テロ未遂事件のクラシック音楽界への影響(その2)
イギリスでのテロ未遂事件発覚後、旅客機への手荷物持込が制限されて、演奏家や楽団の楽器運搬に問題が生じている、という話題を先日当ダイアリーで取り上げたところですが、この事態に対する各楽団の対応が徐々に報道で明らかになっています。
ミネソタ管弦楽団では、普段は(コントラバスやハープなどの)大型楽器は特殊な楽器運搬コンテナを利用し、比較的小型の楽器については手荷物として機内に持ち込んでいます。しかし今月予定されている英国への演奏旅行では、大事に楽器を抱えている小さな楽器の所有者たちにも荷物を預けてもらい、コンテナで楽器を運搬することにしたそうです。
このように輸送手段をきちんと整えた楽団もありますが、衝撃吸収機能を持った特殊コンテナを自前で持たない楽団も多いようです。ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスでの公演を終えたばかりのボリショイ歌劇場は、「規制が緩和されなければ楽器をフェリーで運搬させざるを得ない」と関係者がコメントしていますし、イタリアの古楽アンサンブル、Academia Montis Regalis orchestraは、バンクーバーでの演奏会で使用する楽器を飛行機で空輸して持ち込むことを諦め、代わりに現地カナダにある歴史的楽器をかき集めて、ようやくコンサートの実施にこぎつけました。
さて前のエントリで少し触れたセント・ルークス管弦楽団についても、海外ツアー断念に至る経緯が明らかになっています。搭乗手続きで楽器の持込を断られる可能性があると知った楽団スタッフは、解決策の検討に入りました。先ず「搭乗手続きが不要になる」という理由で、飛行機をチャーターする案が出ましたが、これでは当初の予定より費用が倍増してしまいます。また上述の楽器運搬用コンテナを他の楽団から借りようとしたのですが、間の悪いことにどのコンテナも既に予定が埋まっていて調達することは不可能でした。最終手段として、手荷物持込制限が緩いパリ行きの飛行機に乗ってヨーロッパに入り、パリから列車でロンドン入りするプランも検討されましたが、これもコスト面から断念せざるを得ませんでした。英国から楽器貸与の打診もあったとのことですが、最終的には楽器輸送費の負担増がネックとなりツアー中止のやむなきに至りました。
(参考)
New York Times. Tighter Security Is Jeopardizing Orchestra Tours. (August 14, 2006)
globeandmail.com. Performers orchestrate rescue. B.C. musicians play an instrumental role in helping Italians go on with their show. (August 15, 2006)
PlaybillArts. Orchestras Struggle to Cope With New Travel Restrictions. (August 16, 2006)
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