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2005.08.30

【レビュー】ヴァント&シュトゥットガルト放送響のブルックナー「第9番」

wand_ottobauren

曲目:ブルックナー:交響曲第9番ニ短調
演奏:ギュンター・ヴァント指揮シュトゥットガルト放送響
(1979年6月24日 オットーボイレン、バシリカ聖堂オットーボイレン修道院 大聖堂[→9/26追記:※1]でのライブ録音)

 聴き進むうちにブルックナーの深淵にどんどん吸い込まれていくような、そんな強い求心力を持った演奏です。このことはヴァントのブルックナー演奏を聴くといつも感じることではあるのですが、今回リリースされた1979年のライブは晩年の演奏と較べてより「熱」を帯びていて、肉感的ですらあります。ヴァントが晩年よりも早めのテンポを取っていて、その結果推進力を音楽に与えているのです。第1楽章での奔流のようなクライマックスは圧倒的ですし、第3楽章の(9'35"過ぎからの)低弦に導かれる突然の音楽の高揚には驚かされます。

 それにしてもヴァントはどうしてブルックナーの音楽をここまで「正しく」響かせることができるのでしょうか。「正しく」という表現は誤解を招きかねないので、もう少し具体的に述べますと、ブルックナーの壮大な音響は保持しつつも、楽譜に記された音を全て明瞭に、そして「生きた音」として聴かせる能力が、ヴァントにはあります。ブルックナー演奏には金管の強奏に頼りすぎて音の配合を怠ったものが多く、そのようなものを聴くと「うるさすぎるなあ」と思ってしまいます(私の場合、某帝王の演奏がそれです)。一方どの楽音にも配慮を示すあまり、繊細になりすぎて重量感を失った、貧血気味の演奏もあったりします。ヴァントの場合、そのあたりのバランスが絶妙なのです。この1979年ライブ盤では、音の洪水の中で埋もれがちな管楽器の音(ホルンや、場合によってはフルートまで)が、はっきりと明瞭に、そして説得力ある音で聞こえてきます。それが強奏部での響きをまろやかにし、独特の艶を与えています。また(第1楽章の14'30"過ぎのような)対位法的に音が錯綜する部分では、主旋律のヴァイオリンだけでなく、ファゴットやトランペットの細かなモチーフですら充実した生命力ある音で迫ってきます。
 最後に演奏会場についても少し触れてみたいと思います。会場のバシリカ聖堂の響きは独特で、いわゆる「ブルックナー休止」では音が「スーーッ」と滑らかにゆっくりと絶妙なタイミングで減衰していきます。ブックレットによると当時会場では3500人がこの演奏を聴いていた、ということです。もし会場ががらんどうだったら、もっと篭もった響きになったのではと思われますが、観客がほどよい緩衝材になったのでしょうか。3500人の聴衆はヴァントとオーケストラの響きに耳を傾けながら、素晴らしい音楽を「創った」共同製作者なのかもしれませんね。

(Hänssler Profil, PH04058, ASIN:B0009SQCBY)

(8/31追記)会場となったオットーボイレンの修道院の写真はここで見ることが出来ます。
(※1)ふげつ様のご指摘に従い、収録場所の表記を訂正いたします。ご教示ありがとうございました<ふげつ様。

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Comments

ふげつ様こん○○は。
いつも貴方のサイトを参考にしておりますもので、つい前述の如き言い回しになってしまいました。こちらこそ失礼いたしました。
ともあれ、また色々とご教示下さいませ。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.09.28 21:41

ええっ、ご教示ですか? いや、こちらの話ではなくて音盤屋の本盤に関する記載の話でしたので。こちらこそ失礼しました。

Posted by: ふげつ | 2005.09.28 16:59

アラン様こんばんは。
放送録音、DVD、果てにはベルリン・フィルとの録音のSACD化など、最近堰を切ったようにヴァントのCDがリリースされますね。正直全部買うお金がありませんので、「どれがいいかな」と迷った上で購入したのがこのオットーボイレンの「第9番」でしたが、素晴らしい演奏で本当に良かったです。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.09.01 20:16

はじめまして
ヴァントの演奏大好きでこのCD非常に気になっていました。聖堂で流れるヴァントのブルックナー、買うのが楽しみになってきました。
また寄らせて頂きますね

Posted by: アラン | 2005.08.30 22:09

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