« 京都ブライトンホテル「リレー音楽祭」 | Main | 「若手演奏家」って何歳までですか? »

2005.06.14

マーラーの謎

 「鎌倉・スイス日記」内の素晴らしいエントリに反応させて下さい。あのエントリは「マーラーの『交響曲第4番』に、『第5番』を先取りするようなモティーフが出てくる」という話でしたが、これに似た例は他のマーラーの作品にもあります(もしかしたらどなたかが既に取り上げてい事例かもしれませんが)。

 「交響曲第2番(復活)」の第1楽章の終結部、全楽器のユニゾンの直前のトランペットの「E→E♭」という音型は、「交響曲第6番」の至る所で現れる「長調→短調」のモティーフそのものです。それから「交響曲第3番」の第4楽章のアルト独唱の冒頭の「F♯→E」という旋律は、「大地の歌」の「告別」の最後のメロディ(「永遠に…、永遠に…」と歌われる部分)と同じです。そしてこのモティーフは「交響曲第9番」第1楽章の第1主題とも同一です。
 このようなマーラー独特の<各曲間でモティーフを共有する>という作曲法は、マーラーの個々の作品の間に「時間的連続性」と「関連性」を与えています。同一モティーフの再利用は、聴く者に作品間に共通したイメージを掴みやすくさせます。「第2番」第1楽章の葬送行進曲の一節を「第6番」で執拗に引用することで、「第6番」の行進曲がやがて悲劇的結末を迎えていくことを聴衆は常に意識させられます。そして「ツァラトゥストラ」をテキストにした「第3番」と、唐詩を下敷きにした「大地の歌」の双方で共通のモティーフが使われるというのも興味深いです。歌詞(「第3番」「大地の歌」の「告別」)を見比べてみると、「永遠」を希求する内容であるという点で共通していることが解ります。そしてその「大地の歌」の終着点が、「交響曲第9番」の始発点であるわけです。
 このようなモティーフの共用が聴衆に心理的効果を及ぼすもう一つの例を紹介します。「第9番」の第1楽章の展開部(※1)で唐突に「交響曲第1番(巨人)」を彷彿とさせるトランペットのファンファーレが顔を覗かせます。「巨人」ではファンファーレのあとで幸福な結末が訪れていましたが、「第9番」では聴衆にそんな予感を匂わせておきながら、このあと音楽は壮絶な様相を呈していきます。このギャップは大きく、しかも深いです。
 最後に更なる「謎」を提示してみたいと思います。やはり「交響曲第9番」の第1楽章、第2主題のクライマックス(また第1主題が戻ってくる手前)のトランペットの咆哮(A-B-C♯/C♯-D)(※2)は、あの「交響曲第5番」の「アダージェット」の最初のメロディと全く同じ音型です。


(※1)ワルター&VPO盤(EMI)の9'30"付近、バルビローリ&BPO盤(EMI)の9'55"付近、ジュリーニ&CSO盤(DG)では12'10"付近。

(※2)ワルター&VPO盤の2'40"付近、バルビローリ&BPO盤でも2'40"付近、ジュリーニ&CSO盤では3'05"付近。

|

« 京都ブライトンホテル「リレー音楽祭」 | Main | 「若手演奏家」って何歳までですか? »

Comments

こんにちは。そしてコメントありがとうございます。
こちらこそ、いつも貴方のブログで勉強させて頂いております。でもマーラーのように同じ旋律を何度も使う作曲家って珍しいですね。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.06.15 at 07:19

拙ブログにTB、恐縮です。
なるほど、大地の歌と第三の関連については、全く気がついていませんでした。第二番の動機が第六番で使われていることには、色々と解釈を自分なりに考えてもみておるのですが、未だ結論をみていませんでした。
ありがとうございました。勉強になりました。

Posted by: Schweizer_Musik | 2005.06.15 at 04:36

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/24023/4556872

Listed below are links to weblogs that reference マーラーの謎:

» [音楽][クラシック]マーラーの謎・謎 [To Walk with Wings]
[http://suisse.exblog.jp/2043651/:title] マーラー4番についての謎。かなり細かい分析。 もはや人生で切っても切れなくなってしまった作曲家マーラーだが、個人的には4番はあまり好きになっていない((シャイー/コンセルトヘボウ しか聴いてないのもあるかも))((実は8番も、オペラの経験が浅いのと壮大過ぎて、そんなに聴けてない))。というのは初めて聴いた時からこの曲だけ非常にカオス的な要素、つまり1楽章にて唐突に5番第1楽章のモティーフが出てきたり、第2楽章はな... [Read More]

Tracked on 2005.06.15 at 01:43

» マーラーの交響曲第4番の謎 [鎌倉・スイス日記]
マーラーという作曲家は実に不思議な作曲家だ。先日、第5の交響曲についてエントリに対して、そのテーマが第4番の第1楽章の展開部の終わりに出てくるのは何故?という"じぃさん"のコメントに、数日にわたって考えさせられてしまった。確かにそのフレーズは出てくる。その部分のスコアを参照してみよう。 実はこの前の220小節でグランカッサにこのリズムが出現するのだが、これはちょっと気が付かない場合が多いようだ。そして主題の展開としてトランペットに副次的な動機が拡大され、それが下り落ちるところから、第5番のテー... [Read More]

Tracked on 2005.06.15 at 04:28

» マーラー第4番についての追記 [鎌倉・スイス日記]
第4について、意外に反響もあったため、書き残した部分を急いで追加しておきたい。 マーラー第4番についての追記 第4は第3番の第7楽章「こどもが私に語ること」としてまず構想された。しかし、それを破棄し、改めて第4番の交響曲に転用されることとなった。 そのため、この第4は第4楽章から作られた。というより、第4楽章を中心に作られた。天上の世界を歌い上げたこの第4は、ウィーンでのユダヤ人排斥の悪意に満ちた批評家たちの攻撃に、体調不良に悩まされていたマーラーのちょっと現実逃避のような気もしないではな... [Read More]

Tracked on 2005.06.15 at 04:29

» 私のカスタ・ディーバⅣ [umeyumeblog]
私のカスタ・ディーバ(その四) 世紀の公開レッスンは多くのドラマと貴重な音楽の知 [Read More]

Tracked on 2005.06.16 at 08:34

» ニューヨーク・フィルハーモニック  [日子のさらさら日記]
 リンカーン・センターにある、エイブリー・フィッシャー・ホールに、ニューヨーク・フィルの今シーズン最後の演奏会を聴きに行きました{/kaeru_en4/}       エイブリー・フィッシャー・ホール 音楽監督のロリン・マゼールの指揮で、マーラー作曲「交響曲第6番」でした。 マーラーの交響曲は、#1〜#5までしか聞いたことなかったんですが、6番も昨日聞いて好きになりました{/heartss_... [Read More]

Tracked on 2005.06.28 at 01:04

« 京都ブライトンホテル「リレー音楽祭」 | Main | 「若手演奏家」って何歳までですか? »