「絶対に負けられない」ヴァイオリン争奪戦
以前当ダイアリーの今年2月26日のエントリで、オークションに掛けられたストラディバリウス製ヴァイオリン「ヴィオッティ」(写真)のことを紹介しましたが、このヴァイオリンを今月2日に落札したのは、兼ねてからこの楽器の購入に意欲的だった英王立音楽アカデミー(RAM)でした。「ヴィオッティ」の前の持ち主だったスコットランド人は、この楽器を演奏させることなく80年間手許で保管していましたが、2年前に英国税当局に税金として物納され、それを国税局が競売にかけていました。
この楽器を落札するのに必要な金額は210万ポンド(約4億2500万円)。この資金を調達するために、RAMはテレビ番組で「ヴィオッティ」のことを紹介したりするなどの力の入った宣伝活動を展開し、募金を少しでも多く集めて英国外への名器の流出を防ごうとしました。そして「この楽器はイギリスのものだ」という意識を徹底させるためか、楽器の呼び名も前の持ち主の英国人の名を付け足して「Viotti ex-Bruce」と呼ぶ有様でした。争奪戦のライバルとなるアメリカや日本のバイヤーを強く意識したこの戦略が結果的には功を奏し、国立美術収集品基金(National Art Collections Fund)と国家遺産記念基金(National Heritage Memorial Fund)、そして多くの個人からの寄付が集まり、名器をめぐる「国別対抗戦」の様相を呈したこの争奪戦に英国は勝利しました。
「ヴィオッティ」はRAM内の博物館に今週末から展示される予定です。そしてこの楽器を使用したコンサートも企画されています。そこでは、先頃RAMの教授に任命されたばかりのマキシム・ヴェンゲーロフが演奏する予定です。
さてここからは私見になるのですが、この楽器がユニークなのは、名前の由来にもなったヴィオッティがこの楽器を手放してから約200年もの間、ほとんど演奏会で実際に使用されずにいたことです。現在伝えられている報道だけでは「ヴィオッティ」の状態はよく分かりませんが、この楽器が19世紀に盛んだった音量を出すための(補強や魂柱を太くするなどの)処置を施されないまま、200年前の状態のままで保管されていた可能性があります。となるとこれは「古楽器」になるわけで、そうなると現存する古楽器の名手にも演奏の機会を与えて欲しいな、と思ったりもします。
(参照)
24 Hour Museum. STRADIVARIUS VIOLIN SAVED FOR NATION BY ROYAL ACADEMY OF MUSIC. (September 2, 2005)
Guardian. 300-year-old Viotti Stradivarius warms to new home. (September 3, 2005)
Gramophone. Royal Academy of Music saves ‘Viotti’ Strad for the nation. (September 5, 2005)
PlaybillArts. 'Viotti' Stradivarius to Remain in the U.K. (September 6, 2005)
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