ジュリーニのリハーサル
イタリア出身の指揮者カルロ・マリア・ジュリーニが亡くなって、もうすぐ一年になりますが、米国の音楽評論家Timothy Mangan氏のブログ「Classical life」で、生前の彼に関する興味深いエピソード(参照)を見つけました。
ジュリーニがロサンゼルス・フィルの音楽監督時代にコンサートマスターを務めたSidney Weiss氏によると、彼はリハーサルのあいだは常に温和で、感情を露わにすることは滅多になかったそうです。しかしある日の練習で、初めてロス・フィルの練習に参加したある若い女性ヴァイオリン奏者を名指しで批判しはじめました。
ジュリーニ曰く、「あなたは体を動かしてはいるけれども、音楽に入っていない。私が我慢ならないのはそのことだ」。そして彼女に「それができるようになるまでは練習に来るな」と退席を命じたのです。その女性は(当然ながら)号泣してしまったので、最悪のムードの中、ジュリーニはリハを中断し休憩に入りました。楽団員たちは席を立ち、練習場には練習を止めた女性奏者が一人残されたのですが、そんな彼女に真っ先に声をかけたのは誰あろうジュリーニ本人でした。
事の始終を目撃していたWeiss氏によると、ジュリーニは彼女の肩に手を回しながらこう言いました。「さっきは君を不愉快な気分にさせてしまって申し訳ない。しかしこれだけは解ってほしい。音楽は心の中から生まれてくるもので、全身全霊でもって取り組まないといけない。音楽づくりには中途半端な気持ちではいけない。そのことを君にはどうか理解してほしい。そして私の謝罪を受け入れて欲しい」。
これを見て「やっぱりジュリーニもイタリア人だな」と思われる方もおられるかもしれません。しかしこのたった一つのエピソードからも彼の優しさ、厳しさ、そして彼の芸術の本質まで伝わってくるようで、うん、なかなかいい話ですね。まあこれを読んだ私が「ジュリーニがもし日本のオケに客演してたら…」と余計な想像力を膨らませていたのは内緒です。
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Comments
pfaelzerweinさまこんばんは。
「音楽に集中しなさい」というのはある意味当たり前のことですが、ジュリーニの発言となるとすごく重みのある言葉に思えてきますね。でもプロのオケに対してそのような指示をしなければいけないことがあるって、一体どういうことなのかな、と余計なことをつい考えてしまいます。
Posted by: 「坂本くん」 | 2006.05.13 22:40
SDR放送交響楽団とのリハーサル風景が残っています。大変紳士的な態度でしたが、個別の奏者への要求は厳しいです。
今や拘束時間意識が強いのは世界中で、その限りある時間を如何に生かすかは、全員にとって大問題ですね。自らの経験もあって、「音を発する機関」を最も嫌っていた指揮者だろうと思われます。それをハッキリさせずにはああいう歌心は生まれませんね。
晩年の演奏会の様子が思い浮かびます。
Posted by: pfaelzerwein | 2006.05.13 01:24