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2005.07.08

【レビュー】ヒューイット&オーストラリア室内管によるバッハの協奏曲集

hewitt_bach_concerto1

<CD1:#67307>
1.バッハ/チェンバロ協奏曲第1番ニ短調 BWV1052
2.同/同第7番ト短調 BWV1058
3.同/ブランデンブルグ協奏曲第5番ニ長調 BWV1050
4.同/三重協奏曲イ短調 BWV1044

hewitt_bach_concerto2

<CD2:#67308>
1.同/チェンバロ協奏曲第4番イ短調 BWV1055
2.同/同第3番ニ長調 BWV1054
3.同/同第2番ホ長調 BWV1053
4.同/同第5番ヘ短調 BWV1056
5.同/同第6番ヘ長調 BWV1057
(各CDはセットではなくバラ売りです)

演奏:アンジェラ・ヒューイット(ピアノ)オーストラリア室内管弦楽団(ディレクター:リチャード・トネッティ)

 ヒューイットがバッハを演奏する。これだけで音楽マスコミ各社は無条件に「特選」マークを付けてしまうでしょう。確かに小編成のアンサンブルをバックに演奏するヒューイットの音楽は素晴らしいものでしたが、同時に一筋縄ではいかない演奏であったのも事実です。

 バッハがライプチヒの「コレギウム・ムジクム」のディレクターとして、カフェや(季節によっては)野外で演奏活動を行っていた頃(1730年代)に作曲されたこれらの協奏曲は、最近ではほとんどチェンバロの独奏で演奏されます。そんな中ヒューイットは敢えて真正面からファツィオーリ製のピアノでバッハの協奏曲の録音を行いました。さらに興味深いことに、共演のオーストラリア室内管は明らかに古楽奏法を取り入れて演奏しています。私は「古楽器」+「ピアノ」という組合せでバッハを聴いたことがこれまで無かったので、初めてこのCDを聴いたときには正直戸惑いました。
 私のこの戸惑いが頂点に達したのはピアノとヴァイオリン、フルートによる「ブランデンブルグ協奏曲第5番」です。ここでは合奏部の通奏低音を、楽譜指定どおりのソロパート(ここではピアノ)ではなく、ヒューイットとは別のチェンバリストの演奏に任せています。第2楽章ではチェンバロ演奏の部分とピアノ演奏の部分が交互に訪れるのですが、この楽章を聴くと双方の音楽世界の違いがよく分かります。音の響きの質感というか、音楽の「質量」が明らかに違うのです。ピアノが入ると、明らかに音楽全体が重々しいものに変容していくのです。その変化が結構唐突なので居心地の悪さを覚えつつも辛抱していると、再びチェンバロによる合奏部が訪れます。「ブランデンブルグ協奏曲」でピアノとチェンバロを共存させた理由として、この曲の持つ優雅な性格を出来るだけ維持したい、ということがあったのかもしれませんが、2つの異なった雰囲気の音楽が交互にやって来ることから来る違和感は最後まで拭い切れませんでした。
 しかし他の作品では別の評価が当てはまります。ヒューイットのピアノは決してアンサンブルを邪魔することなく一つに溶け合い、一方で彼女のバッハ演奏の特徴であるフレージングを意識した「歌うバッハ」の美質がよく現れていて、まさに会心の出来映えです。CD2(#67308)を一度最初から最後まで聴き通せば、その素晴らしさに魅せられて(時間に余裕があれば)もう一度始めから聴き始めるリスナーも少なからずおられるのではないかと思われます。「BWV1053」や「BWV1054」の軽快なタッチは聴く者を爽快な気分にさせてくれます。その一方で「BWV1056」の第2楽章(Track 11)のあの有名な息の長い旋律の表現は、ピアノでなければ出来ない貴重なものです。
 ともあれ、ピアノによるバッハ演奏の限界と、それと同時に可能性を示した立派なディスクだと思います。CDブックレットにあるヒューイット自身による楽曲解説もいつもながら簡潔ながら素晴らしいものです。そこには彼女がこの現代に敢えてピアノ演奏でのバッハを問うた理由も併せて記されています。

(Hyperion, SACDA 67307 & 67308 (SACD mulch ch & 2ch/CD-DA Hybrid; ASIN:B0009K9PHK & B0009K9PHU), CDA 67307 & 67308 (CD-DA; ASIN:B0009K9P7K & B0009K9P7U)

hyperion05

(このエントリは管理人の意向により「amazon.co.jpアソシエイト・プログラム」を採用しておりません)


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