【演奏会レポ】京都市交響楽団 第476回定期演奏会(大友直人指揮)
(曲目)
1.ムソルグスキー(R・コルサコフ編):交響詩「はげ山の一夜」
2.ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品77
3.プロコフィエフ:交響曲第5番変ロ長調 作品100
(演奏)
木嶋真優(ヴァイオリン:2)大友直人指揮京都市交響楽団
(会場)
京都コンサートホール 大ホール
今日の演奏会は忘れられないコンサートになりそうです。
先ず1曲目と3曲目から。「はげ山の一夜」は鮮烈さとパワーを随所に出していたと思いますが、もう少し弦楽器のアンサンブルにバタバタした感じがなければ良かったです。プロコフィエフの「第5番」は鮮烈さに加えて音のボリュームも加わって、曲の持つ雄大さを表現できていたと思います。緻密さと色気がもう少し欲しかったですが、私は十分楽しめました。
そして今日の主役はソリストの木嶋真優(左)でしょう。先日たまたま海外での彼女の評判を知り急遽会場に行くことにしたのですが、先週金曜日にワシントンDCでロストロポーヴィチと共演したばか(*1)にも拘わらず、移動の疲れを感じさせない演奏を聴かせてくれました。協奏曲の第1楽章「夜想曲」の出だしの息の長いパッセージを伸びが良い音で、しかも滑らかに弾ききるテクニックの安定感に驚きました。そしてアルバン・ベルクの協奏曲を思い起こさせるクラリネットのコラールの後の部分では、凍るような冷ややかな質感を持った音に変化させ、夜の音楽の雰囲気は倍加されます。目を閉じて音だけに耳を傾けると、まさに大家だけが醸し出すような気品と風格すら感じられるのですが、目を開けるとそこには「若い」というにはあまりにも若すぎる10代の可愛い女の子がステージに立っているわけで、そのギャップには若干の戸惑いを禁じ得ませんでしたが、それはともかく第1楽章からスケール感のある演奏を展開していて素晴らしかったです。第2楽章の2重フーガは完全に木嶋さんがオケをリードし、切れ味の良さと隙のないテクニックで聴かせます。しかもテクニックだけでなく、音楽の流れを意識し、ちゃんと表現できる力まで備えています。そしてオケが大音量でも埋没することなく存在感を示しています。こんなスケール感溢れる演奏を日本人の、しかも10代の演奏家がすることになるとは…。
第3楽章のパッサカリアも張りのある音色を聴かせるかと思うと、クールな表現を見せたりと、音を自由に操る木嶋さんの表現力の幅の広さをここでも聴かせます。この後のカデンツァは、抑制を利かせた冒頭部からクライマックスへ向かって一気呵成に勢いをつけて力強く弾き通していました。そしてこれだけ力を込めて弾いても全く音の乱れが無いというのも凄いところ。第4楽章では第2楽章と同様の小気味よい弓捌きで音楽に推進力を与えていましたが、最後の最後のパッセージでの小股の切れ上がったような瑞々しさは見事です。
ある海外のブロガーは彼女をヴェンゲーロフと比較してコメントしていました(*2)が、私はヴェンゲーロフはあまり聴いたことが無いので彼とどう違うかはよく分かりません。しかし私の個人的印象ではウェブラジオで聴いた昨年のプロムズでのクレーメルの演奏より遙かに魅力的に感じられました。今日の演奏と比較するとすれば、初演者のオイストラフを引き合いに出さないといけないでしょう。それ位の高レベルの演奏だったと思います。ところでコンサートのブックレットによると木嶋さんは現在あの名教師ザハール・ブロン氏に師事しているとの事です。今日の演奏はブロン氏の指示を忠実に守った結果かもしれませんが、いくら先生に教えられたとしても、ここまで技術的にも音楽的にも充実した演奏を聴かせてくれる機会は滅多にあるものではありません。そしてこの演奏会で披露された音楽はまさに彼女そのものだったと言い切れるくらいに自信に満ちあふれていました。そんな彼女の将来を想像するだけでワクワクするのですが、同時にこの逸材を大事に育てていかなければ、という思いにも駆られて正直複雑な気持ちにさせられます。
(*1)参照リンク先はこちら
(*2)ionarts. Happy 165th Birthday, Pyotr (7 May, 2005)
(6/3追記)木嶋真優さんは今度ロストロポーヴィチ指揮、ロンドン響とこの曲を演奏するようですね(→参照)。
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Comments
予告したとおり、新聞評を見つけましたので紹介記事をアップしました。それをTBします。
Posted by: dognorah | 2005.06.06 06:38
再びこん○○は。
私はチェロが「弾けます」というよりも、「音が出せます」というレベルでして(笑)。そんな大したものではありませんので。
またリハに行かれるのですか、ますますうらやましい。レポ期待しています。
Posted by: 「坂本くん」 | 2005.06.05 09:35
25日の分読ませていただきました。チェロを弾かれるんですね。何の楽器も出来ない私にはうらやましい限りです。ロストロポーヴィッチさんの態度は全く同じだなぁと思いました。とても温かい心の持ち主ですよね。来月のロンドン響リハーサルも同じ指揮者らしいのでまた読んでくださいね。
Posted by: dognorah | 2005.06.05 08:24
dognorah様こん○○は。
上のレビューはいささか感情的になりすぎてしまいました(笑)。今読み返すと恥ずかしいですね。
それにしてもロンドン響のリハを見学できたとは羨ましいですね。ロストロ先生のゼスチャー込みの指導は如何でしたか(笑)。私も生で拝見しました(先月25日のエントリ参照)が、なかなかの見ものでしたよ。
Posted by: 「坂本くん」 | 2005.06.04 20:23
大阪ではなく京都でしたね。失礼しました。
Posted by: dognorah | 2005.06.04 06:01
はじめまして。TBありがとうございます。私の方からもさせていただきました。大阪で同じ曲が演奏されていたとは知りませんでした。しかもすごい演奏だったんですね。詳細なレポート大変参考になります。ロンドンでの本番は私は別のコンサートがあったのでいけませんでした。当地の新聞評を探してみたいと思います。
Posted by: dognorah | 2005.06.04 00:46