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2005.03.15

スカラ座問題

 最近のスカラ座の人事と、それをめぐる諍いについて取り上げるのを私はこれまで意識的に避けていました。この問題の実体が何なのか、海外メディアからの情報だけではよく判らない、というのがその理由で、もう一つには芸術的な理由で揉めているのでなく、何か政治的な臭いがしたというのも正直あります。ただスカラ座労働組合の公式blogにあったこの写真を見てしまうと…。何というか悲しくなってきました。
 今回のいきさつについては、常にこの問題を注視しておられる「南イタリアの申し子」をご覧頂きたいと思います。さて昨日付の「ガーディアン」紙(英語)によると音楽監督のムーティが「この状況ではスカラ座管の指揮は出来ない」と云った、とありますが、これと同時に「スカラ座の重役会は、今後の運営を政府内委員会にゆだねることを提案している」という記載もあります。正直さじを投げてしまった格好のスカラ座の幹部たちには幻滅してしまいましたし、「(対立が続けば)ムーティはどこか余所に行くべきだ。どの歌劇場も彼を諸手を挙げて歓迎するよ」という、ヤケとも取れるミラノ市長(スカラ座の役員を兼任)のコメントもなんだかな~という感じです。

 それにしてもこれほどまで指揮者と団員の間に緊張関係が生じたケースといえば、'80年代のベルリン・フィルくらいしか思い当たるフシがありません。実際にカラヤンとベルリン・フィルのメンバーとの間にどのような問題があったのか、詳細は私は知りませんが、両者の対立が根深いものであったことを思い知った出来事があります。実はカラヤンの逝去の日、私はたまたま旅行中でベルリンに滞在していたのです。その時市民が手にしていた「ビルド」紙の「KARAJAN IST TOD」の大見出しを今でも思い出します。さて訃報を知った数日後、ベルリン滞在の最後の晩に「カラヤン・サーカスになにか追悼のしるしでもないかな」と思いフィルハーモニーまで様子を伺いに行ったのですが、そこには茶色とも黄色とも付かない色をしたホールがあるだけでした。喪章もありませんでしたし、カラヤン逝去を知らせるポスターもありませんでした。その数日後訪れたザルツブルグで祝祭大劇場に喪章が掲げられていたのと比較すると、ベルリンの対応は余りにも対照的でした。

(3/17追記)昨晩スカラ座で楽団員を初めとする従業員たち約800人が集会を開き、「ムーティに音楽監督の辞任を求める」という声明が採択されました。スカラ座労組の公式ブログの3/16日付のエントリ(イタリア語)がそれと思われます。
そのニュースを伝える本日の「ガーティアン」紙では、ムーティ氏と前総裁フォンターナ氏の政治的バックボーンにも触れ、今回の騒動が政治的対立を内包していることを臭わせる内容となっています。
それからこのエントリで私は「政府に劇場の今後をゆだねるのはけしからん」みたいに書きましたが、どうやらこれは(ムーティを支持する)経営者側が、自らに有利になるようにと取った作戦のように思われます。実際にイタリア文化相は「ムーティが今後指揮を続けられるような解決方法が見つかることを希望する」とコメントしています。

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Comments

こんばんは。
私は職場の先輩から「同じポストは6年続けるとダレるから、続けるなら5年くらいが良い」と言われたことがあります。でも音楽監督で5年間、となると自分の色を出すには短すぎますね。このポストの場合は何年くらいが適当なのでしょうね。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.04.06 at 21:11

TBありがとうございました。

結果は覆水盆に戻らずという諺通りになってしまったような気がします。個人的には、いかにムーティとはいえ20年は長すぎたかな?という印象です。

Posted by: Flamand | 2005.04.06 at 00:02

mesto様こんばんは。
政治がオペラ座の人事に入り込むって、日本では考えられないことですね。でも私はこのスカラ座の動向を見ながら、イタリアのサッカー界のことを思い出していました。それこそベルルスコーニ氏が深く関わっている分野ですし、左右両派で贔屓のチームがハッキリ分かれたりしてる都市もあったりしますし。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.03.31 at 22:48

この件については関係者も余り話したがらず、話す人は私見・憶測も交えて話さざるを得ない訳ですし、伊紙報道は文字通り憶測的発言の集積に近いので「否定し難い事実」を確定するのは難しいと思いますが、幾つかの線を拾い上げることは許されるかと思います。
① 直接的原因は総監督フォンターナと音楽監督ムーティの劇場運営上の主導権争い。
-総監督下に個性と野心の強い音楽家が首席指揮者級のポストを占めている場合、演目・演出家・歌手・客演指揮者の選定、予算配分等に発言力を強めようとする指揮者が、マネージメント畑出身の総監督と衝突する例は珍しくない。例えばパリのバレンボイムとチョン解任など。一般的に政治的駆け引きにより巧みな総監督の勝利となる場合が多いが、今回の特徴は、指揮者側が一旦勝利を得た点にある。
-対立の理由として「集客力のあるポピュラー演目を推すフォンターナと、芸術的アンビションの高い演目を推すムーティの衝突」が、フォンターナが「レプブリカ」紙に03年に示唆したことからしばしば挙げられるが、それは両者の主導権争いの一面に過ぎず、更に多くの以前からの性格的、芸術的、政治的対立があると考えられる。
-ムーティ自身としては、個人的野心というより、今の運営体制のままではスカラは、財政的にも芸術的にもダメになるという危機意識もあった模様。
② ベルルスコーニ率いる右派政党「フォルツァ・イタリア」は、ミラノを自らの拠点と考え、イタリアにおける権力の象徴の意味も有するスカラ座(シーズン開幕公演には政府首脳も出席する)のトップに、政治的に左派と目されるフォンターナが就いていることを歓迎していない。ムーティとフォンターナの対立に乗じ、この機会に自派の人物をトップに送り込もうとした。
-ムーティ自身は政治信条上特に右派色が強いということはないとされるが(スカラ座の予算削減の際には、芸術的立場から労組の要求を支持した)、人脈的にはベルルスコーニ所有のTVグループ・メディアセットのトップのコンファロニエーリ・スカラ座理事に近く、ミラノ右派政界のバックアップを得ている。
-総監督人事の決定権を持つ理事会理事長のアルベルティーニ・ミラノ市長はフォルツァ・イタリア所属。
-理事会がフォンターナ解任の理由として挙げた財政問題は口実に過ぎない面がある。後任のメーリ・カリアーリ歌劇場前総監督のカリアーリでの財政面での手腕は芳しいものではない。
-フォンターナの後任としてムーティの推挙の下に理事会が選任したメーリは、ミラノのメディア・グループRcs出身で政治色は強くない。89年から左派と目されるアバドが率いる「フェラーラ・ムジカ」の芸術監督を務め、96年からはカリアーリの総監督として、チャイコフスキーの「親衛兵」や「オイリアンテ」「エジプトのヘレナ」等珍しい作品の上演や、クライバー招聘に成功するなど芸術的にも一定の成果を評価されている。政治的にはむしろ中間派で、左右両派とうまく折り合う現実家タイプとされる。ミラノでは政界右派人脈の支持を得ていると言われる。
-4月3・4日に伊地方選挙があり、ベルルスコ-ニのフォルツァ・イタリアは、イラクからの撤兵問題、経済問題等を背景に、全国レヴェルでは敗北を喫する可能性がある。せめてスカラ座トップを掌握したい。
③ これに労組が左派フォンターナ擁護、右派メーリ排除の立場から介入。
-ここに至って、
 右:アルベルティーニ理事長、メーリ総監督、ムーティ
 左:フォンターナ前総監督、労組
 の対立という図式が確定。
-労組は、メーリ選任の背後に、右派の影響力伸長やスカラ座民営化への道の加速を感じ取り反発。
-労組は、95年6月「トラヴィアータ」上演のオーケストラ・ストの際、ムーティが自らのピアノ伴奏で「スト破り」の上演を決行し、聴衆・メディアから英雄扱いされた「恨み」を記憶。
④ 労働者としての権利要求に平行して、オーケストラ楽員のムーティの人間的性格に対する以前からの不満が噴出。
-ムーティの芸術的資質に根本的不満を持つ楽員は少ないが、ムーティの芸術的潔癖さに由来する次のような良くも悪くも「非妥協的」で「エゴイスティック」な態度には不満を抱いていた楽員は少なくないとされる。
a) 「専制君主」的。
b)「独善的」芸術最優先からする楽員の労働条件への低関心。
c) ライバル視する指揮者(アバド、故シノーポリ等)のスカラ座登場に消極的。但しこの点については様々な反論も可能。
-オケ楽員を含む労組総会が、賛成約700票・反対3票・棄権2票の圧倒的多数でムーティとメーリの辞任要求を可決した事実は無視し切れない。
-フォルツァ・イタリア上院議員でムーティと同じ右陣営と目される演出家ゼッフィレッリは、ガーディアン紙とコリエーレ・デッラ・セーラ紙で仮借ないムーティの「専制」批判を繰り広げている。
-右派ながらフォルツァ・イタリアと一線を保とうとするボッシ率いる北部同盟と一部楽員によるアバド担ぎ上げの動きがあるが、アバド自身は今回の騒動には一切関わっていないと言われ、スカラ座復帰の意志も無い模様。「ロジョニスタ(立ち見常連客)」間のアバド派とムーティ派の対立も影を落とす。

 以上の情報も結局憶測の域を出ませんので、参考程度に御覧下さい。

Posted by: mesto | 2005.03.31 at 11:28

こんにちは。そしてトラバ&コメントを頂き、誠にありがとうございます。
この問題についてはもっとウラ事情などもネットのどこかにあると良いのですが、なかなか見つかりません。それでもしばらくはこの件についてネットをうろうろすることになりそうです。、

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.03.17 at 16:12

はじめまして、 
スカラ座問題に関して、ミーハー話題に転化しましたが、私のつたないブログでリンクさせて頂きました。

Posted by: まーどんな | 2005.03.17 at 12:55

こんにちは。
もしこのエントリを読んで気分を悪くされたとしたらごめんなさい。私は思いつくままに昔話をさせて貰ったので…。
それにしてもこういう問題はあくまで組織内での話し合いで解決がなされるべきだと思うので、昨今の動きはとても残念です。
またこのようなことが続くとムーティの今後の音楽活動にも影響が出る可能性もあり心配です。真実がどうか、ということに関係なくこういうネガティブなメッセージが発信され続けることが問題なのです。

Posted by: 「坂本くん」 | 2005.03.17 at 12:41

スカラ座についてのご記述を興味深く読みました。
カラヤンのことは極力思い出したくなかったのですが...。

Posted by: 南イタリアの申し子 | 2005.03.17 at 04:36

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