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2005.08.16

iTunes Music Storeのクラシック音楽

iTunes_Logo2 今月4日に始まった「iTunes Music Store」日本語版(以下iTMS-J)ですが、クラシック音楽はカラヤンとかアバドなどのタイトルが数点ずつ、あとは売れ線の美人アーティストやコンピレーションものが幾つか揃って、全部で40~50タイトル、というのが私の事前の予想でした。しかしメジャーからの参加がユニヴァーサル(DG、デッカ、フィリップス、マーキュリー、ウエストミンスターなど)と東芝EMIだけ、と言う割には相当数のタイトルが揃っています。ちゃんと数えた訳ではありませんが、ざっと1000タイトルくらいはありそうです。まあ少し大きな外資系CD店ならクラシック音楽は2~3万点は揃っているでしょうから、それと比較するとまだまだです。「地方にある、少しクラシックが置いてあるお店」のようなイメージでしょうか。ちなみにカラヤンは96点(→リンク)。ちゃんと「アダージョ・カラヤン」(→iTMS)も置いてあります。

 ところで私は今回のiTMS-Jのスタートにあたって、「アーティストの多様性」(バラエティに富んだ演奏家を揃えているかどうか)と「レパートリーの多様性」(管弦楽曲や有名曲に偏っていないかどうか、etc.)を評価の目安にしていました。そんな視点から見ると、前者については「不合格」、後者については「まず合格」といったところです。チェリビダッケ、ヴァント、テンシュテット、朝比奈隆といった人気指揮者の名前はiTMS-Jのリストには見あたりません。その一方でグレゴリオ聖歌からスティーヴ・ライヒまでのレパートリーをiTMS-Jから購入することができます。弦楽四重奏曲ではベートーヴェン、バルトーク、ショスタコーヴィチのものが全曲、エマーソンSQの録音で揃います。また見たことも聴いたこともないような現代音楽の作品もいくつかラインアップされています。楽曲単位では「豊富」とはいえないながらも「バラエティに富んだ品揃え」と言えそうです。
 さてiTMS-Jで購入できる音楽ファイルは「AAC形式」と呼ばれる圧縮音楽フォーマットですので、CDと較べると音質面では若干劣るでしょうが、iTMS-Jの特徴である「1クリックすれば数分で音楽が聴ける」というアクセスの良さはは魅力です。特にiPodを中心とした音楽生活を楽しんでおられる方にとってiTMS-Jは便利この上ないサービスでしょう。このアクセサビリティの向上のメリットはヘビーユーザーよりも、普段は音楽をラジオやテレビを通じて楽しむ事の多いライトユーザーの方にありそうです。「○○という曲を聴きたいけど、アルバム全曲を買うのはもったいないし…」というユーザーの希望をiTMS-Jはわずか150円で叶えてくれます。また手続きの簡便さは、普段聴かないようなジャンルの音楽に対するユーザーの購買意欲を増すようです。アメリカ版iTunes Music Storeでは以前ハワイアンの楽曲がヒットし話題となりました(参照)。日本でも早速同様の傾向がチャートに現れているようで、iTMS-J開始後数日は瀬戸口籐吉の「軍艦行進曲」がクラシック部門のトップに位置し(→証拠写真)、アルバムの総合チャート(つまり「全ジャンル」のセールスチャート)では村治佳織の最新アルバムが上位にランクしています(→証拠写真)。村治さんの名前がDef Tech、クイーン、大塚愛などと一緒のところにいるというのはなかなか新鮮なものです(笑)。
 先程も少し触れましたが、iTMS-Jでは1つのアルバムを丸ごと1500円くらいで購入することができますが、1曲ずつを150円~200円で購入することも可能です。この商売のスタイルに対し「交響曲を1楽章づつ切り売りするのは如何なものか」という声が一部にありますし、大曲の多いクラシックにiTMS-Jの手法が馴染むかどうかは議論の分かれるところです。しかし100年前はカルーソーのアリアやクライスラーの小品を収録時間の短いSPで「一曲ずつ」購入していたわけで、その頃の「『曲』単位」の購入スタイルが、第2次大戦後のLPの登場により「アルバム」単位のスタイルに変化した、という歴史があります。そんな中で登場したiTMSのビジネススタイルは「『曲』単位の購買様式への回帰」といっていいのかもしれません。ここからは私の予想になるのですが、「曲」単位での購入スタイルがもし定着すれば、クラシック音楽の聴き方も、現在以上に小品中心へとシフトする可能性があります。となると交響曲などの大曲の影に隠れて最近あまり演奏されなくなった管弦楽小品が再び脚光を浴びることになるかもしれません。かつてBBCの名物DJにしてプロデューサーのジョン・パール氏は、「ロリポップ」という名称で括られる管弦楽小品に触れる機会が少なくなったことを「目隠しジュークボックス」という本の中で告白しています。iTMS-Jの出現は、そんな愛すべき小品への再評価のきっかけになるかもしれません。
 それ以外にも音楽配信サービスは、レコード会社が楽曲をサイトに音楽ファイルをupするだけで商売ができるので、現在のようにパッケージングのコストを気にせずに済みます。これによりレコード会社が「セールスが不調だから」という名目でアルバムを廃盤にするような行為が今よりも少なくなるのでは、という声があります。実際どうなるかは正直業界各社の気持ち次第でしょうが(苦笑)、倉庫に眠っている貴重な音源を耳にする機会が今以上に増え、カタログが今以上に充実することを期待しています。そして古今亭志ん生の落語をiTMS-Jに提供しているNHKには、クラシックの過去の名演を積極的にカタログ化することを希望します。あとはマイナーレーベルには、メジャーの足並みが揃っていないうちにどんどん参加して頂きたい。そんなわけで外資系CDショップ並の3万タイトル目指して、iTMS-Jには益々頑張って頂きたいです。

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