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2006.10.31

【演奏会レポ】新国立劇場「イドメネオ」

(配役)
イドメネオ:ジョン・トレレーヴェン
イダマンテ:藤村実穂子
イーリア:中村恵理
エレットラ:エミリー・マギー
アルバーチェ:経種廉彦
大司祭:水口聡
声:峰茂樹
(管弦楽と合唱)
ダン・エッティンガー指揮東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団(合唱指揮;三澤洋史)
(演出)グリシャ・アサガロフ
(2006.10.28 新国立劇場オペラハウス)

 すでにネットの各所で話題となっていたこのプロダクションですが、私も大満足です。無理して夜行バスで上京した甲斐がありました。
 まずはオーケストラから。予想以上に明確な自己主張を持った音楽がピットから流れてきたので驚きました。オペラにしては随分細かいところまで音がコントロールされていて、しかもそれが三時間半もの長丁場のあいだ持続していました。これは指揮者のエッティンガーの指示が隅々まで行き届いていたからでしょう。特にレシタティーボの弱音部でのデリケートな表現が印象的で、オペラをよりシリアスで感銘度の高いものにしていました。
 歌手たちもおしなべて良かったです。何が良かったかというと、キャスト間での「力の差」をあまり感じなかったところです。オペラの場合主要キャストに一人でも魅力に欠ける歌手がいると、聴き手は劇に入り込めなくなり興ざめしてしまいます。その点今回のキャストでは一番心配していたイーリア役の中村恵理が冒頭から(鎖に繋がれながら)堂々とした歌唱を聞かせていました。イーリアは各幕でいつも最初にアリアを歌うので、ある意味「大役」ですが、第2幕のイドメネオへの思慕、第3幕での迷いと苦悩の表現も適切で、劇への興味を見事に繋いでいました。エレットラはこの役の聴かせどころである最後のアリアでいい具合にタンカを切っていました(笑)し、イドメネオは神託に怯える王を人間的に演じていました。そしてイダマンテ役の藤村実穂子はまさに期待通りの活躍でした。彼女を生で聴くのは初めてですが、声にボリュームだけでなく「深さ」があります。バイロイトで何年も歌い続けているだけのことはありますね。あとホール内を響かせるパワフルさと、繊細な感情表現(第2幕の「海は穏やか、海路の日和」の素晴らしさ!)を併せ持ったコーラスも良かったです。不満が残るとすればカーテンコールの際の合唱指揮者への拍手が少なめだったことでしょうか(笑)。
 演出は地中海を連想させる青を基調とした美しいものでしたが、あまり演劇的要素をこのオペラに盛り込とうとはしていなかったようです。まあ歌手たちの側からすると、この演出はステージ上での動きが少ない分、きっと歌いやすかったと思います。だからこそ音楽的水準の高い演奏が聴けたのかもしれませんね。

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「プレイビル」日本でも創刊

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  「プレイビル」(Playbill)はアメリカではエンターテイメント情報誌として老舗的存在で、同紙の電子版ニュースは当ダイアリーのネタ元として以前から重用させて頂いております。さてそんな「プレイビル」を先日「すみだトリフォニーホール」で見かけました。ロビーの一角に「Playbill 日本で始動」と書かれたパネルが掲げられ、そのそばには日本語版の創刊号が積まれていました。私はその光景を目にするまで「プレイビル」創刊の動きを全く知らなかったので軽く驚いたのですけど、どうやら10月上旬から東京の各ホールで配られていたようですね。
 中身を見た感想ですが「やはりアメリカンだな」というのが正直なところです。アメリカ発の情報誌だから当然といえば当然なのですが、日本で生き残るためには日本人好みの情報、具体的には外国で活躍している日本人アーティストとか、日本人が好きなアーティストの情報がもっと欲しいな、と思います。もっとも個人的には、当ダイアリーでお馴染みのソプラノ歌手、デボラ・ヴォイトの最新の動向を知ることができて有り難かったです。ナント彼女、肥満を理由に契約解除されたコヴェント・ガーデンと再契約し、降板させられた時と同じ役である「ナクソス島のアリアドネ」のタイトルロールを歌うことになったらしいですよ!(※)。
 さて「プレイビル」は活字版と同時に日本語版のサイトも立ち上げています。ニュースコーナーもちゃんと用意されているので、今後私のブログのネタ元にする機会もありそうです。しかし東京は「ぴあ」のフリーペーパーも最近登場しましたし、「ぶらあぼ」も含めてフリー情報誌の戦国時代に入りましたね。となると有料の情報誌の存在意義もこれまで以上に問われるところです。

(※)デボラ・ヴォイトの挫折と、奮起のダイエットについては当ダイアリーの以下のエントリをご覧ください↓。
オペラの主役交代の原因は体型」(2004年6月24日のエントリ)
あのオペラ歌手がダイエットに成功」(2005年3月28日のエントリ)

(関連サイト)
Playbill
PlaybillArts

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2006.10.26

【レビュー】ウクレレによるバッハ

Johnking2

(曲目)
1.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番(BWV1007)から 前奏曲、サラバンド、ジーグ
2.同:同第6番(BWV1012)から ガヴォット
3.同:同第5番(BWV1011)から ガヴォット
4.同:同第4番(BWV1010)から ブーレ
5.同:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番 BWV1006
6.同:平均律クラヴィーア曲集・第1巻から 前奏曲 BWV846
7.同:主よ,人の望みの喜びよ
(演奏)
ジョン・キング(ウクレレ)

 ウクレレといえばハワイアンに欠かせない弦楽器として一般的に知られていますが、そのウクレレ一丁で果敢にもバッハの作品を演奏したアルバムの存在を「ユビュ王の食卓」で知りました。「バッハとウクレレって合うのかな…」と思いつつも購入してみたところ、結果的に私の心配は良い方に裏切られました。
 ハワイ出身のジョン・キングは全編を通じて丁寧で真摯な態度でバッハに取り組んでいて、その「正攻法」の演奏解釈が好印象を与えています。フレージングも実になめらかで、バッハのお馴染みの旋律の数々を更に魅力的にしています。なにより心地よいウクレレサウンドで、普段と違うバッハ体験を楽しめる、というのが魅力です。しかしここにあるのは紛れも無いバッハの音楽なのです。

(NALU music, ASIN:B00007IOYR)

(※私はこのCDを「CD Baby」で購入しましたが、「Amazon.com」でも扱っています)

(参考リンク)
John King - Profile
オアフ観光局公式サイト - ウクレレについて→ウクレレの由来について簡単に記されています。


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2006.10.23

いつの間にか「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2007」のサイトがオープンしていた

 先ほど東京国際フォーラムのサイトを覗いたら、来年5月のゴールデンウィークに開催される「熱狂の日音楽祭2007」の公式サイトを発見しました。テーマは「L'HARMONIE DES PEUPLES」(「民族のハーモニー」)。トップページには音楽祭で取り上げられる作曲家6人のポートレイトが並んでいます。なお現在、この作曲家6人の名前を当てるクイズを行っていて(公式サイトのニュース欄にある「クイズ実施中!」の行をクリックすれば、応募画面に飛びます)、正解者のなかから抽選で10名に「熱狂の日」音楽祭の記録DVDなどがプレゼントされるそうです。

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2006.10.22

エッシェンバッハ フィラデルフィア管の音楽監督を辞任へ

 ドイツ出身の指揮者、クリストフ・エッシェンバッハ(67)が2006/07シーズンを最後にフィラデルフィア管弦楽団の音楽監督のポストを辞任することになりました。昨日付の「ワシントン・ポスト」紙によると、最近数日間のうちにこの決定がなされ、団員たちには昨日朝のリハーサル後に伝えられたといいます(参照)。
 エッシェンバッハ自身のコメントはまだ出ていませんが、彼の広報によると「オペラ、ユースの育成、音楽祭、そしてインターネットなど、たくさんのプロジェクトを計画中」とのことです。今後はオケとの契約に縛られずに、本当にやりたいことに精力を集中していくものと思われます。特にインターネットを使ってどんなことをするのか、楽しみです。

(参考)
Christoph Eschenbach Oficial Web Site
Philadelphia Orchestra Official Web Site

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2006.10.21

いずれが菖蒲か杜若

Muraji_et_benedetti

 書店の雑誌コーナーで村治佳織(写真左)とニコラ・ベネデッティ(同右)が仲良く並んでいたので思わず両方とも買ってしまいました(笑)。


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2006.10.18

ヒラリー・ハーンとブルーグラス

 アメリカ出身のヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーン(26)のことは、私よりも当ダイアリーをご覧の皆様のほうがよくご存知かと思います。私はライブで聴く機会には未だ恵まないのですが、すでに何度も来日していますし、ファンには既にお馴染みの存在です。今年もパーヴォ・ヤルヴィ指揮ドイツ室内管の来日公演でソリストとして登場し、ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」を披露したのは記憶に新しいところです。さてその際にヒラリー・ハーンがナント!カデンツァにブルーグラスの曲を織り込んで演奏していた、と「シンシナティ・ポスト」紙が報じています。これってホントの話なのでしょうか!?にわかには信じられませんが、とにかく同紙の記事を覗いてみましょう。

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2006.10.14

欧州オーケストラ・ベスト10

 昨日付の「朝日新聞」紙でヨーロッパの管弦楽団のランキングが紹介されている、と「日々、感想・報告」で知りました。なにやらフランスの「世界の音楽」誌(「Le Monde de la Musique」のことか?)が英仏独伊など欧州各国の批評家に投票を依頼し、それを集計した結果だとのことです。記事はこちらですが、ランキングを当ダイアリーでも挙げておくことにします;


1位:ウィーン・フィル(86点)
2位:王立コンセルトヘボウ管弦楽団(85点)
3位:ベルリン・フィル(79点)
4位:ロンドン交響楽団(55点)
5位:シュターツカペレ・ドレスデン(48点)
6位:バイエルン放送響(47点)
7位:ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管(37点)
8位:サンクトペテルブルグ・フィル(31点)
9位:チェコ・フィル(12点)
10位:フィルハーモニア管弦楽団(9点)

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2006.10.11

【演奏会レポ】ヴァンスカ&ラハティ響@西宮北口

(曲目)
1.コッコネン:風景
2.グリーグ:ピアノ協奏曲イ短調 Op.16
3.(アンコール)グリーグ:「叙情小品集・第3集」Op.43より 第6曲「春に寄す」
4.シベリウス:交響曲第2番ニ長調 Op.43
5.(アンコール)同:劇音楽「クオレマ」より 悲しきワルツ Op.44-1
6.(同)同:交響詩「フィンランディア」 Op.26

(演奏)
ユホ・ポホヨネン(ピアノ:2,3)オスモ・ヴァンスカ指揮ラハティ交響楽団(1,2,4-6)
(2006.10.9 兵庫県立芸術文化センター 大ホール)

 ヴァンスカとラハティ響という、世評の高いこのコンビを「ライブでいつか聴きたい…」と予てから思ってたのですが、これまでの来日公演はスケジュールの都合がどうしてもつかなくて断念してばかりでした。今回ようやく念願が叶ったわけですが、ヴァンスカが音楽監督のポストから離れる前に聴いておいて本当に良かったです。もしかしたらこんな演奏、今後一生聴けないかもしれませんから。彼らを聴くためだけにフィンランドまで飛んでいく人がいる理由が分かったような気がします。

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2006.10.08

【演奏会レポ】名フィル定期「タコ・タコ・タコ」

(曲目)
1.ショスタコーヴィチ:交響詩「十月革命」 Op.131
2.同:チェロ協奏曲第1番 Op.107
3.(アンコール)ヴァスクス:ドルチッシモ
4.同:交響曲第15番 Op.141

(演奏)
ソル・ガベッタ(チェロ:2,3)広上淳一指揮名古屋フィルハーモニー管弦楽団(1,2,4)
(2006.10.7 愛知県芸術劇場コンサートホール 「創立40周年記念シリーズ 第329回定期演奏会」)

 広上淳一のショスタコーヴィチ演奏は、以前ラジオで「交響曲第5番」(たしかオケは東京フィルだったか…)を聴いた際に、その明晰な解釈と充実感のあるサウンドがすごく印象に残っていました。最近益々世界的な活躍を見せる広上さんを、日本で(しかも比較的安価で)聴ける機会は今後そうそう無いかもしれないと思い、悪天候を突いてオール・ショスタコーヴィチ・プログラム(これぞ「タコ三連発」!?)を聴くため遠路はるばる名古屋へと出かけました。私が座ったのはホールの3階席で、椅子に座ったとき正直「こりゃちゃんとした音が耳に届くかどうか…」と心配になりましたが、1曲目の冒頭部から充実した低弦の響きが聞き取れたので、「あっ、ちゃんとショスタコーヴィチの音がする…」と驚かされました。ここで私が「スピーカーはどこだ?」と辺りをきょろきょろしたのは内緒ですが…。
 ともあれ「十月革命」での男性的で筋肉質な、実にいい具合に引き締まったオーケストラサウンドは聴いていて実に爽快でした。対位法的な音の処理も的確で、フレージングも活舌良く、実に小気味よく音楽が進行します。まさに「ショスタコーヴィチ・サウンド」と呼ぶに相応しい音楽が目の前で展開されていました。
 2曲目でソリストのソル・ガベッタ(→公式サイト)がマスタード色の鮮やかなドレスで登場しました。楽器と体が当たるところに当てるチェロパッド(いわゆる「胸当て」)もマスタード色で衣装とお揃いです(笑)。妙齢の女性と聞いていましたが、私の席からは背中(より具体的には「背中の開いたドレスから覗く左右の肩甲骨」)しか見えません(苦笑)。しかしここで評価すべきは音楽です。「チェロ協奏曲第1番」はチェロが得意とする中音域の旋律が全くといっていいほど無い作品で、チェリストが楽譜をなぞるだけでは音楽にならない類の難曲ですが、ガベッタ嬢はしっかりと曲の特性を捉えて、甘美なところを排した「超辛口」の作品をストレートに、かつ見事に表現していました。技術的にも破綻が殆ど無く、テクニック面でも最後まで安心して聴けました。パンフレットによるとガベッタ嬢、ハンス・アイスラー音楽院であのゲリンガス教授に師事しているとの事。これは注目株ですね。

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2006.10.06

ケネディの新譜二題

 王道を避け、あえて草をかき分け獣道を進む野武士の如きヴァイオリニスト、ナイジェル・ケネディの新譜2つがほぼ同時にリリースされました。一つはジャズ・ミュージシャンたちを従えてケネディがエレクトリック・ヴァイオリンを操ったアルバム。もう一つはヴィヴァルディの楽曲を中心としたアンサンブル・コンサートのDVDです。

Kennedy_bluenote「Blue Note Sessions」(BLUE NOTE, 0946 3 75336 2 6)

 一聴して「極めて真っ当なジャズ・アルバムだな」と思いました。私はジャズには明るくないので、共演奏者で知っている名前はベースのロン・カーターしかいませんでしたが、ネットで色々と調べてみるとジョー・ロバーノ(サックス)もJDアレン(同)もラッキー・ピーターソン(ハモンドオルガン)もケニー・ワーナー(ピアノ)もジャック・ディジョネット(ドラムス)もみんなジャズ界のビッグネームじゃないですか!彼らの(良い意味で)角の取れたまろやかなサウンドはシングルモルトウイスキーのような奥深さです。そんな中ケネディのメタリックでエッジの立ったヴァイオリンサウンドが「アクセント」となっています。しかしブルージーなナンバーでは、ケネディのフュージョン寄りとも思える表現が、彼をサポートする名プレーヤーたちとどこか「色違い」になっている印象が無きにしもあらずですが。まあケネディは決して「他の色」には染まらない演奏家だ、ということでしょう。

Kennedy_live_stagioni「Kennedy Live Vivaldi Live à la Citadelle」(EMI Classics, 3 65908 9)
 ケネディの「代名詞」となっている「四季」など、ヴィヴァルディの作品が収録されたライブDVDです。この「ギグ」でのケネディの演奏ぶり、そして曲間での立ち居振る舞いは、私が以前ラジオで聴いた今年2月のメルボルン公演の雰囲気に極めて近いものです。そのとき強烈な印象を私に残した「調和の霊感」が収録されていないのが残念ですが、共演ミュージシャンたちと共に「ケネディ色」の世界を存分に披露しています。ケネディとの共演暦の長いリュート奏者の竹内太郎さんの活躍ぶりも見ものです(彼には一箇所「見せ場」が用意されています)。
 しかしフランスでのライブということで言葉の問題があったせいか、ケネディのMCはメルボルンのときほど「弾けて」いませんでした。ケネディは片言のフランス語で何とか観客とコミュニケートしようとはしていましたが、彼らにプレミア・リーグの話をしてもおそらく伝わらなかったでしょうし、まあやむを得ないところでしょうね。
 

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2006.10.04

「携帯電話と管弦楽のためのコンチェルティーノ」初演のレポート

Cellular_concertino

 先日当ダイアリーでお伝えした「携帯電話と管弦楽のためのコンチェルティーノ」ですが、今月1日の初演の模様を伝えるレポートが「ニューヨーク・タイムズ」紙(電子版)に掲載されています(参照)。しかも(実にありがたいことに)この曲の一部をWebで聴くことが出来ます!それでは日本全国1500万人の携帯電話マニアの皆様お待たせいたしました(笑)。ここをクリックしてケータイと管弦楽が織り成すハイブリッドな音楽世界をご堪能ください。

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【レビュー】ステーン=ノクレベルグのベートーヴェン

Nokleberg_beethoven

(曲目)
1.ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番ハ短調 Op.13「悲愴」
2.同:同第14番嬰ハ短調 Op.27「月光」
3.同:同第23番ヘ短調 Op.57「熱情」
(以上CD1)
4.同:同第30番ホ長調 Op.109
5.同:同第31番変イ長調 Op.110
6.同:同第32番ハ短調 Op.111
(以上CD2)
(演奏)
アイナル・ステーン=ノクレベルグ(ピアノ)

 ステーン=ノクレベルグといえば、「グリーグのピアノ作品全集」(NAXOS)での「いかにもグリーグ的」としか例えようの無い、清潔感あふれるピアノ演奏で知られるノルウェー出身の名手です。その彼が先日、ベートーヴェンのピアノソナタ6曲(しかも有名作品ばかり)を収めたアルバムをリリースしました。
 グリーグ演奏でもそうでしたが、ノクレベルグのピアノ演奏を印象深いものにしているのは、なめらかな運指が生み出す、流れるようなフレージングです。このノクレベルグ独特のタッチが、音楽を実に自然でスムーズなものにしています。ややサウンドが細身な印象を受けるかもしれませんが、彼の瑞々しくてしなやかなベートーヴェン演奏は、他では得がたい不思議な味わいがあります。どこかに大事にしまっておきたくなるような、そんな慈しみが沸いてくる演奏であり、アルバムです。
 収録されている6曲はどれも好演です。「悲愴」第2楽章と「月光」冒頭部のコントロールされたアルペジオと、それに乗って演奏される旋律の作意を感じさせないシンプルさ、「熱情」第3楽章での抑制の中での緊張感、「第30番」のラプソディックな感興の表現の豊かさ、「第31番」の無為自然さ。そして名盤ひしめく「第32番」でもノクレベルグのピアニズムは独自の煌きを放っています。しかし個人的に強く印象に残ったのは「第30番」と「第32番」の終わり方です。この2つの変奏曲をノクレベルグは、よくいえば「不意を突いたように」、悪く言うと「素っ気無く」締めくくってしまいます。しかしこの「素っ気無さ」が音楽の余韻をより深いものにしています。この唐突な終止は、どこかシベリウスの「交響曲第7番」を連想させます。ノクレベルグが北欧人だからとか、そんな発想が安直なのは重々承知なのですが、それでもこの演奏は北欧人に底流する「感性」の存在を意識させるのです。

(SIMAX classics, PSC 1218)

(関連記事)
Einar Steen-Nøkleberg Official Site
【レビュー】トマス・テレフセンの室内楽曲集(2004年9月10日付のエントリ)

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2006.10.03

イギリスで旅客機の手荷物制限が緩和(テロ未遂事件の影響:その5)

 一つ前のエントリでニコラ・ベネデッティの来日公演の模様を取り上げましたが、実は来日前に「飛行機の手荷物制限が厳しくて楽器が空輸できないかもしれないから、ひょっとしたら来日できないかも」という報道があった(参照:当ダイアリーの9/5日付のエントリ)もので、私は毎日のようにコンサートガイドで「来日中止」と書かれていないかを確認していました。結局ニコラ嬢は無事来日したわけで、「手荷物制限はどうなったのかな」と思いネットで調べましたら、どうやら緩和されたようです。9/21日付の「ガーディアン」紙によると、「英国を離発着する旅客機に持ち込める手荷物の大きさが『45cm x 35cm x 16cm』から『56cm x 45cm x 25cm』へと変更された」とのことです(参照)。
 確かに持ち込める荷物は大きくなったようですが、これではヴァイオリンは機内に持ち込めても、チェロはまだ持ち込めませんね…。

(関連記事)
テロ未遂事件のクラシック音楽界への影響(8/13日付のエントリ)
テロ未遂事件のクラシック音楽界への影響(その2)(8/18日付のエントリ)
ノートパソコンと管弦楽のための協奏曲(テロ未遂事件の影響:その4)(9/12日付のエントリ)

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2006.10.01

【演奏会レポ】ニコラ・ベネデッティ・リサイタル

(曲目)
1.ブラームス:「F・A・Eソナタ」から スケルツォ
2.同:ヴァイオリンソナタ第1番ト長調 Op.78「雨の歌」
3.サン=サーンス:ハバネラ Op.83
4.同:序奏とロンド・カプリチオーソ Op.28
5.ガーシュイン:「ポーギーとベス」より 「Bess, you is my woman now」「It ain't necessarily so」
6.ラヴェル:ツィガーヌ
7.(アンコール)マスネ:タイスの瞑想曲

(演奏)
ニコラ・ベネデッティ(ヴァイオリン)アリソン・ラインド(ピアノ)
(2006.9.30、兵庫県立芸術文化センター 小ホール)

 これまで当ダイアリーで何度も取り上げているニコラ・ベネデッティですが、話題にする以上は一度実際に演奏会を聴かんとイカンでしょう!というわけで西宮北口まで足を運んでみました。実は私、県立芸術文化センターは初体験でして、目に付くものがどれも新鮮で「やっぱり新しいホールっていいなぁ」とお上りさんよろしくキョロキョロしていました。しかしエントランスからロビーにかけての雰囲気って、ホールというより寧ろ駅のコンコースか飛行場のターミナルに似てると思いませんか?チケットカウンターも「みどりの窓口」っぽいレイアウトですし。でも建物の構造はシンプルで、大・中・小と3つあるホールへの導線も判りやすかったです。当日は3ホール全てで公演を開催していたこともあり、ロビー内は老若男女で賑っていました。やはりコンサートホールに活気があるというのは良いですね。
 さて小ホールで行われたリサイタルでは、前半のブラームスよりも後半のプログラムの方がニコラ嬢の良さが出ていたと思います。特にサン=サーンスの2曲の演奏には自信があるのでしょうか、数々の難所にも臆することなくチャレンジし、見事に最後まで弾ききっていました。また彼女のヴァイオリンの音質について、私は以前「フレッシュで瑞々しい音色」と記しましたが、ライブでは「瑞々しさ」以上に、高音域の輝かしさが印象的でした。特にフォルテやフォルテシモの箇所になると、ホール中が彼女の華やかなヴァイオリンの音で埋め尽くされたのでは、と思うほど音に存在感がありました。ニコラ嬢は容姿(ちなみに当日はムター張りの黒のロングドレスで登場)だけでなく音楽的にも「華」がある演奏家のようです。しかし一方で弱音部での繊細な表現には課題が残ります。ブラームスのソナタの緩徐楽章はその点で物足りなさを感じました。しかしその前の第1楽章には「私のヴァイオリンを聴いて!」と主張しているかのような自信と勢いがあり、そんな(良い意味での)「若さ」が好ましく感じられました。会場の観客も彼女の勢いに押されたのか、第1楽章終了後に(室内楽では珍しいことに)客席から拍手が起こりました。そのとき演奏中ずっと硬い表情を崩さなかったニコラ嬢が一瞬微笑んだことも併せて、ライブならではの印象的なワンシーンでした。

(参考記事)
「イギリス人ヴァイオリニストが破格の契約でデビュー」(当ダイアリー、2005.1.17付のエントリ)
「ニコラ・ベネデッティのCDはDGからリリース」(同、2005.1.20付のエントリ)
「ベネデッティの最新インタビュー」(同、2005.1.28付のエントリ)

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