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2005.11.08

【レビュー】ヘブラーの「フランス組曲」

haebler_bach

<CD1>
1.バッハ:フランス組曲第1番ニ短調 BWV812
2.同:同第2番ハ短調 BWV813
3.同:同第3番ロ短調 BWV814
<CD2>
4.同:同第4番変ホ長調 BWV815
5.同:同第5番ト長調 BWV816
6.同:同第6番ホ長調 BWV817

演奏:イングリッド・ヘブラー(ピアノ)

 私はヘブラーのモーツァルトを聞くとなぜかいつもリラックスした気分になります。彼女の演奏にはどこか「安心感」というか「心地よさ」が感じられるのです。他のピアニストではなかなか味わえないこの感覚は、最近再発されたバッハの「フランス組曲」でも体験することができます。


 一般的に「名演」と称されるものには、とびきり刺激的な部分があったり、はたまた冷徹さで貫かれたりといった風に、誰の目にも分かりやすい「過剰」な部分を持っているものですが、ヘブラーの演奏はそのような「過剰さ」を聴き取ることはできません。むしろ「速すぎず、しかも遅すぎず」といった中庸なテンポ設定や、デフォルメのない抑制された表現からは「過剰さ」を意識的に遠ざけようとしている節すら感じられます。
しかし演奏を聴き進めるうちに随所にヘブラーならではの工夫を凝らした表現解釈があることに気づきます。それは特にフレージングと音の強弱に現れています。スラーやレガートを意識的かつ効果的に使用することにより、旋律は流れるように進行していきます。またクレシェンドやデクレシェンドなどの緩やかな強弱の表現は、丘のようなゆるやかなふくらみを音楽に与えます。これらをあくまでこれ見よがしでなく、控えめに隠し味的に用いるのがヘブラー流なのですが。
 以上のような特徴を持つ彼女の演奏は、真正面に取り組むと角が立ってしまうこともあるバッハの鍵盤作品に柔らかさとまろやかさを与えています。それが結果的に「心地よさ」に繋がり、聞く者を安心させるのでしょう。

(PHILIPS/Tower Records, PROA-18/19)

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