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2005.04.03

【レビュー】マイケル・ティルソン・トーマスのマーラー「交響曲第9番」

mahler9

 サンフランシスコ交響楽団(SFSO)の自主製作によるマイケル・ティルソン・トーマス(MTT)指揮のマーラーの交響曲の演奏です。以前からこのコンビのマーラーは何曲かリリースされてますが、私が聴くのはこの「第9番」が初めてです。彼のマーラーのレビューは結構頻繁にネット上で目にしていましたが、それらの評判から伺える彼のマーラー演奏のスタンスというものが、どうも私の好みとズレているような気がしたので、これまでは手を出さずにいました。しかしこのCDのリリースの情報を見て、個人的にも思い入れの強い「特別な曲」でもある「第9番」をMTTがどう演奏するかを早く知りたくなり、SFSOのサイトから直接購入してみました。おかげで店頭に並ぶより早く手に入れることが出来ました。

 「PLAY」ボタンを押すと、数秒間の「間」を置いてから最初のシンコペーションのモチーフ(ライナーノーツによると、生前のレナード・バーンスタインはこれを「マーラーの持病の不整脈だ」と解釈したそうです)が聞こえ、続いて静かに漂うような第1主題が現れます。粗野な第2主題へと曲想が変化すると、どんな微細な音も耳に飛び込んでくる高分解能なサウンドに驚かされます。直接音成分がやや多いものの、決して響きが貧しいという印象はなく、雄大なオーケストラの音像が迫ってきます。MTTのタクトも次を急ぐことはなく、たっぷりとテンポに余裕を持たせていますので、より一層雄大な表現に拍車が掛かります。第1主題が戻ってくる辺りでのリタルダントは強烈で、そう、まるでフルトヴェングラーが「第9」の第4楽章、例の行進曲に移行する寸前の箇所での長いフェルマータを連想させる位に音を伸ばしています。「まだかー、まだかー、まだくるかー、まだまだー、おーまだかー、あーやっと次の小節だー」みたいな感じです。展開部に入ってもテンポの変化を強調せずゆったりと曲は進行していきます。やや鈍重な歩みに感じられなくもないですが、この慎重さが音楽に重みと厚みを与えていると思います。この楽章については、もう少し感情の起伏が激しい方が私の好みですが、MTTのやり方も悪くないと思います。
 第2楽章は3つのテンポが適切にコントロールされた演奏で、まとまりの良さを感じますが、躍動感にも不足しません。ところでこの楽章で大活躍しているクラリネットですが、他の楽章でもクラリネットは音の群れに埋没することなく明瞭に聞こえてきます。これは録音のせいもあるかもしれませんが、オーケストラの名手はどんな箇所でも存在感を発揮するものです。きっとSFSOはクラリネットの名手が多数おられるのでしょうね。第3楽章ではロンド主部で高分解能のオケサウンドが存分に楽しめます。個人的には雄大な中間部の方が音楽的に充実しているように感じられました。
 最後の第4楽章では弦楽合奏が中心となりますが、ここでは全般的に「淡泊」な表現に不満も感じました。冒頭のヴァイオリンはゆったりとしたテンポながら「ため」を作ったりせずに音符通りに演奏し、アクセントもさほど強調しません。アンサンブルの部分に入ると、MTTは全てのパートにも配慮したバランスのよい音を聴かせますが、強奏部での分厚い響きには不足し、弦楽による重厚さがもう少し欲しいな、と思ったのが正直なところです。
 全般的に慎重な歩みで丁寧な音造りを意識したMTTと彼の手兵の演奏には、個人的に好ましく感じた部分と、そうでない部分がありました。私の心の中にある演奏、例を挙げるとカラヤン(2度の正規録音に不満な方は裏青盤を…)、バーンスタイン(個人的にはユニテルのビデオが好み)、バルビローリ(ベルリン・フィルのもいいけどRAIトリノ響とのライブもいい)、ハイティンク(クリスマスコンサートの第4楽章のコンセルトヘボウの弦楽は素晴らしい)の地位が揺らぐことはなかったような気がします(※1)。ただ第1楽章での演奏解釈は他では聴けないものがありますし、録音の解像度も素晴らしいレコードですので、この演奏に満足される方々は多いのではないでしょうか。
(SAN FRANCISCO SYMPHONY, 821936-0007-2, SACD(5ch)&CD-DA Hybrid)

(※1:4/5追記)マーラーの大事な2人の弟子に触れるのをうっかり忘れてました。「第9番」の名演のリストにはワルターとクレンペラーの名前は欠かすことはできません。前者はウィーン・フィルとの演奏(EMI)が晩年のステレオ録音よりも好ましく感じます。録音は古いですが、演奏の凄みは充分に伝わってきます。第3楽章は「ブルレスケ」の題名の意味(「戯画的」「パロディー」)そのままズバリの演奏です。もう一方のクレンペラーは一度だけラジオで聴いたウィーン;フィルとのライブ演奏が印象的でした。このテープを英テスタメント辺りがCD化してくれないものでしょうか。

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Comments

こんばんは。
予定は出ているのですね。確かにあのレーベルは「予定」が出てから実際に店頭に並ぶまでには少し時間があるようですが、確実にリリースしてくれる、というイメージがあるので、安心して正規盤の発売を待ちたいと思います(笑)。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.04.06 at 20:59

どもです(^_^(_ _)。クレンペラー&WPhの1968年ライヴ、テスタメントが全5回分の演奏をリリース予定しているようですが、いつになるのかは「神のみぞ知る」ようです(^_^;)。あそこ、リリース予定が出てからすごく時間がかかっていますものね。

Posted by: じぃ。 | 2005.04.06 at 14:34

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» マーラー/交響曲 第9番 他/ツェンダー指揮 *****(特薦) [鎌倉・スイス日記]
色々授業で使う音源を探していて、この録音を引っ張り出して聞いてみて、驚いた。こんなに衝撃的なマーラーの第9の演奏さて果たしてあったかしら・・・。 こういうスコアの読み方があるのだと知る。冒頭から響きを磨こうなんて考えていない。スコアに書かれた音をそのまま音にして「何か文句あるか」と言われているようだ。説得力は抜群だ。このスコアに記された二十世紀が息づいている。不協和は不協和に提起されたそれは、現代の音楽そのものだ。 第1楽章はブルーノ・ワルターのウィーン・フィル盤やバルビローリとベルリン・フィル... [Read More]

Tracked on 2005.04.07 at 23:45

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