【演奏会レポ】新国立劇場「イドメネオ」
(配役)
イドメネオ:ジョン・トレレーヴェン
イダマンテ:藤村実穂子
イーリア:中村恵理
エレットラ:エミリー・マギー
アルバーチェ:経種廉彦
大司祭:水口聡
声:峰茂樹
(管弦楽と合唱)
ダン・エッティンガー指揮東京フィルハーモニー交響楽団
新国立劇場合唱団(合唱指揮;三澤洋史)
(演出)グリシャ・アサガロフ
(2006.10.28 新国立劇場オペラハウス)
すでにネットの各所で話題となっていたこのプロダクションですが、私も大満足です。無理して夜行バスで上京した甲斐がありました。
まずはオーケストラから。予想以上に明確な自己主張を持った音楽がピットから流れてきたので驚きました。オペラにしては随分細かいところまで音がコントロールされていて、しかもそれが三時間半もの長丁場のあいだ持続していました。これは指揮者のエッティンガーの指示が隅々まで行き届いていたからでしょう。特にレシタティーボの弱音部でのデリケートな表現が印象的で、オペラをよりシリアスで感銘度の高いものにしていました。
歌手たちもおしなべて良かったです。何が良かったかというと、キャスト間での「力の差」をあまり感じなかったところです。オペラの場合主要キャストに一人でも魅力に欠ける歌手がいると、聴き手は劇に入り込めなくなり興ざめしてしまいます。その点今回のキャストでは一番心配していたイーリア役の中村恵理が冒頭から(鎖に繋がれながら)堂々とした歌唱を聞かせていました。イーリアは各幕でいつも最初にアリアを歌うので、ある意味「大役」ですが、第2幕のイドメネオへの思慕、第3幕での迷いと苦悩の表現も適切で、劇への興味を見事に繋いでいました。エレットラはこの役の聴かせどころである最後のアリアでいい具合にタンカを切っていました(笑)し、イドメネオは神託に怯える王を人間的に演じていました。そしてイダマンテ役の藤村実穂子はまさに期待通りの活躍でした。彼女を生で聴くのは初めてですが、声にボリュームだけでなく「深さ」があります。バイロイトで何年も歌い続けているだけのことはありますね。あとホール内を響かせるパワフルさと、繊細な感情表現(第2幕の「海は穏やか、海路の日和」の素晴らしさ!)を併せ持ったコーラスも良かったです。不満が残るとすればカーテンコールの際の合唱指揮者への拍手が少なめだったことでしょうか(笑)。
演出は地中海を連想させる青を基調とした美しいものでしたが、あまり演劇的要素をこのオペラに盛り込とうとはしていなかったようです。まあ歌手たちの側からすると、この演出はステージ上での動きが少ない分、きっと歌いやすかったと思います。だからこそ音楽的水準の高い演奏が聴けたのかもしれませんね。