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2006.03.15

バルサのジャージを着たドン・ジョヴァンニ

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(写真)カリスト・ビエイト演出の「ドン・ジョヴァンニ」(イングリッシュ・ナショナル・オペラ)から 第2幕「食卓(というよりリビングルーム)のシーン」

 過剰なまでの性的描写と猟奇的な暴力シーンが欧州のオペラ界で話題(「問題」とも言えるが…)となっている演出家カリスト・ビエイト氏については以前当ダイアリーでも取り上げましたが、彼の演出による「ドン・ジョヴァンニ」(リセウ歌劇場:2002年上演)のDVD(→HMV.co.jp)が先日リリースされました。「モーツァルトは頭が良くなるから」と思い何の予備知識もなく購入した人はこのビデオを見て腰を抜かしてしまうかもしれません(苦笑)が、彼の演出は決して興味本位なものではなく社会派的な問題提起も孕んでいて、色々と考えさせられます。

 幕が開くと舞台中央には黒いベンツが一台。その周囲をウロウロする見張り役のレポレロはFCバルセロナのジャージを身に着けています。レポレロはカバンからレアル・マドリードのマフラーやらタオルを取り出したと思ったらすぐに遠くへ放り投げてしまいます。このレポレロの振る舞いから舞台設定が現代のバルセロナに移し変えられていることは明らかです。そしてシナリオの改変も当然の如く行われていて、初っ端から車中ではドン・ジョヴァンニとドンナ・アンナが(「実際に行為に至るまでに見つかる」というオリジナル台本とは異なり)カー・セックスに耽っています。そしてこのプロダクションで最大の改変は第2幕の後半からフィナーレにかけてでしょう。
 Giovanni_barcelona 見た人はこの結末を誰にも話さないでくださいね、と映画のCMみたいにもったいぶりそうになりましたが、実際の舞台もホラー・ムービーのようなシーンの連続です。(レポレロと交換した)バルサのジャージ姿でジャンク・フードを食べながらソファに寝そべるドン・ジョヴァンニの前に登場する騎士長はまるでゾンビ(写真)ですし、2人の格闘はまるっきりB級ホラー映画です。
 そんなハリウッド映画へのパロディの匂いすら感じさせる舞台ですが、各人のキャラクター設定には興味深いものがあります。もちろん主役のドン・ジョヴァンニは徹底的に悪役に仕立て上げられていますが、他の登場人物も善人というわけではありません。肉欲に溺れるドンナ・アンナは主人になりすましたレポレロに「根性焼き」でお仕置きをし、軽薄なツェルリーナはドン・ジョヴァンニの短銃を子供のように無邪気に触ったり婚約者のマゼットを大股開きで誘惑します。一方マゼットは「ぶってよ」と言うツェルリーナを(本当に)いたぶる荒くれ者で、彼女のアプローチに対し暴力でしか答えようとしません。辛うじてドンナ・エルヴィーラだけは一般人らしく常識をわきまえていますが、そんな彼女を周囲は殺人事件の共犯者にしてしまいます(あっ、書いちゃった…)。ここでビエイトが提示したのは周囲を巻き込んで共犯関係にしてしまうほどの強い影響力を持つ現代の「悪」なのでしょう。
 まあ演出については色々好みはあるでしょうが、音楽そのものはなかなか素晴らしいものがあります。歌手ではヴェロニク・ジャンス(ドンナ・エルヴィーラ)とクワンチュル・ユン(レポレロ)が目だってますが、他のキャストも存在感ある歌唱ですし、ド・ビリーの指揮するアンサンブルも小気味よさと力強さを併せ持っています。

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Comments

ガーター亭亭主さまこん○○は。
舞台の雰囲気がどんな感じか知りたくてググってみました↓
ttp://www.concertclassic.com/journal/Photos73.asp
ビエイト版のジャンクフードや血でまみれた舞台を見た後では、とても美しく見えます(笑)。
最後の結末については…どうなのでしょう。ハネケ版とビエイト版では被害者は同じなのかな…、ググッたところではちょっとわかりませんでしたが。
それからハネケ版は主役はマッテイで、ドンナ・アンナがシェーファーと、なかなか豪華なキャスティングでしたね。視覚面ではともかく、音楽面ではかなりの高水準だったのでは…。

Posted by: 「坂本くん」 | 2006.03.17 at 02:05

バスティーユの新演出の「ドン・ジョヴァンニ」はMichael Haneke という人の演出でしたが、舞台は現代のパリ?で高層ビルの一角ですべての話が進行し、ドンジョヴァンニはぱりっとしたスーツを着込んだ一見エグゼクティブ風、ツェルリーナ、マゼット一団は掃除のお兄ちゃんたち、という感じでした。ドンジョヴァンニは暴力的、倒錯的な性格破綻者。ただ、その他の人たちはまともでした。

最初は、そこまではっきりと性交シーンがあるわけではないものの、明らかにドンジョヴァンニとドンナアンナは実事あり。もっとも、これは、もともとの台本もドンナアンナがドンオッターヴィオに嘘をついているととるのがむしろ自然ではないかと思っているのですが。

ドンナ・エルヴィラを周囲が殺人の共犯者とする、というビエイト演出だそうですが、こちらではドンナ・エルヴィラは実際に殺人者となっています。被害者は同じなのかな、違う人なのかな。。。

Posted by: ガーター亭亭主 | 2006.03.16 at 16:30

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