【レビュー】イル・ジャルディーノ・アルモニコ「悪魔の棲む家」
1.グルック:バレエ音楽「ドン・ファン」-幽霊と復讐の女神達の踊り
2.カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ:交響曲ロ短調 Wq182 no.5
3.ロカテルリ:合奏協奏曲変ホ長調 作品7-6「アリアドネの涙」
4.ウィルヘルム・フリーデマン・バッハ:チェンバロ協奏曲ヘ短調
5.ボッケリーニ:交響曲ニ短調 作品7-4「悪魔の棲む家」
演奏:イル・ジャルディーノ・アルモニコ
「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」は、イタリアはミラノに本拠を置く古楽アンサンブル。彼らがオーセンティックなバロック演奏を標榜しつつも、時代の枠を超えたウルトラスーパーモダンな表現を惜しげもなく披露したヴィヴァルディ「四季」をリリースしてから早くも10年以上の月日が流れました。私は10年の間に心も体もすっかり丸くなりましたが(苦笑)、彼らは(メンバーの変更はあったようですが)今でも尖ったスピリットを保ち続けているようです。
今回のアルバムは多感様式から古典派に至る時代の管弦楽曲ということで、彼らがバロック以外の音楽にどんなアプローチをするのか興味深かったのですが、「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」はここでも「イル・ジャルディーノ・アルモニコ」でした。前述の「四季」で認められた、あの火花が散るような鮮烈な音世界はそのままです。冒頭のグルック作品(「ドン・ファン」)を聴くと、同じ3拍子のせいか「四季」中の「夏」第3楽章を思い出しました。
この次のエマヌエル・バッハの作品は、曲自体が感情の起伏が激しいので、聴く前から楽しみにはしていましたが、彼らの演奏は私の期待を遙かに超えるものでした。楽器が軋む音、弓が激しく擦れる音などの楽音以外のノイズ成分はモダン楽器演奏では明らかに「御法度」です(古楽演奏でも禁止事項かもしれませんが)。しかしこのイタリアのアンサンブルは、騒音までも貪欲に音楽表現に取り入れ、それが結果的に他では例のない熱を帯びた表現を生み出しているのです。それにしても岩同士がぶち当たり砕けるような「グシャッ」という感じの鈍い音や、かまいたちがやってきて何かを切るような鋭い音が、どうして弦楽アンサンブルから聞こえてくるのでしょう。不思議です。
次のロカテルリの曲は、有名な「ナクソス島のアリアドネ」のエピソードを主題としています。多くの作曲家がこれを題材にして歌劇や歌曲を作っていますが、ここでは歌手の代わりに独奏ヴァイオリンが語り部役を務めます。ここでは独奏のオノフリの「嘆き」の表現に胸に迫るものがありました。イル・ジャルディーノ・アルモニコの、また違った一面が伺えます。またフリーデマン・バッハの「チェンバロ協奏曲」は独奏と弦楽との表現の対照が楽しめます。
さて最後のボッケリーニの最終楽章は「グルックの『ドン・ファン』に似せて作った」と作曲家自身が明記していて、たしかに冒頭のトレモロやヴァイオリンの音符の動きなどがそっくりです。イル・ジャルディーノ・アルモニコは冒頭のグルックと同様、明快かつ鮮やかなアプローチを聴かせています。でも「物真似やってま~す」と堂々と宣言し、しかも本当にそっくりな作品を書いて、そしてそれが許されるというのはどうなんでしょう。今では考えられないことですね。18世紀は著作権におおらかな時代だったんでしょうね。
ともあれ久しぶりにイル・ジャルディーノ・アルモニコの生々しい血気あふれる演奏が聴けて、個人的にはとても楽しめました。ただ当ダイアリーで先日触れたヒューイットのバッハと対極にあるアプローチには、正直好き嫌いがあると思います。この楽団を耳にしたことがない方々には、購入前にサンプルの試聴をお薦めします。
(naive, OP 30399, ASIN:B0007LCNMK)
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Comments
はじめまして。
以前の記事を拝見致しましたので、おじゃま致します。
実は今年12月に、エンリコ・オノフリ氏(イルジャルディーノのコンマス&独奏)として20年来活躍)が紀尾井ホールで「四季」を全曲演奏するとの情報を得ました。もしやすでにご存じかもしれませんが、以下の日本の公式ファンサイトで、詳細を見る事ができます。あの過激な印象を持つレコーディングから15年がたち、当時26歳だったオノフリ氏も演奏家として最高の年齢を迎えつつあるのではないでしょうか。
エンリコ・オノフリ ファンサイト
http://homepage3.nifty.com/enricoonofri/
Posted by: diminutione | 2009.09.09 18:40