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2005.12.01

「栗東市芸術文化会館さきら」問題

 音楽評論家・渡辺和様のブログで最近知ったのですが、来年4月から「栗東市芸術文化会館さきら」(以下「さきら」)(→公式サイト)を管理運営していく団体が、現在の「栗東市文化体育振興事業団」から、民間のビル管理会社「ジェイアール西日本総合ビルサービス」(以下「JR西ビル」)に変わるそうです(※1)。一般紙でも京都新聞(電子版)で「劇団など要望書、職員ら不安の声 栗東文化会館に指定管理者」という記事(※2)でこのことが伝えられましたが、最近流行の「指定管理者制度」(参照→Wikipedia:指定管理者)の潮流の中での出来事とはいえ、平成11年の開館以降オリジナリティに溢れる独自企画で音楽ファンを楽しませてきた「さきら」が来年以降どうなっていくのか、とても気になります。JR西ビルの運営方針によっては、旧カザルス・ホールのような事態が関西でも起こってしまうことが懸念されるからです。

 「さきら」は独特の響きで知られるファツィオーリ社製ピアノが常備されているホールとして有名です。同社製のピアノは現在のところ日本には5台しかなく(参照)、演奏会でこの珍しいピアノを使用するときには首都圏からも音楽ファンがやってくるほどです。また「さきら」は子供向けに様々な教育活動を行っていて、音楽関係では「さきらジュニアオーケストラ」を結成し、18歳以下の演奏家たちにプロの指導の下でオーケストラ演奏を経験させるチャンスを設けたりしていました。
 これらの取り組みを始めとする日々の「さきら」の活動からは「芸術」の旗印のもと胡坐をかくことをせず、地道に活動を行ってきたスタッフの熱心さが伝わってきます。しかし今回の決定により、「さきら」の職員は全員解雇される見通しだそうです(※3)一部の管理職以外の職員が解雇となります(参照記事)(←「坂本くん」註;一部訂正いたしました)。またJR西ビルへ管理が委ねられると、新「さきら」は人件費を現在の半分に押さえ、公演は外部コンサルタント会社による収益形イベントになるという話も伝わっています(※4)。
 ここからは私の個人的な見解になるのですが、この「芸術と金」にまつわる問題、「芸術に無理解な市長はケシカラン!」と片付けるのは簡単なのですが、財政についての市民の視線が年々厳しくなっている昨今、少しでも支出を減らそうと努力するのは自治体としては自然な行為だと思われます。もし私が市長だったら「ウンウン、人件費が半分になるのか、そりゃ有難い話だ」と、思わずオイシイ話に飛びついてしまうかもしれません。逆に言うとこれからは、このような考えの持ち主を説き伏せるくらいでないと芸術は生き残れない時代なのだと思います。
 このニュースを見て私が思い出すのは、サッカークラブの「大分トリニータ」です。議会の承認を経ずに大分県から2億円の緊急支援を受けて何とか息を吹き返したトリニータ(※5)に対し、問題視する声も地元から上がりましたが、それを追求する立場にある大分の市民オンブズマンの幹部は、トリニータの試合のことを嬉しそうに話す子供たちを見て「トリニータ問題」を厳しく追求するのを躊躇しているそうです(※6)。
 これが教えてくれるのは、広く市民に利用され「公共性」の高いものであれば支出が多少かさんでも世論を納得し得る、ということです。で「さきら」の場合はどうでしょう。栗東市のサイトにある今回の指定管理者募集の告知ページにあった資料(pdfファイル)によると、「さきら」の年間利用人数は平成14年度から昨年度まで概ね17万人台で推移しています。栗東市の人口は約6万人ですから、年間でざっと市民一人当たり3回は何らかの形で利用していることになります。これが多いか少ないかは専門家ではないので正確なところは分かりませんが、私は「結構このホール、市民に利用されているなぁ」という印象を持ちました。JR西ビルはこの数値を上回ることが要求されるわけですが、これまで通り魅力ある企画で市民たちを引き付けることができるのでしょうか。でないと入場者数はかえって減少の一歩をたどるでしょう。
 出来レースかと思わせる展開で管理団体が決定した今回の「さきら」の場合、決定を覆すのは相当困難かと思われます。今後は現在の活動が今後も行われることを目標とするべく、現スタッフの新管理団体への再雇用、来年度以降予定されている企画の継続、「さきら」の重要な財産であるファツィオーリ・ピアノの維持、などの具体的な要求をしていくのが現実的な策のような気がします。もちろんこれはあくまで私案であって、実際に意思表示をするのは「さきら」関係者や栗東市民をはじめとする周辺住民なのですが。

(脚注)
(※1)URL;http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/archive/20051120
(※2)URL:http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2005112900039&genre=A2&area=S10
(※3)ブログ「関西のダンスやお芝居などなど」内; 11月20日のエントリ参照。
(※4)ブログ「ときどき、ドキドキ。ときどき、ふとどき。」内; 11月20日のエントリ参照。
(※5)大分合同新聞・9月17日付の記事参照。
(※6)「腹を割れ」大分トリニータが揺れた夏. 木村元彦. エンターブレイン. サッカーJ+(プラス). vol.02 pp.43-47.

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以前から書きたいと思っていたので、少し書きます。 「おかか1968ダイアリー」の12月1日の記事から知ったのだが、滋賀県栗東市にある栗東芸術文化会館さきらに指定管理者制度が導入され、早い話、全部ではないが今いる職員の首を切るのだそうだ。 私は「文化は絶対だ....... [Read More]

Tracked on 2005.12.03 at 02:30

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