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2005.05.31

NHK-FMのライブ放送からいくつか

 最近「モーストリークラシック」がExciteを離れ、産経新聞のサイトのコンテンツの一部になりましたが(→参照)、情報量がExcite時代より遙かに少なくなったのは残念です。何より重宝していたNHK-FMの番組表が無くなってしまったので、長くて4週間先の番組情報を知るには「モーストリークラシック」誌を買うしかないようです。これは既存メディアのネット軽視のあらわれ…、と声高に叫ぶことなく「坂本くん」は飼い慣らされた犬のように大人しくCD店のレジ横に積まれた同誌を購入する予定ですが(笑)。
 このように情報収集をし、実際にお目当ての放送の録音を無事済ませても、聴かずに放ってしまうのは日常茶飯事なのですが、そんな中でも実際に音を聴き心に留まった演奏家を幾つか列挙したいと思います。

●パトリツィア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)(2005.1.20 on air)
去年のグラーツの音楽祭「シュティリアルテ」でのライブを聴きました。モルドバ出身の若手演奏家の彼女はあさがら様が盛んにプッシュされていたので以前から気にはなっていましたが、実際聴いてみると破天荒な位に個性的な弾きっぷりですね。その演奏振りからは「自由自在」「縦横無尽」「天衣無縫」などの四字熟語が思い浮かびますが、テクニックは確かなものを持っているので、曲そのものが破綻を来す一歩手前で留まっています(「支離滅裂」というわけではないのです)。その辺りの「際どさ」が魅力といえる彼女は、当ダイアリーで紹介したどの若手演奏家よりも強烈な個性を放っています。これからも注目していきたいですね。
●漆原朝子(ヴァイオリン)(2005.5.10 on air)
以前「鎌倉・スイス日記」のSchweizer_Musik様よりトマス・デメンガのバッハ無伴奏をご教示頂き、お陰で素晴らしい演奏に触れることができた(ありがとうございました)のですが、このアルバムに収録されているユン・イサンや細川俊夫で凛とした響きを聴かせていたのが漆原朝子さんです。このCDを聴いて間もなく、去年の神戸・松方ホールでのブラームスのソナタ全曲演奏会の模様がオンエアされました。彼女の艶やかな音色と中庸なテンポを保った表現は、一定の品格と節度を持っていますが、時折ほのかに熱を帯びた低弦の響きがロマンティックな色彩を与えます。この表現が特に見事だったのが「第2番」の最終楽章で、漆原さんの演奏からは「貞淑な貴婦人」のような高貴な雰囲気が感じられました。ブラームスのソナタでは過度に神経質だったり、深読みし過ぎだったりする演奏も散見されますが、このようなヴァイオリンの美しさに素直に浸ることのできる演奏がブラームスには合っているような気がします。私はこういうブラームスが聴きたかったのです。
(※:なおこのライブはフォンテックよりSACDで発売されます→amazon.co.jp
●ウィスペルウェイ(チェロ)&ラツィック(ピアノ)(2005.5.17 on air)
チェロとしてはオークション史上最高額でウィスペルウェイが落札し話題となった名器ガダニーニですが、確かに噂に違わぬ素晴らしい響きです。深みと重さを伴った音色の魅力はラジオを通してでも伝わってきます。
 そんな「ガダニーニをもっと聴かせて欲しい!」という私の気持ちを邪魔するかのようにナーバスな演奏を繰り広げているのは共演のラツィックです。彼のやけにスタッカートを強調したピアノ演奏が気になってしまい、耳がガダニーニに全然集中できません(苦笑)。以前ある評論家が「どうして最近のヴァイオリン奏者はピアノのように飛び跳ねて演奏するのか」と紙上で嘆いていましたが、どうしてラツィックはこんなに飛び跳ねるようにピアノを演奏するのでしょう。ウィスペルウェイも明らかに彼に感化(洗脳?)されて、鋭角的な表現を繰り広げていました。
●ラトル指揮ベルリン・フィル&ウィーン・フィル(2005.5.18 on air)
2つ(あるいはそれ以上)のオケの団員が混ざった「合同オケ」の演奏は、合わせるのが精一杯、音楽表現は二の次、といったものが多かったような気がします。特に「ベルリンの壁」崩壊時に欧州各地のオーケストラ団員を集めてバーンスタインが指揮した「第九」は今聴くと痛々しいものがあります。
 さて今回の欧州二大オケのハイブリッドですが、ラトルが見事に大人数のオケをコントロールしていたのには驚かされました。音楽には推進力と熱気があり、分厚いオケサウンドからは凄みを感じました。そしてこれまで耳にしたことのないようなコントラバスの重量感と圧力を伴った響きは聴きモノでした。ラトルは両団体との演奏経験が豊富ですし、両オケの団員間の交流が以前から盛んだったのもプラスに働いたのでしょうが、いずれにしてもラトルは今回の件で音楽史に名を残すことになりそうです。

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Comments

あさがら様こんばんは。
ビーバーやヴィヴァルディは、いつもの彼女の「らしい」演奏になりそうですね。それから貴方のサイトのコメント欄を見ると、バルトークもやるのですね。これもどんな際どい演奏になるのでしょう。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.06.14 20:41

遅いコメントですが、コパチンスカヤのオンエア聴かれたのですね。確かに「際どさ」は魅力ですね。どんなタイプの曲も面白く聴かせようというサービス精神旺盛なところが気に入ってます。TBのエントリに書いたように、ビーバーやヴィヴァルディをどう聴かせてくれるか気になります。

Posted by: あさがら | 2005.06.13 19:32

Schweizer_Musik様こんばんは。
デメンガのバッハは実は個人的にはリリース当初より気になってはいたのですが、店頭でなかなか見かけないこともあって、貴ブログで紹介されるまでは購入しないままでした。あのblogでのコメントが私の背中を押したわけでして、私の方こそ感謝の気持ちで一杯です。
また貴方のブログにお邪魔いたしますので、よろしくお願いします。ところで以前拝見した新ウィーン学派について触れたエントリが面白かったので、またその辺りの音楽も取り上げて頂ければ、と思ってます。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.06.03 00:22

TBありがとうございました。デメンガのCDをお聞きになったとのこと。私のCDでもないのにうれしくなってしまいました。
細川俊夫氏からあのCDをめぐってメールをいただき、大変嬉しい出来事でしたが、今後とも、あまり取り上げられない演奏家、作曲家の良いCDを紹介していきたいものだと思っています。
ありがとうございました!

Posted by: Schweizer_Musik | 2005.06.02 21:51

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Listed below are links to weblogs that reference NHK-FMのライブ放送からいくつか:

» デメンガ /バッハ・チェロ組曲第5,6番,細川俊夫,イ・サン作品集 *****(特薦) [鎌倉・スイス日記]
デメンガという名チェリストをご存知だろうか?現代音楽に興味をお持ちならきっと一度や二度は耳にされたことがあるだろう。彼はスイス出身の恐らくは現在最も注目すべき演奏家の一人である。 彼がバッハの無伴奏を現代の作品とともに録音してシリーズ化?しているが、このCDもそんな一枚(二枚組)だ。演奏されているのは無伴奏チェロ組曲の第5と第6。それに細川俊夫氏の作品が3曲、尹伊桑の作品が3曲収められているのだ。 現代曲での共演は、名手ハンスハインツ・シュニーベルガー、オーレル・ニコレ、ハインツ・ホリガー、漆原... [Read More]

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