芸術文化センター 大ホール)

 ヴァンスカとラハティ響という、世評の高いこのコンビを「ライブでいつか聴きたい…」と予てから思ってたのですが、これまでの来日公演はスケジュールの都合がどうしてもつかなくて断念してばかりでした。今回ようやく念願が叶ったわけですが、ヴァンスカが音楽監督のポストから離れる前に聴いておいて本当に良かったです。もしかしたらこんな演奏、今後一生聴けないかもしれませんから。彼らを聴くためだけにフィンランドまで飛んでいく人がいる理由が分かったような気がします。

 ヴァンスカ率いるアンサンブルは実によく練り上げらていて、本当に細かなところにまで指揮者の意思を感じます。フレージング、ダイナミックス、テンポ、そして音の「質感」に至るまでがヴァンスカのタクトの下で着実にコントロールされています。そして指揮官の意思を完全に音に変えてしてしまう、ラハティ響のポテンシャルの高さにも驚かされます。「聞き古された音楽」と思えたグリーグの「ピアノ協奏曲」も、アンサンブルに磨きをかけると実に立派な交響作品に生まれ変わることを実感しました。曲冒頭のオケの一撃からして他では滅多に聴けないような「凄み」がありました。独奏のポホヨネンは25歳の新鋭です。私は以前ウェブラジオで彼のモーツァルトを聴いたことがあり、そのとき結構良いイメージを持ったのを憶えています。今回も期待通り繊細なタッチと自然な運指で聴かせてくれましたが、いかんせんバックが立派すぎて今回は目立たない存在になってしまいました(苦笑)。今度はソロリサイタルで聴いてみたいです。またグリーグの前に演奏されたコッコネンですが、この作曲家の作品は随分昔にCDで交響曲(何番だったかは忘れた)を1度聴いた時の印象が非常に悪くて、それ以来全く聴こうとも思わなかったのですが、この日演奏された「風景」はシベリウス的な音響世界の中に時折ニールセン的な緊迫感もあったりする曲で、思いの外楽しめました。この曲特有の「空気感」をラハティ管の奏者たちはよく表現していたと思います。
 そしてメインのシベリウス「交響曲第2番」です。この曲も「おなじみの名曲」の筈なのですが、聴いているうちに「あっ、この曲ってこんなに素敵な音がするんだ…」という新鮮な発見と驚きが次々と訪れ、やがて心と体が感動に満ちてきて…。こんな体験はこれまでの私の人生経験でも滅多とないことです。

Munch01 グリーグ同様、ヴァンスカと楽団員たちはディテールに強くこだわった音楽表現を見せているのですが、この「こだわり」によって、シベリウスが楽譜に込めた「心情」や「魂」までも忠実に再現していたことは特筆すべきでしょう。シベリウス的な「自然と鳥」の存在を感じさせる第1楽章も、単なる自然描写に留まらない精神的高みに達していましたし、第3楽章の「Lento e soave」の箇所(というより「中間部」)でもセンチメンタリズムに陥らない「感情の複雑な動き」がありました。フィナーレも一般的な演奏では輝かしいファンファーレやコラールが強調されがちですが、この日の演奏ではシリアスでメランコリックな面がクローズアップされていました。そして個人的に強く印象に残ったのは第2楽章です。冒頭のコントラバス&チェロのピチカートからして「何か」を予感させます。そして喧騒が収まってからの終止部で、完全に無音になったときの「空気」というか存在感といったら…。音が無くても「語る」ものを持っているこの楽団の凄みを感じました。そしてこの楽章のコーダで唐突に登場する「嵐」のようなパッセージ。この謎めいた箇所をヴァンスカたちは(意外にも)落ち着いたテンポで丁寧に処理していました。しかしだからこそ、この短い一節が曲全体を覆う「影」のような大きな存在感を持って聞き手に迫ってきたのです。まさにムンク作の「思春期」(写真)のように。「交響曲第2番」はドン・ファンのエピソードにインスパイアされたとかコラールがキリストを連想させるなどと言われていますが、この曲が表現主義的なグロテスクさを持った芸術作品であることを、この日のラハティ管の演奏は示していたと思います。
 アンコール曲の2曲も実に聴き応えのある演奏でした。「悲しきワルツ」からはこれまでに感じたことのないような「死臭」すら感じましたし、「フィンランディア」も精緻なアンサンブルでじっくりと聴かせ、その濃厚な味わいには圧倒されました。そして心が揺さぶられました。その思いは私だけでは無かったようで、観客の熱狂的な反応は「全盛期の朝比奈隆もさぞや」と思うほどのスタンディング・オベーションでした。それに応える形でヴァンスカが一人で舞台に登場したとき、私は年甲斐も無く目を潤ませていました。

(ヴァンスカ指揮ラハティ響のディスク)

Sibelius_vanska01

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲(オリジナル版&決定版) カヴァコス(ヴァイオリン)

Sibelius_vanska02

シベリウス:交響曲第5番&交響詩「伝説」(オリジナル版)

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