アール・ワイルド 90歳をカーネギーホールで祝う
アメリカを代表するピアニスト、アール・ワイルド(→公式サイト)が先日90歳の誕生日を迎え、それを記念するソロ・リサイタルが先月29日にカーネギーホールで開催されました。プログラムは前半がマルチェルロ「オーボエ協奏曲」のアダージョ(ワイルド編)にベートーヴェン「ソナタ第7番」、後半はリスト(「エステ荘の噴水」)とショパンの作品が4曲(「バラード第1番」「同第3番」「スケルツォ第2番」「幻想即興曲」)でした。ワイルドはこれらを全て暗譜で演奏し、破綻もなく無事完奏しました。アンコールに自作の「メキシカンハット・ダンス」変奏曲を披露した後、ソプラノ歌手のアプリーレ・ミッロと作曲家のネッド・ローレムが一緒に音頭を取り2800人の観客と共に「ハッピーバースデー」を歌い、会場全員で90歳の誕生日を祝いました。ワイルドはこのあともう一曲アンコールとしてレスピーギの「夜想曲」を演奏し、この盛大な誕生会を締めくくりました。
地元紙のレビューによると、マルチェルロとベートーヴェンの緩徐楽章は「感動的な出来」、またショパンのバラードでは「華麗な旋律部では感情の統制が常に維持されていた」とあります。「夢のよう」な「幻想即興曲」の後、観客からは拍手と共に歓声が上がったそうです。ワイルドは数ヶ月前に心臓手術を受けたばかりですが、演奏会当日のコンディションは良好だったようで、その辺りに彼のプロ根性が感じられます。
ワイルドは世代的にはいわば「遅れて来たヴィルトゥオーソ」といえる存在で、一時期全く省みられず楽譜棚で埃を被っていた19世紀のショーピースの紹介に非常に熱心でした。彼はルービンシュタインやホロヴィッツらの「旧世代」の巨匠のグランド・マナーを受け継ぎ、アムランに代表される現代のヴィルトゥオーソたちにピアニズムの奥義を伝える、という重要な役割を果たしたと思います。彼の至芸がこれからも人々の耳に届くことを私は願って止みません。
(参考)
Newsday.com. Pianist Earl Wild celebrates 90th birthday with recital at Carnegie Hall (November 30, 2005)
New York Times. A Veteran Pianist Sticks With the Things He Knows Best (December 1, 2005)
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