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2006.05.02

「はじめての武満徹」

なる特集を「芸術新潮」誌が組んでいた(→amazon.co.jp)ので購入してみました。武満氏が猫を抱いて(まるでムツゴロウさんみたいに)人懐っこい笑顔を浮かべている表紙イラスト(和田誠・作)を見て、「現代音楽の巨匠トオル・タケミツに対するイメージもずいぶん大衆化したものだ」という印象を強く持ちました。

 私が音楽に興味を持つようになった1980年代前半はこうではありませんでした。ダルムシュタットの威光がまだ残っていたあの時代、武満徹はまさに日本の現代音楽界の偉大なアイコンでした。反抗期真っ只中だった私はクラスター音楽や電子音楽など、「ザ・ベストテン」では到底オンエアされないアバンギャルドな音楽にまず魅せられたのですが、それでも学校の先輩から「これが日本を代表する現代音楽だ」と言われて「ノヴェンバー・ステップス」を初めて聴いたときには強烈な違和感しか残りませんでした。そもそも曲のタイトルからして意味不明です。「ステップ」って草原のこと?じゃああの曲名は「11月の草原」てことか?
 でも「11月の草原」だと余りにも音楽のイメージとかけ離れ過ぎてると思った私は先輩に曲名の由来を尋ねてみました。すると「江戸時代の八橋検校という人の曲に『六段』てあるだろ。『ノヴェンバー』は『十一』、『ステップス』は『段』。だから『ノヴェンバー・ステップス』は『十一段』だ」と言われました。しかし私の脳内には「『十一段』なら『イレヴン・ステップス』でいいのに」という新たな疑問が湧いただけでした。この曲以外にも「鳥は星型の庭に降りる」「地平線のドーリア」などのシュールな題名の曲が多い武満徹は、中学生時代の私にとって、音楽自体もよくわかんないし曲名もよくわかんない、わからないことだらけの、とてつもなくアバンギャルドな存在に映りました。当然彼に親近感を感じることなど到底できませんでした。
 しかし私が大きくなるにつれ、武満の作風は加速度的にロマンティックになっていきます。イギリスのある批評家から「ドビュッシーとスクリャービン、そしてメシアンを足して割ったような」とも評されることになる、彼独自の和声を前面に押し出した後年の作品群は、耳になじみやすくて親しみやすいものが多く、その中の幾つかは私のお気に入りになりました(特に私が好きなのは「ファンタズマ/カントス」です/amazon.co.jp)。そして彼の作風の変遷と軌を一にするように、彼は「映画やテレビドラマの付随音楽の大家」、「ポップス界とも盛んにコラボする作曲家」としても、その存在がクローズアップされるようになります。
 そのような武満のイメージの変遷は、上述の「芸術新潮」誌のイラストからも見て取れます。1968年(丁度「ノヴェンバー~」が初演された時期)に和田誠が描いた武満の肖像画(表紙を開いて1ページ目にあります)はキュビズム的な「複数の視点」で描かれていて、前衛作曲家タケミツのイメージを如実に伝えています。同じ作者が今年書き下ろした表紙イラストとはあまりにも好対照です。このイメージの変遷は、武満徹自身の作風の変遷が生んだのでしょうが、「高踏的なもの」から「通俗的なもの」へという、世間が欲するアーティスト像の変遷でもあったような気がします。
 ともあれこの「芸術新潮」は、彼の多岐に渡った生前の活動を(手短ではありますが)きちんと紹介しているので、初心者にもわかりやすい読み物でしょう。また「実は琵琶奏者の鶴田錦史は女性だった」など、私も知らなかったトリビアまで書かれていたりして、なかなか興味深く読ませてくれます。これがあれば私のような不幸な「はじめてのタケミツ」体験は無くなるかもしれません!?。

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Comments

kokoni様こんばんは。トラバありがとうございます。
武満展は東京滞在中に行きたかったんですけど、時間の都合がつかず断念しました。でも武満徹の紹介の機会が増えてきたのは良いことです。

Posted by: 「坂本くん」 | 2006.05.07 at 20:10

坂本さま
あさぶろよりTBさせて頂きました。
>琵琶奏者の鶴田さん
そ、そうなんですね、初めて知りました。kokoni

Posted by: kokoni | 2006.05.03 at 17:45

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