【不定期連載】全く役に立たないロシアピアニズム・ガイド② ソフロニツキー
ウラディーミル・ソフロニツキー(1901-1961)の音楽は情熱的でロマンティックではありますが、甘くメロディを歌わせて人々の気を惹くタイプの音楽家ではありません。彼の演奏はもっとシリアスで、というよりもっと刺激的で、危いものです。ときにはギョッとするような音符のデフォルメを見せたり、わざと楽譜の指示に逆らってリズムや音価を崩したりします。そのような「揺さぶり」のため、演奏のテンポが時に定まらなくなり、音楽には不安定な感覚が生まれます。これらは聴き手を精神的に緊張させ、時には不安感すら与えます。このようなナーバスな表現を持つ一方で、時にはノーブルで上品な演奏を聴かせたり、影が差したような「暗さ」を見せたりと、ソフロニツキーは一筋縄ではいかない多彩な表現力を持っています。