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2005.02.26

「ストラディバリウスを守れ」とイギリス音楽界が動く

 現在1挺のアントニオ・ストラディバリ製作のヴァイオリンがクリスティーズの倉庫で競売にかけられるのを待っています。実はこのヴァイオリン、ただのヴァイオリンではありません。こう書くと「だってストラディバリウスじゃん」とツッコミを受けそうですが、このストラディバリウスはただのストラディバリウスではありません。他にはない歴史的価値、そしてストラディバリウスの歴史上とても重要なヴァイオリンなのです。

 現在最低でも1億円はするといわれるストラディバリウス。そのステータスを決定づけたのは、1782年のパリ・チュルイリー宮での公開演奏会「コンセール・スピリチュアル」だといわれています。この演奏会では当時の名ヴァイオリニスト、ジョヴァンニ・バティスタ・ヴィオッティ(1755-1824)が愛器のストラディバリウスを披露したのですが、数あるヴァイオリンの一つに過ぎない扱いだったストラディバリウスはこのコンサートで一躍「名器」として脚光を浴びることになり、その評価は現在まで揺らぐことなく続いています。今回競りにかけられるヴァイオリンは、まさにそのヴィオッティの弾いたストラディバリウスなのです。
 ヴィオッティ自身はこの楽器を東欧への演奏旅行中に手に入れました。サンクトペテルブルグで当時のロシア皇帝エカチェリーナ2世(エカテリーナ女王)の前での御前演奏を行った際、その名技に魅了された女王から直々にストラディバリウスを譲り受けたのです。その後のヴィオッティとその愛器は前述のパリを始め欧州各地で評判となりました。
 ところがヴィオッティは後年何故かワイン事業を立ち上げ、1801年にロンドンの最後の演奏会のあと第一線から身を引きます。そしてその事業が失敗に終わってしまい、仕方なく彼はその楽器を3816フラン(現在の通貨に換算して約1万ポンド=約200万円)で売りに出してしまいました。しかし彼自身がステータスを押し上げたストラディバリウスの値打ちはみるみる上がり、彼が生きている間に売値の25倍にまで高騰しました。哀れなヴィオッティは後年自らの名がつけられたその愛器を惜しむあまりレプリカ製作を職人に依頼するほどでした。
 楽器の方の「ヴィオッティ」は1897年にヴァイオリン取引で有名なヒル商会に渡り、その後は当時の大立者とヒル商会の間の何度かの取引を経て1924年にスコットランドの匿名希望の貴族のものとなります(購入価格は8000ポンド:※1)。そして2年前この購入者の息子が死亡し、楽器は税金代わりに英国税局に物納されて現在に至ります。英国税局は早期の現金化を望んだため、今回「ヴィオッティ」をオークションに掛けることになりました。
 この貴重な財産をイギリス国内に留めようと英王立音楽アカデミー(RAM)が獲得に動いているのですが、落札予想価格が700万ポンド(約14億円)以上となるこの楽器を落札するための資金が足りません。そこで以前にもベラスケスの絵画の流出を食い止めるために活用した実績のある国立美術収集品基金(National Art Collections Fund)を緊急に運用することを検討しています。そして広く関心を持って貰うための一環として1801年以来殆ど演奏されることのなかった(※2)「ヴィオッティ」をRAMの教授のClio Gould氏に演奏してもらい、さらにこの模様をBBCでオンエアすることで国民の関心(というかパトロンの登場!?)を煽っています。
 まあ私としてはこの楽器が公の場で耳にすることができるのなら、イギリス人であろうとなかろうと誰が保有しろうが関係ありません。大富豪と噂されるこの方の御尊父でもいいですし、とても太っ腹なデンマークの海運王でも構いません。ホント、ちゃんとアーティストに演奏させてくれるのならこのお方に落札して頂いても全然OKです(笑)。ぶっちゃけこの社長にかかれば14億なんて余裕でしょ。

(※1)ヴィオッティが手放した時の金額と較べると「あれっ」と思いますが、ソースには確かにこう書いてあったのでそのままカキコいたしました。
(※2)200年の休眠中に試奏の機会に恵まれたヴァイオリニストは数えるほどしかいません。ユーディ・メニューイン、国税局の依頼で音出しをしたジョルジュ・パウク、そして前述のClio Gould氏です。

(参考)
Independent. The saving of a Stradivarius (25 February 2005)

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