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2006.08.31

【不定期連載】全く役に立たないロシアピアニズム・ガイド② ソフロニツキー

Sofronitsky_portrait01 ウラディーミル・ソフロニツキー(1901-1961)の音楽は情熱的でロマンティックではありますが、甘くメロディを歌わせて人々の気を惹くタイプの音楽家ではありません。彼の演奏はもっとシリアスで、というよりもっと刺激的で、危いものです。ときにはギョッとするような音符のデフォルメを見せたり、わざと楽譜の指示に逆らってリズムや音価を崩したりします。そのような「揺さぶり」のため、演奏のテンポが時に定まらなくなり、音楽には不安定な感覚が生まれます。これらは聴き手を精神的に緊張させ、時には不安感すら与えます。このようなナーバスな表現を持つ一方で、時にはノーブルで上品な演奏を聴かせたり、影が差したような「暗さ」を見せたりと、ソフロニツキーは一筋縄ではいかない多彩な表現力を持っています。

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2006.08.29

【不定期連載】全く役に立たないロシアピアニズム・ガイド①-前口上

Russian_lp_01

 (一つ前のエントリの続き)
 さて「エスクァイア」誌の今年9月号での「ロシアピアニズム」の特集記事を眺めながら、私はCDバブル真っ只中の1990年代を思い出していました。旧ソ連時代の名手たちのCDが怒涛の如く発売されたあの頃、「それにしてもどうしてこんなに沢山リリースするんだ?」と不思議に思いつつ、「それだけCD化されるだけの値打ちがあるんだろうな」と思って買い集めておりました。さすがに全部を揃えるのはとても無理でしたが(だってホントにもの凄い数のCDが出たんだから…)、しかしその頃の大量リリースのお陰で、私たちはかえって「ロシアピアニズム」の層の厚さと奥の深さに、「物理的」な意味でも気づかされたような気がします。

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2006.08.27

YouTubeで見る「ロシアピアニズム」

 先日発売された「エスクァイア」誌の9月号は、トレンド雑誌としては珍しくクラシック音楽を大特集したことで話題になりました。中でも「ロシアピアニズム」特集は、一時期私が旧ソ連のピアニストたちを好んで聴いていたこともあり、興味深く拝見いたしました。
 さてこれらのロシア人ピアニストたちの実際の演奏を知る方法としては、もちろんCDを購入するのが一番ですが、「とりあえず視聴を兼ねて軽く聴いてみたいな」という向きには…、やはり「YouTube」でしょうか(苦笑)。とりあえず気になった動画の幾つかにリンクしてみました。

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2006.08.26

交響曲「核エネルギー」

 最近核開発を巡って欧米各国と政治的駆け引きを続けるイランですが、同国の国営通信によると「近日中に核開発に関する新たな『成果』を発表する」とのことです(参照1)。
 さてこれも核開発の「成果」なのでしょうか。今月27日にテヘランで交響曲「核エネルギー」が初演されます(参照2)。アフマディネジャド大統領も鑑賞に訪れるとのことで、演奏会は国家的イベントになりそうです。
 しかし「交響曲『核エネルギー』」とは…。今のところ分かっていることは「作曲した人物はカンビズ・ロシャンラヴァン氏」「管弦楽と独唱による作品」という程度ですが、タイトルのあまりのインパクトの強さに、「『核エネルギー』て、どんな曲なんだろう…」とつい想像力が膨らんでしまって…(笑)。今私の脳内ではモソロフの「鉄工場」とペンデレツキの「広島の犠牲に捧げる哀歌」を適当にミックスさせたような音楽が鳴っています(笑)。

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2006.08.21

プレヴィンとムターが離婚

Previn_mutter02 個人的には音楽家のプライバシーに関するニュース、しかもあまり良くない知らせを芸能ニュースぽく報じたくはないのですが、今回ばかりはビッグカップルなので記事にすることにします。イギリスのタブロイド紙「デイリー・メール」によると作曲家、指揮者兼ピアニストのアンドレ・プレヴィン(77:左)とヴァイオリニストのアンネ=ゾフィー・ムター(43:右)が離婚した、と彼らに近い音楽関係者が明らかにしました(参照)。
(8/22追記)BBCでも記事が出ましたね。どうやらムターの所属事務所もこの事実を認めたようです。その他に「シュピーゲル」や「シュテルン」などのドイツ系メディアからもニュースが出始めています。

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2006.08.20

ミルトン・ケイ(ピアニスト) 逝去

Milton_kaye01 ニューヨーク・ブルックリン地区生まれのアメリカのピアニスト、ミルトン・ケイが肺炎のため今月14日に逝去されました。享年93歳。心からご冥福をお祈りいたします。
 12歳のときにカーネギーホールで演奏し、1935年にショスタコーヴィチ「ピアノ協奏曲」第1番の全米初演のソリストを務めたというミルトン・ケイですが、日本ではヤッシャ・ハイフェッツやオスカー・シュムスキーとレコード録音で共演したピアニストとして、その名が知られているのではと思います。個人的には特にシュムスキーとの、あの素晴らしいクライスラー小品集(ASV)の録音が強く印象に残っています。現在廃盤ですが、再発を切に希望します。その一方でハイフェッツと米デッカに残した録音は近々再発され、来月辺りに店頭に並ぶようです(→@TOWER.JPHMV.co.jp)。

(参考)
PlaybillArts. Pianist and Arranger Milton Kaye Dies at 97. (August 17, 2006)
New York Times. Milton Kaye, 97, Pianist and Arranger, Dies. (August 17, 2006)
Washington Post. Milton Kaye; Pianist, TV Musical Director. (August 19, 2006)
Benjamin Breen Official Site. Biography - Milton Kaye.

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2006.08.18

テロ未遂事件のクラシック音楽界への影響(その2)

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 イギリスでのテロ未遂事件発覚後、旅客機への手荷物持込が制限されて、演奏家や楽団の楽器運搬に問題が生じている、という話題を先日当ダイアリーで取り上げたところですが、この事態に対する各楽団の対応が徐々に報道で明らかになっています。

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2006.08.13

テロ未遂事件のクラシック音楽界への影響

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 先日発覚した旅客機爆破テロ未遂事件のために、イギリスやアメリカへ向かう旅客機への手荷物持込制限が厳格化していますが、これに対する懸念の声が音楽業界の間で上がっています。飛行機内への楽器の持ち込みを断られた音楽家たちがイギリスやアメリカへの入国を断念し、同地での演奏会をキャンセルしてしまうかもしれないからです。エディンバラ国際芸術祭の関係者は「今のところ状況ははっきりしておりませんが、この問題には重大な関心を持っております」「今年の開幕イベントは無事迎えられましたが、来週以降問題が生じる可能性があります」と語っています(参照1)。
 そしてこの懸念はどうやら現実問題になっているようです。今このエントリを書いている間に、セント・ルークス管弦楽団員が「イギリスでの演奏旅行をキャンセルする」とコメントした、というニュースが伝わってきました(参照2)。合法的で安全な楽器運搬には莫大な費用がかかってしまうため、というのが中止の理由みたいです。
 日本ではどうでしょうか。旅行代理店のサイトにある「イギリス国内を離発着する全てのフライトの機内持ち込み手荷物に関するご注意」(参照3)を見てみると、確かに「機内持込み可能な物品」の中には「楽器」は含まれていません。「持ち込み可能な物品は上記のみとなり、その他は一切の持ち込みが禁止されます」とハッキリと書かれていますね。もっともこの規定はテロが発覚する以前からあったと思いますが、この事件後、日本でも規定がシビアに適用されている可能性がありますので、これからイギリスやアメリカに演奏や留学される音楽家の方々は航空会社などに問い合わせた方が良さそうですね。
(関連エントリ)
チェロを航空会社が「搭乗拒否」←「以前から楽器の機内への持ち込みは微妙な問題だった」という当ダイアリーの去年2月17日付のエントリ。

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2006.08.12

男性歌手の代役に女性歌手

Fujimura_fricka01 「PlaybillArts」によると、フィラデルフィア管弦楽団の欧州ツアーに同行する予定だったバリトンのマティアス・ゲルネが降板し、代役としてメゾソプラノの藤村実穂子(写真)が登場します。歌手が男性から女性になったと聞けば「えっ、曲目が変更されるの!?」と考えるのが普通ですが、曲目は予定のままです。実は今月26日(ルツェルン)と来月1日(ベルリン)に演奏される、マーラー「大地の歌」でのテノール歌手の相手役がバリトン(男声)からメゾソプラノ(女声)へと変更されたというわけです。ゲルネの降板について楽団側は「個人的な理由によるもの」としか明らかにしていません。
 それにしても、ただでさえ多忙な藤村さんのスケジュールがこれでより一層タイトなものになったことは否めません。予定表を見ると今月25日にバイロイトで「ジークフリート」に出演した次の日がルツェルンでの「大地の歌」になります。その翌日はやはりバイロイトで「神々の黄昏」、そのあと28日と30日にドレスデンで「ラインの黄金」(28日)「ワルキューレ」(30日)のフリッカを歌います。その後ベルリンへ急行し9月1日に同地で「大地の歌」を歌い、その次はドレスデンにまたとんぼ帰りして9月5日に「ラインの黄金」に再登場することになります。これは藤村さんの実力が欧州で認知されていることの現れではあるのですが、くれぐれも体調管理には気をつけてお仕事に望んでいただきたいものです。
(参考)
フィラデルフィア管弦楽団公式サイト

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2006.08.08

英デッカから「マルコム・アーノルド・エディション」発売

Arnoldedition1 イギリスの作曲家、サー・マルコム・アーノルド(Sir Malcolm Arnold:→公式サイト)が今年10月21日に85歳の誕生日を迎えるのを記念して、英デッカから来月下旬に全3巻、CD13枚におよぶ「The MALCOLM ARNOLD Edition」が発売されます。このボックス・セットに収録される全61曲のリストはこちらで見ることができます。
 このリストには交響曲が11曲(「第1番」~「第9番」、「弦楽のための交響曲」、「金管のための シンフォニー」)、協奏曲が17曲、そしてもちろん「イングランド舞曲集」「コーニッシュ・ダンス」に加え、私が「The・英国音楽」と勝手に呼んでる「スコットランド舞曲集」も含まれています。あっ、「ホフナング音楽祭」で演奏された「大・大序曲」も収録されてます(笑)。
 また、この全集にはヴァーノン・ハンドリーによる交響曲・管弦楽曲録音などを始め、80年代から90年代にアーノルドに積極的だった英コニファー・レーベルの音源が多数含まれています。現在この音源を管理しているのはソニーBMGですが、ライバルのユニヴァーサルでの全集リリースに協力した点は素直に「グッジョブ!」と評価したいですね。

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2006.08.04

屋根の上のセロ弾きたち

 今イギリスではテムズ川源流から下流までの約203マイル(約327キロ)を遠泳中の冒険家Lewis Gordon Pugh氏(36)が話題になっています。去年南極の沿岸を泳いで「最南端水泳記録」と「極地での水泳時間の最長記録」を打ち立てた彼は、今回は地球温暖化問題のアピールのため泳ぎ続けています。昨日はロンドン・ウェストミンスターまで泳いだ後一旦水を出てダウニング街10番地に直行し、CO2削減を訴える手紙をブレア首相に手渡しました(参照)。
 さてイギリスではPugh氏と軌を一にするかの如く、3人のチェリストたちが英国を巡回し、ホームレス救済のための募金を募るチャリティ・コンサートツアーを行いました。しかし彼らのパフォーマンスはいささか大胆です。というより常軌を逸しています。彼らは行く先々の教会の屋根の上に楽器を担いで登り、そこで演奏会を行っていたのです。

Extreme_cathedral01 Jeremy Dawson、Clare Wallace、そしてJames Reesら3人のチェロ奏者による破天荒なチャリティ・ツアーは先月24日のコーンウォール地方・トゥルロを皮切りに、イングランド国内に点在する英国国教会の大聖堂42ヶ所を12日間で廻るという強行軍でした。総移動距離が約1900マイル(約3058キロ)にも上る、と聞くだけでも偉業だと思うのですが、どうしてこの3人は大聖堂の静寂の中ではなく、わざわざ太陽が照りつける屋根の上でのコンサートを行ったのでしょうか。

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