スターリングラードのメリークリスマス
この絵の作者はクルト・ロイバー。彼は第2次大戦で軍医としてスターリングラードに赴任中、ソ連軍の包囲により補給路が絶たれた中、地図の裏を使ってこの聖母像を描きました。医師・オルガニストのシュバイツァーとも親交があったという彼は生きて戦地から故郷に帰ることはできませんでしたが、彼が生前に記した手紙にはこう記されています。
「私は(1942年の)クリスマスを同僚軍医、そして傷病兵たちと共に過ごした。将校は手紙に添えて最後のシャンパンを渡してくれた。私たちはマグカップを高く掲げて、愛する人達のために飲んだ。しかし酒を味わう前に塹壕の外で爆発音がしたので、カップを地面に放り投げないといけなかった。私は仕事道具の入ったカバンを抱えて爆発地点まで移動した。そこには数名のけが人と幾つかの死体があった。クリスマスで飾りつけられた塹壕は処置室になった。ある兵士は頭部に深い傷を負っていて、それはもはや施しようのないものだった。それでも彼はクリスマス・パーティーを共に祝った。それが彼の最後の任務だった。彼は死ぬ前に「やっと『たのしげに、しあわせに』(O du Fröhliche!:クリスマスのときに欧米で好んで歌われる)を最後まで歌うことができたよ」と言い、それから程なくして亡くなった。クリスマスの塹壕での作業はハードで悲しいものばかりだった。夜は更けてきたが、まだクリスマスの夜は続いている。そして各所で多くの悲しみの光景が続いている。」
また、当時のスターリングラードではこんなこともあったといいます。
「ある場所では、一人の兵士がアコーディオンを持っていたので兵士達がその伴奏に合わせて『たのしげに、しあわせに』を歌いました。しかし、2番の歌詞を知っていたのはほんの数人だけでした。3番は誰も歌うことが出来ずに兵士達は暗い顔で押し黙ったまま、ただアコーディオンだけが鳴っていました。すると、突然離れた場所から違う言葉で3番を歌う声が聞こえてきました。彼らが振り返ると、歌声の主はボロボロの服を着たロシア軍の捕虜や街に取り残されたロシア市民達でした。」
今なお厳しい環境に耐えながらクリスマスを迎える人達がいます。その人達に思いを馳せつつ、メリー・クリスマス。
(参考)
On An Overgrown Path. The Madonna of Stalingrad (December 22, 2005)
Feldgrau.com. The Stalingrad Madonna.
ミリタリーコラム 鈍色の夢. 第四話「スターリングラードの聖母」
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Comments
その、当時のスターリングラードでの歌の続きを「敵」が歌う、というのは、「メリークリスマス」(2月日本でも公開予定)に描かれていました。自分のブログに書いたとき(joyeux noel というエントリーです)はネタばれもなぁ、と思って言及しなかったんですが、案外、映画化されるときに、スターリングラードのエピソードが移入されたのかも。
でも、あらかじめ展開を知っていても泣けます、この部分、多分。音楽ってそういう力があります。
Posted by: ガーター亭亭主 | 2006.01.06 05:07
こんばんは。確かにドライブは安全第一ですね。雪道はこわいですよホント。
>「ショスタコの愛したウォッカ、限定1905本!」
ハハハ。これは面白い。このアイデア、ロシア人のビジネスマンがどこかで見ていれば良いのですが…。
Posted by: 「坂本くん」 | 2005.12.25 19:58
坂本様、レスありがとうございますm(_ _)m
夢は、忘れていることが多いですので、お気になさらず。そうそう、本年も記念の年(没後30年)ではありましたが、マニア的にはまだまだ!!
うがちすぎかもしませんが、本国がもう少し宣伝してくれない物かと…「ショスタコの愛したウォッカ、限定1905本!」とかやっていただきたいのですが…国自体が平和ではないのがひびいているのだろうか、とどうしても考えてしまいます。しかし、音楽は国境を越えるのです。坂本様も、交通安全で(?)どうかこれからもご活躍されますように。
Posted by: 深良マユミ | 2005.12.25 15:46
深良マユミ様こんにちは、いやメリークリスマスですね(笑)。
それにしてもいろんなモノが夢に出て来ましたね。これからは深良様が悪い夢を見ないよう、日記で取り上げる話題には気をつけます(笑)。
ところで来年は「生誕100周年」ということでショスタコーヴィチ・イヤーなのですが、「没後30年」の今年も「記念の年」でしたね。来年は今年以上に盛り上がると良いですね。
Posted by: 「坂本くん」 | 2005.12.25 09:10
メリー・クリスマス!坂本様(^^)
深良マユミです。コメントはご無沙汰していましたが、お邪魔はしていましたよ。「大理石のチェンバロ」をこの目でみたい!と思っていたら夢に出てきたりしました…
でもあれはアコーディオンだったかも???
来年は「ショスタコーヴィチ・イヤー」です。盛大に祝います!地球に美しい未来をもたらすために。
Posted by: 深良マユミ | 2005.12.24 21:34