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2006.03.27

【レビュー】西洋音楽史ー「クラシック」の黄昏

 勘のいい当ダイアリーの読者の方はすでに気付いておられるとは思いますが、(ネットラジオに嵌ってるせいでしょうか)最近CDを買う機会がめっきり減ってしまいました。だからといってこれまでCDに投資していたお金を貯金に回せているというわけでなく、そのぶん本やDVDの購入に充てているので結局我が家の財政状況には何の変化の兆しもないわけですが(笑)。
 そんな中でアマゾンで購入後何度も読み直しているのが「西洋音楽史」(岡田暁生著)(→amazon.co.jp)です。すでに世評も高いこの本ですが、ネット上でのレビューを見ていると結構各人の感想がバラエティに富んでいるので、パソコンを眺める度に「色々なものの見方があるなぁ」と感心することしきりです。ここで述べるのはあくまで私の個人的な感想であり、この250ページの新書を読み終わったあと皆さんは私と異なる思いを抱く可能性は高いと思います。ただこの本は様々な読者の「立ち位置」に配慮しつつ、外してはならない「要点」をキッチリと押さえて書かれた良心的なクラシック音楽のガイドブックとして、何のためらいもなく推薦できるものであることは確かです。

 この本はグレゴリオ聖歌から現代に至るクラシック音楽の歴史を編年体で述べたものです。小学校の音楽室に張られていた音楽史の年表を本にしたようなもの、といえばいいのかもしれません。ただ西暦と作曲家名が並んでるだけの年表とは異なり、音楽史上重要な人物は「なぜ重要なのか」という理由がしっかりと述べられていています。そして(これがこの本の「肝」なのですが)昔の音楽を21世紀に生きる現代人が耳にするとどう感じるか、という点に徹底的に配慮して書かれているのがこの本の特徴です。現代人のクラシック音楽を聴いたときに抱く「シンパシー(共感)」や、場合によっては「違和感」などを積極的に肯定した上で、その感覚が生じる理由を音楽学的なロジックを用いて証明していくのです。その手腕の鮮やかさは本当に舌を巻くほどの見事さです。その目の覚めるような筆致の裏には、古楽に対する確かな知識があります。特にオルガヌムやモテットについての記述(pp.13&24)はどんな教科書や辞典よりも明快です。そして古楽器演奏のムーヴメントについても、フルトヴェングラーやメンゲルベルクらによる19世紀的な「ロマン派的主観」に対するアンチテーゼとして登場した「新即物主義」の一環であるとはっきり記しています。いや、「古楽演奏が即物主義に陥るのはオカシイ」という意見を見かける度に、普段から私は「それってどうなのかなぁ」と思ってたので、この本を読んでなんだか溜飲を下げた思いがしたのですが。
 ともあれ書き手の主観(それこそ「ロマン派的」!?)に基づいた入門書が氾濫する現代にあって、確実な音楽学的視点に立ったこの良書は、これからクラシック音楽を聴こうとする初心者にも大いなる指針となるでしょう。なにしろ現代はノートルダム楽派や現代音楽まで、CDで聴ける「クラシック音楽」の領域は以前とは比較にならないほど広がっていますから、これまで入門書ではないがしろにされていた領域にも十分に目配せを利かせたこのガイドブックの登場を素直に喜びたいと思います。
(中央公論新社, ISBN:4121018168)

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